趣味Web 小説 2014-02-17

「観光地で英語が通じない」問題

1.

単純な話、英語での案内にせよ、フリーWi-Fiにせよ、クレジットカード対応にせよ、コストに見合う売り上げが見込めるなら、みんなやるに決まっている。実際には持ち出しになるのが確実だから、やらない。当たり前のことだ。

「鶏が先かタマゴが先か」という話ではない。日本国内のほとんどの地域で、最初からこんなのはペイしないことがわかりきっている。もともと無理な話なんだ。

その無理を実現する知恵は、ある。募集型企画旅行すなわちパッケージツアー(パックツアー)だ。

2.

観光客が、いつ、何人くらい来るか算段が立てば、商売が成り立つ。観光客がバラバラに適当に店を選ぶと、需要が拡散してしまい、供給体制を整えても割に合わなくなる。英語でのサービスを求める観光客が、特定のお店を集中して利用することが必要なのだ。

現在でも、外国語のできない日本人は、パックツアーで海外旅行するのが便利である。日本語で観光案内を受けることができ、日本語で買い物できるお店へ案内してもらえる。固まって行動するから日本語のできる案内人を雇うことができ、特定のお店を利用するから、店番が日本語を学ぶのだ。

「英語くらい……」という人は、自分が客の95%超が日本語話者のお店で働くために英語を学ぶ気になるか、考えてみたらいい。あるいは、英語の堪能な人が、そういう場所が「自分の能力を発揮するのにふさわしい職場だ」と感じるかどうか、想像してみたらいい。

成田山新勝寺は空港の街にある大規模観光地なので、外国人観光客が多い。それでも、観光客のほとんどが日本語話者だ。だから、何割かのお店だけが英語のできる店番を置いたり、英語でメニューや商品名を表示している。観光案内所で「英語のできる店を教えてください」と頼むと、そうしたお店を紹介してもらえる。

英語OKのお店が大繁盛し、日本語オンリーのお店が寂れるなら、みな英語を勉強する。ところが、現状ではそうではない。新勝寺の参道ですら、英語OKのお店はボランティア同然である。

観光案内所の存在は、どのパンフレットにも記載されている。あるいは、英語OKのお店はホテルのフロントでも案内してもらえる。でも、そうした情報を利用しない観光客が相当に多い。何も調べず、フラッと立ち寄った店で英語が通じないといって不満に思う観光客は、身勝手だ。「少数派の知恵」を欠いている。

英語OKのお店を調べて積極的に利用する他に、英語OKの店を増やす方法はない。「英語くらい使えるようにすべき」というのは、英語を学ぶ手間に見合うだけの利用頻度なしには成り立たない。

3.

「外国人が大勢訪れたので観光地になった」場所と、「もともと現地人の観光地だった」場所とでは、根本的に違う。東南アジアでも台湾でも、現地の人々の姿しか見えないような「観光地」では、英語が通じないことが珍しくない。

ひとつの国の中でもいろいろな言語の使用者がいて、そのなかだちになる言語の需要がそもそも大きい国とも、全く条件が違う。必要に迫られてこそ学習は進む。たいていの人はお勉強など好きではない。一部の観光客を相手にするくらいしか用途がないのに英語を学ぶなんてのは、困難に決まっている。

また「フリーWi-Fiやクレジットカードが使えないお店は利用しないという人」がほとんどいない場所で、一部の観光客のためだけに対応しろというのは無茶だ。

瑣末でない違いを無視して語っても、実りはないと思う。

4.

英語のできない外国人観光客は、今でもパックツアーで大勢日本へやってきている。主に韓国、そして中国など。だんだん豊かになってきて、英語のできない非エリート層も大勢が海外へ観光旅行に出かけるようになった。行先で自国語が通じるとは思っていないから、パックツアーを利用するわけだ。

しかし英語のできる外国人観光客にとってみれば、「わざわざ不自由なパックツアーを利用してまで、観光旅行の行き先に日本を選ぶ理由はない」だろう。しかし、世界的な経済発展により、いずれ世界中の観光地が「現地の人々のための場所」になっていく。いつまでも観光地で英語が通じると思ったら大間違いだ。

いまは「国際的観光地」の場所も、国内の観光客が圧倒的多数派になれば、「余計なコスト」をかけない方が利益が出るようになる。それで、だんだん英語が通じなくなっていく。

クレジットカードやフリーWi-Fiについては、わからない。

5.

(日本国内の大多数の観光地では)「鶏が先かタマゴが先か」という話ではない、と書いた。外国人観光客が2倍に増えたくらいでは、全くコストに見合わないからだ。5倍、8倍に増えなければならない。それって現実的? 私はノーだと思う。

英語対応、フリーWi-Fi、クレジットカード対応を揃えたら外国人観光客が8倍に増えて儲かるのか? そんなわけがない。いくら「お客様のため」とはいっても、予算の枠内でベストを尽くす他ないのであり、売上がちょっとしか増えないことのために膨大なコストを投入するわけにはいかない。

「どのお店も英語に対応」は理想だが、そんなものは実現しない。無理に実現させようとすれば、誰かが不合理を背負うしかない。なんか「税金でやれ」みたいな人がよくいるのだけれど、投入した税金につりあうだけのメリットは、少なくとも経済的には「ない」。

私としては「恥ずかしくない都市」とやらを実現できたら大満足な人らだけで寄付金を集めて勝手にやってろといいたい。俺の金を使うな。

英語はともかく、フリーWi-Fi、クレジットカード対応あたりは、国内でどれだけ需要が高まるか次第だと思う。ただ、これまでの歩みを振り返るに、少なくとも短期的に爆発的に需要が高まるとは思えないな。

Information

注意書き