本書は「金利を上げて景気回復」といった主張が選挙で通用してしまう日本の現状を憂う高橋洋一さんが、金融緩和派の主張をサッと読める形でまとめたものです。「世界一簡単な金融政策の入門書」と謳っていますが、「円高」「円安」「中央銀行」「財政政策」「金融引き締め」といった言葉は説明なしに登場しますからご注意ください。
本書の主張は以下の通りです。
・金融政策は遅れて効く。
・重要なのは名目金利ではなく実質金利。
・金融緩和を伴わない財政政策は無効。
・為替の安定、貿易・資本移動の自由、金融政策の独立性の3つを同時に達成することはできない。為替の安定を諦め、経済厚生の損失を最小化する金融政策を行うべき。
・景気の好不況に強く影響するのは個別物価ではなく一般物価。
・物価の上方バイアスに留意すると日本はデフレ継続中。
・日本銀行は適切な物価水準の目標を設定し、デフレを脱すべき。
・バブルを金融引き締めで予防するのは困難。事後の対応に十全を尽くせ。
・金融緩和を伴わない為替介入は無効。
・為替は金融政策による緩やかなコントロールが望ましい。
【高橋さんの提言】
需要の急速な減退により深刻な不況が生じている現在、欧米と同様、大胆な金融緩和を行う必要がある。また財政再建は増税ではなく景気回復による増収を考えよ。量的緩和と政府通貨の発行を行うべし。
私は高橋さんの主張に概ね賛成するのですが、異論の持ち主(日銀など)に対して「無能だから」「無責任だから」「私的な利害を優先しているから」といった類の説明をしているのはいただけません。実際には「議論の前提が異なるから結論が違う」のです。例えば国際金融のトリレンマについて「金融政策の自由度より固定的な為替相場を選択する」など。中傷を避け、ていねいに議論の前提を争ってほしいと思います。