アルファベット順でHTMLの要素とCSSのプロパティを掲載している中級者向けの辞典です。HTML4.01とCSS2に準拠しています。
アンクのHTML辞典ではおそらく唯一、巻末付録ではなく本編の解説でHTMLの各要素・属性が定義されている文書型が明記されています。またCSSの各プロパティについて適用要素、初期値、継承の記載あり。
惜しいのは、各要素の直下に配置できる要素について説明がないこと。DTDにある程度の簡易表記なら、必要なスペースは高々3行。記述例や表示サンプルをほぼ割愛して初級者お断りの姿勢を明確にしているのだから、表組み等を駆使してコンパクトなレイアウトを実現し、スペースを捻出してほしかった。
中級者向けの辞典なら、入れ子リストの正しい記法くらいは確定できるものを選びたい。私は「詳解HTML&XHTML&CSS辞典」または「標準HTMLパーフェクトリファレンス」の優先的な検討をお勧めします。
HTMLとCSSの入門書です。まずHTMLとCSSの初歩を解説。続いてHTMLはタイトル、見出し、段落、改行、強調、リスト、画像、表組みの基本的を紹介。CSSは背景色、文字色、文字サイズ、行間、余白、強調設定、リンク文字色、外部CSSファイルとその編集、回り込み、表の装飾を簡単に説明します。付録はWebサイトの公開法です。
HTMLとCSSの役割分担を明確にして、文書の装飾は初手からCSSで行っていく構成がよい。できるシリーズらしいステップの細かい図解は、小さな版型でも健在。きちんと手を動かして追っていけば、簡単なHTML文書を作成し、CSSでシンプルな装飾を行える水準まで、無理なく技能を高められるでしょう。iPhoneや携帯電話のフルブラウザなどでの閲覧を想定する個人サイトの作成なら、本書の解説のみで何とかなるかもしれない。
ただし「できるホームページHTML入門」からページの面積を半減、ページ数を3割減した本書は、さすがにパソコン自体に不慣れな方への対応を大幅に略しているし、複数のページでWebサイトを構成する手順の解説など、きわめて基本的な内容も削られていたりします。薄いから簡単というわけではないので、実力に見合った本を選んでください。
本書は到達点が低く設定されており、初心者が入門レベルを駆け抜けるために用いるのが一般的かと思います。次の1冊には「HTML/XHTML&スタイルシート デザインブック」をお勧めします。
副題の「自分だけのホームページ、作れば世界がグーンと広がる」が本書の要約となります。多くの類書と異なり、HTMLやスタイルシートといった技術にはほとんど触れません。簡単ホームページ作成サービスなどの活用を前提として、その他の「もっと大切なこと」の解説に注力するのが本書の特徴です。
どんなテーマのWebサイトをを作ろうか。サイトの構成はどうしよう? テーマに見合ったページの見せ方、デザイン、配色とは? おしゃれな画像やロゴの入手・作成法、満足できる写真の撮り方。アフィリエイトでお小遣い稼ぎ。ネットショップに挑戦! ……ざっと本書の扱う内容をまとめると、こんな感じです。
イラストいっぱいのかわいい本で、図解が大きく文字もページも少なめですから、サラッと読み通せるでしょう。「これからのホームページ作成入門」は、本書のような、自動化が困難または不可能な、人が自分の頭で考えるしかないことを解説するのが主流となっていくのが自然だと思います。
もちろん、全く自分の思い通りのデザインを実現しようとすれば、結局はHTMLやスタイルシートなどの知識が必要になることは、本書でも説明されている通り。そうした方のために「作れる!わたしのWebサイト」をご紹介しておきますが、本書読者の大半には無用かもしれません。
HTMLとスタイルシートの辞書的な解説に、ホームページを公開する方法、ブログとアフィリエイトの解説を加えて「ホームページ作成」の初級解説書とした1冊です。
見開きで1項目を図解する紙面・構成は、「速効!図解」シリーズを踏襲し配色を淡色に改めたもの。安定して見やすく、親切です。順を追ってきちんと読めば正しい知識が伝わるよう意を払って執筆されており、好感が持てます。
例外は外部スタイルシートの活用。style属性と同様、ヘッダー内への記述も常用は避け、外部ファイルこそ常用すべき。それなのにほぼ全てのサンプルがヘッダー内にスタイルを記述しているのは残念。
その他、入門レベルの読者にとっては、各項目の解説・サンプルが独立しているのは、自分で手を動かしながら学習する場合に負担が大きい。また、複数のHTML文書でWebサイトを構成すること、画像の保存場所とパスの指定など、初心者の躓きやすい事項へのフォローが不足しています。
初級者の再入門用と割り切れば不都合ないとしても、タイトルと内容には齟齬があります。前段の問題や、ブログ等の解説が浮いていることは、[HTMLとCSSの辞書的な初級解説書]から 旧著を経て多くの原稿を流用し(図版などは適宜更新)、そこに少し解説を足して本にする編集方針に起因しています。
HTMLなどについて概ね正しい解説を行う本が増えた現在、個々の解説の正しさだけでは高く評価できません。「Webサイト作成の入門書」としては「作れる!わたしのWebサイト」などの方が優れています。
