趣味Web 小説 2013-10-02

『銀河パトロール ジャコ』は話が盛り上がらない

この記事では鳥山明『銀河パトロール ジャコ』『COWA!』『SAND LAND』の物語を、結末まで明かしています。ご注意ください。

1.

昨日の記事では「私は『ジャコ』が大好き」という話をしたが、具体的に褒めたのは作画だけだった。いま鳥山明先生のお薦め作品を問われたとして、あまり『ジャコ』を薦めたいとは思わない。素直に『COWA!』か『SAND LAND』にしたい(どちらも品切れになっているのが悲しすぎる……)。

それは何故かというと、『ジャコ』は話が盛り上がらないからだ。

2.

「話が盛り上がる」ためにはふつう、「これからどうなるか」が作中人物と読者の両方に提示されていること、ある程度の切迫感があること、などが必要だと思う。

『COWA!』の場合

村で楽しく暮らしていたオバケたちの間でオバケ風邪が蔓延する。急いで薬を手に入れなければ、オバケたちは死んでしまう。追い詰められた主人公らは、怖い人間の助けを借り、オバケ風邪の薬を求めて旅に出る。騒動を起こしつつも目的地へ向かって進む主人公たちだったが、一人、また一人と仲間が病に倒れていく。やっとたどり着いた魔女の森には、最強のモンスターが待ち構えていた……。

危機が提示され、村を出て街を経由して魔女の森へ……というRPG的王道展開。その過程で仲間も病に倒れ、危機に追われる切迫感の表現も十分。きちんと、盛り上がる物語の型を押さえている。そこにギャグやホロリとするような展開をふんだんに織り交ぜ、話を重たくしないのがいかにも鳥山作品らしい。

『SAND LAND』の場合

干からびた世界。悪魔の王子は、父の命を受け、人間の老人とともに「幻の泉」を求めて旅立つ。ピンチ、またピンチ。しまいには、なぜか国王軍にも狙われる。その理由が明らかになったとき、主人公らの旅の最終目的地もまた定まる。決戦、そして……。

危険がいっぱいの旅はピンチの連続で、中だるみするところがない。物語が進むにつれ、次第に謎が解け、話が大きくなっていく。巨悪の構図が明らかになったところで勃発する最終決戦、そして水源解放の場面は、大いに盛り上がる。

『ジャコ』の場合

数日後に飛来する凶悪な宇宙人から地球を守るため、銀河パトロールから派遣されたジャコは、宇宙船を月にぶつけ、大盛博士の島に不時着する。博士はタイムマシンの研究者だったが、過去に実験の失敗により家族を失っていた。いまもタイムマシンは未完成で、時を数秒止めることしかできない。一方、近くの島では宇宙ロケットの打ち上げが迫っていた……。

物語は、ジャコと博士が出会い、宇宙船の修理に取り組む過程を描く。町でロケットに乗る予定のヒロインと知りあい、そのときの騒動で政府から目をつけられ……と展開するが、一向に盛り上がらない。予告された「凶悪な宇宙人の飛来」が切迫感を生みそうなものだが、そうならない。宇宙船に武器はなく、ジャコは徒手空拳で宇宙人と戦う予定だった。移動だけなら代替手段があり、宇宙船の修理は究極的には母星への帰還が目的だから、急がねばならない決定的な理由がない。

物語の結末から振り返れば、ロケットの打ち上げまでに宇宙船を修理し、燃料のスカイゴールドを入手する必要があった。博士たちの行動は、綱渡りの日程をギリギリ走り抜けたものだった。

しかし博士らは、「その日、ロケットが墜落する」ことも、「ヒロインを助けるためには宇宙船の修理と燃料の確保が必要」なことも知らなかった。だから、実際の博士たちの行動は行き当たりばったりで、切迫感に欠けている。そして読者も、「大きな話が進んでいる実感」を得られなかった。

3.

主人公らに何もかも見えすぎている物語には驚きがないが、主人公らに何も見えていない物語も、面白くするのは難しい。

なんとなく宇宙船を修理し、なんとなく女の子を助け、たまたまスカイゴールドをお礼にもらい、そうして動くようになった宇宙船とタイムストップマシンで、ロケットの墜落から女の子を助ける。全部、行き当たりばったり。

『ジャコ』の物語には、すっとぼけたリアル感がある。「知らず知らずの内にやってきたことの積み重ねで危機を回避する」のは、『ジャコ』らしいし、「そういうことってあるよね」みたいな共感もある。が、やっぱりそれでは、話が盛り上がらない。

「だからダメだ」とはいわない。なにせ、私自身は気に入ったのだ。でも、『ジャコ』を「つまらない」という人の意見も、よくわかる。

最初から本編10話+オマケ1話と予告されており、序盤に提示された要素から先の展開を考えれば、ロケットの打ち上げがクライマックスになることは最初からわかっている。著者の狙いとしては、メタ情報を有する読者は自ずと切迫感を覚えて盛り上がってくれるだろうから、あえて作中ではのんきな雰囲気を保とうとしたのかもしれない。

でも通常の漫画の読み方というのはそうではなくて、キャラの必死さや頑張りが読者の感情を揺り動かすものだ。「ジャコが宇宙人とばれて大騒ぎになったら嫌だな」くらいのドキドキ感で動いている博士や、マイペースにふるまうジャコを見ても、気分は高揚しない。

むしろ『ジャコ』がF先生の生活漫画のように、変わったキャラたちの日常を描く作品だったなら、それが週刊少年ジャンプ的かどうかは別として、いま私が書いているような不満は見当違いだったかもしれない。しかし実際の『ジャコ』は、クライマックスのために要素を積み重ねていく漫画だったのだ。

唐突にクライマックスが訪れ、たまたま問題解決の条件が整っていたので、「めでたし、めでたし」な結末に至る……そんな物語構成でいいの? という思いは拭えない。

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