マクロ経済の豊富なデータをもとに俯瞰的な視点から落ち着いた議論を展開する、一般向けの経済書です。今般の世界同時不況からの脱出策、2000年代に世界各地で経済が高成長した(が挫折した)理由、今後数年の経済展望とリスク要因に関心のある方にお勧めします。
1~4章:今般の世界同時不況が生じた仕組みを整理・解説、過去の恐慌と根幹部分が共通することを明らかにし、経済史上の成功例・失敗例の分析から恐慌脱出の方策を示します。
5~7章:2007年までの世界的な経済成長の構造を検討し、アメリカから始まる景気回復、EUと新興国の成長減速、日本のデフレ再突入と停滞を展望します。最後に、今後のリスク要因と対応の大枠を提示します。
サブプライムローン問題そのものは新しい問題ながら、市場の一部で生じた問題が金融危機を招き、さらに実体経済へ波及し恐慌となる大枠の構造は、1907年恐慌、世界大恐慌と類似しています。ならば、歴史の教訓 1)金融システムの護持 2)大規模な金融緩和によるリスクを取りやすい経済環境の整備 3)財政支出による将来見通し(期待)の改善促進 に学ぶことで脱出が可能かもしれない。
本書は文章の構成が明快で読みやすく、終章のていねいなまとめも復習に便利です。豊富なデータをもとに抑制された筆致で議論が展開されますので、著者と見解を異にする方でも落ち着いて読めるでしょう。
なお、恐慌脱出策は岩田規久男「世界同時不況」、今後の展望は原田泰+大和総研「世界経済同時危機」を併読されると理解が深まります。なお本書が多くを語らない金融危機の防止策については竹森俊平「資本主義は嫌いですか」、岩田規久男「金融危機の経済学」が参考になります。