Webサイト作成の入門書です。できるシリーズらしく、文章による説明を極力排しながらも、HTMLとCSSを正しい手順で学べるよう注意深く構成されています。
パソコンの基本操作にも不慣れな方を対象としており、「作業フォルダの作成」など類書が見落としているステップまでフォローしています。画面写真のステップの刻み方が細かく、キーボードやマウスの操作について詳細に記述。通読型の解説書として構成が工夫されており、展開を見失いにくい。また各項の要点が整理されているので、読破後の辞書的な利用にも対応します。ホームページの公開や画像処理の解説があり、付録のCDには素材集も収録されていますから、この一冊でWebサイトを完成できます。
分厚い本ですが、まず頑張って5章まで進めて、HTMLの初歩を学び、1ページ完結のWebサイトの公開までこぎつけてください。毎日1時間程度取り組めば、5章まで2~5日で修了できます。以上で満足してもよいですが、以降、6章のスタイルシートによるデザイン手法、7章の画像の利用、8章の表組み、9章の複数ページでサイトを構成する方法までは、なるべく順番に学習しましょう。残る10・11章は、必要に応じてお勉強してください。
初歩レベルの解説に注力する本書は、操作ステップの図解が詳細な代わり、全304頁を修了しても到達レベルは高くありません。例えばHTMLに様々なバージョンがあり、本来は文書型宣言でバージョン示す必要があることは解説されない。また「AするとBできる」という解説に終始し、「Cはダメ。理由はD」といった説明が少ない。
本書は良い入門書ですが、修了後、HTMLなどについてもっと理解を深めたい方もいると思う。次の1冊として「作れる!わたしのWebサイト」をご紹介しておきます。
XHTMLとスタイルシートによるWebサイト作成の入門書です。サンプルのWebサイトを製作する過程を体験してもらうことで、だいたいのイメージを掴んでもらうことを企図した1冊です。
完成するページの見栄えに洗練された印象があること、修了に多くの時間を要しないこと、前記を実現するため解説項目の網羅性をハッキリ犠牲にしていること、などが本書の特徴です。サポートページからサンプルをダウンロードできますが、本文とサンプルを見比べるだけで勉強した気になるべきではありません。
個人差がありましょうが、自分できちんと手を動かしても、1日30分~2時間×7日間で画面写真通りのWebサイトが完成します。せっかく文法等の解説以上に実作業のステップに多くの画面写真とページを割き、またなるべく簡潔なサンプルソースとなるよう工夫されてもいるのです。内容の絞り込まれた本なので、解説されている事項全て吸収するつもりで取り組んでいただきたい。
本書のタイトルには「マスターする」とありますが、実際には何をマスターできるわけでもありません。知識面では最低限のラインだと思う。ただ、HTMLとスタイルシートの使い分けについは、体験からある程度のイメージがつかめるのではないか。「それだけ」とはいえ、これがなかなか貴重なのです。
修了後、次の1冊へ進みたい方には「HTML/XHTML&スタイルシート デザインブック」をお勧めします。本書を気に入った方なら親しみやすい、作業ベースの構成を採用した良書です。また本書と比較検討してほしい(解説スタイルの異なる)本として「作れる!わたしのWebサイト」をご紹介しておきます。
HTMLの初歩からはじめて、最終的にかなり見栄えのよいデザインのWebサイトを完成させる1冊です。膨大な知識をハイペースで紹介します。とくに付属のDVD(120分)は相当に駆け足なので、少しずつ視聴するか、確認用と割り切ってください。
目標到達水準が高いので、「読むだけ」でわかったつもりになると途中で置いていかれます。本文中のサンプルは要点を抽出したもので、今何を学んでいるかがわかりやすい代わり、全体像が把握しにくい。初学者の方は、きちんと自分の手を動かして作例を追うべきです。あるいはせめて、サポートページからサンプルをダウンロードし、サンプルの記述を1行ずつ確認しながら読み進めましょう。
タイトルに「世界一やさしい」とありますが、Windowsや、メモ帳、Internet Explorerなどの基本操作は前提の技能となっています。また作業過程のステップを追った解説は「できるホームページ HTML入門」や「一週間でマスターするXHTML & CSS for Windows」と比較して簡潔にポイントを絞ったもの。結果、1ページあたりの情報密度が高い。やはり入門書というより初級の解説書というべきだと思います。
本書のHTMLとスタイルシートの解説は穏当な内容だと思います。しかし入門書ならば、初学者が最も誤解しやすい「マークアップの考え方」をもっとていねいに教えてほしい。本書で最後に完成する作例は素敵ですが、個人的には、少し地味でも入門書としては「作れる!わたしのWebサイト」を勧めたいです。
4つの経済危機のエピソード「1930年代の大不況」「1970年代の大インフレ」「1990年代以降の日本の大停滞」「2000年代の金融不況」について、経済学史の研究成果を整理して提示する本です。経済危機の原因と対策について理解を深めつつ、経済思想の変遷と経済学の歴史も学ぶことができます。
