JIS X 8341-3 の解説書です。Web アクセシビリティについて JIS が制定されるに至った経緯・社会的背景から説き起こしており、現場の方だけでなく、素養として勉強しておきたい方にも十分役に立つ1冊となっています。また第3章「自治体・公的機関・企業における実践」はよくまとまっており、JIS は読んだ、さてどうしよう、という段階までサポートしています。
じつは JIS X 8341-3 自体はテクニック集であり、その内容をチェックしたいだけならば、原文をそのまま読んでも大差ありません。デザインや構成こそ難解に見えても、本文を読み進めれば、意外にスッキリわかりやすい文章・解説となっていることに気づかれるはずです(注:JIS X 8341-3 には本文の他に多くの補足説明が添付されており、本書の内容とかなりの部分で重なっています)。
本書の白眉は、例えば「2-4 情報アクセシビリティの確保・向上に関する全般的要件」のような、JIS では抽象的な文章で簡単に片付けられ、しかも補足解説の足りない部分について、その意図するところを詳説した部分。補足がないため、原本を読んでいると軽視しがちです。
なお、本書はあくまでも JIS X 8341-3 の全体像と背景事情、さらに対策の概要を示したものであり、JIS の抱える限界をそのまま引きずっているので注意が必要です。JIS の内容の多くは、「ある問題について、現時点の状況を鑑みた当座の解決策の一例を示す」形式です。これを「この場合はこうせよ」と解釈してしまうと、思考が硬直化します。「なぜ?」を基点とした新たな正解の模索を勧めます。
本書は通読型解説書なので、「現場の疑問をその場で解決」といった目的なら「ウェブ・アクセシビリティ&ユーザビリティ―誰もが使いやすいウェブサイトへ よくわかるトレーニングテキスト」がよいでしょう。