Book Guide 2009-03-18

危機を超えて──すべてがわかる「世界大不況」講義

危機を超えて──すべてがわかる「世界大不況」講義

伊藤元重さんの持論がまとまった本

一般向けの経済評論です。世界金融不況そのものの解説は新聞レベルにとどめ、「この危機をバネにして取り組むべき経済改革のアイデア」を豊富に紹介した1冊です。

議論の前提として、ミクロの個別事例や伝聞情報などが重要な位置を占めるのが本書の特徴です。グラフが4つに絞られるなど、客観的なデータが乏しい。新時代に向けた提言なので過去のデータをもとに実証的にアイデアを検証するするのは難しいのかもしれませんが、私は何度も「本当にそうなるだろうか」と引っかかりました。

例えば「3年後から毎年1%ずつ消費税を増税+税収を前倒ししてのケインズ政策」で不景気を脱出できる、というご意見。論理は明快で、均衡財政乗数原理も理解できました。しかし1997年の消費税増税は需要不足による長期デフレ不況の入口でした。過去の事例の実証分析なしに、「今度は大丈夫」と信じるのは抵抗があります。

同様に円高チャンス論も素直に頷けませんが、その前提となる円安バブル論にも首を傾げました。著者は実質実効為替レートのグラフから超円安による持続不可能な輸出依存経済だったと結論しますが、デフレの悪影響を等閑視する分析です。名目実効為替レートを見るのが妥当では?(この場合「超円安」は観察されない)

データがない、あっても納得できない、といったわけで判断を保留したい部分の多い1冊でしたが、「自由主義経済の終焉」といった議論とは一線を画した経済学的な物の見方が貫かれており、面白く読めました。著者の持論が不況の解説を軸に読みやすくまとまっています。

なお世界金融不況そのものについて理解を深めたい方には岩田規久男「世界同時不況」、原田泰「世界経済同時危機」をお勧めします。

Information