著者はエピソード1,2,3を各々3章構成で描きます。まず、危機発生の背景にあった政治家、経済学者、実業家らの考え方をまず紹介します。続いて、実際に危機が進行・顕在化し、対処・沈静化する過程を、学者らの議論の展開と平行して整理・紹介します。最後に、後代の学者の研究を踏まえて問題の再検討を行い、危機の教訓を導き出します。エピソード4は2章構成で、過去の危機との比較分析や、教訓を踏まえた対応策の考察がなされています。
危機の教訓は「マクロ経済学への教訓」「経済政策形成過程への教訓」「歴史を学ぶことへの教訓」としてエピローグにまとめられています。本書で繰り返し語られるのは、基本的な理論の大切さ、経済主体の持つ知識・思想が政策に及ぼす影響の大きさ、歴史に学ぶ有用性と難しさです。とくに経済主体の思想と出来事の相互作用に注目しているのが本書の特徴で、経済と人類の関係は今後も試行錯誤の段階にあることがよくわかります。
ていねいに様々な学説と議論を紹介する本書は、一般向けの経済書としては貴重な存在です。全11章の本文は285頁で終り、残りは膨大な参考文献の一覧と索引になっています。四六版ソフトカバーで装丁がちゃちな感じはしますが、構成の練られた読みやすい本なので、ぜひ多くの方に読まれることを期待します。
高橋洋一さんの活動再開となる一般向けの経済評論です。序章に活動自粛の原因となった事件の顛末が記されています。温泉施設のロッカーで見つけた時計と財布を忘れ物として届けるつもりで手にしたが、マッサージ後に居眠りして度忘れし、施設を出たところで警察に事情聴取された、とのこと。書類送検後、不起訴処分。
事件前に書き上げていた原稿をアップデートした本なので、昨秋から今春にかけての麻生太郎政権の経済政策、ことに与謝野馨財務・経済財政・金融担当大臣の主張に対する、金融緩和+構造改革派の立場からの批判が中軸に据えられています。
基本的な主張は「この金融政策が日本を救う」を踏襲しており、日本経済の需要不足を解消するため大胆な金融政策を行うことが大切で、金融に手を付けず財政出動だけを行ったり、構造改革を後退させるのは間違いだ、というものです。ただし、昨秋以降の議論の盛り上がりを背景に政府紙幣に関する記述が厚いこと、様々な各論に踏み込んでいることなどから、295頁の厚さとなっています。
本書の副題には要注意。著者は2010~11年の需要不足を80兆円と見積もり、政策を総動員して75兆円を手当てせよ、と主張します。これを「不可能」とする官僚に反論するのが「官僚が隠す75兆円」の意味で、いわゆる「埋蔵金」が75兆円あるという内容ではありません。
私は著者の主張に多くの点で賛同しますが、各論に踏み込むなら根幹の論理だけでなく、根拠となる事実をもっと明示すべき。自分でデータを探し、照合しつつ読むのは一苦労です。また金融緩和の必要性や産業政策への批判といった大きな話題と、政府紙幣の是非などの各論を並列に書く構成や、議論の要約が整理されないことも残念。半年間、編集者は何をしていたのか。
Webサイト作成の初級解説書です。無料ソフトを駆使し、初級者にも扱いやすい便利な制作環境を整えるところからはじめて、総合チュートリアルとなっています。
HTML、スタイルシート、各種フリーソフトの操作方法、様々なウェブサービスの利用法、JavaScript、画像・動画の加工、サーバーの選択、フリー素材とテンプレートなどなど、趣味のWebサイト作成に有用な多くの知識をカバーしているのが本書の特徴です。日記と掲示板とアルバムのあるサイトを作りたい、といった方にはとても便利だと思います。ただし本書の解説は、入門レベルからスタートするものの、かなり駆け足です。ウェブの閲覧とパソコンの基本操作には慣れていることが前提となります。
本書はOSやブラウザの変遷に合わせて何度も改訂されてきた人気シリーズの2009年10月現在の最新作ですが、HTMLとスタイルシートの解説スタイルは時代遅れ。マークアップと装飾は基本の考え方を十分に解説しないと初学者は必ず勘違いします。そこを簡単に済ませて「タグ」ばかりたくさん教えるのは感心しません。堅実に地歩を固めたい方には「作れる!わたしのWebサイト」をお勧めします。
次の改訂では、HTMLとCSSの解説は簡略化し、作成ソフトや、MilMilとかジオクリエーターなどの自動HP作成サービスの解説を充実してほしい。本書の解説に従うと、掲示板・ブログ・Webアルバムなど日々更新される主要コンテンツは外部サービス任せとなり、自作するのはサイトの表紙+少々くらい。ならば割り切った構成とした方が問題が少ないと思う。
XHTMLの初級テキストです。Web標準の要となるHTMLの考え方を端的に解説しており、その正しい使い方を短時間で学ぶことができます。A5版、2色刷り、(リファレンス等を込みで)176頁のコンパクトな本で、章立ては以下の通り。
第1章 タグとは何か
第2章 基本ルールを覚えよう
第3章 XHTML文書全体の書き方
第4章 CSSレイアウトのための調整
第5章 さまざまなタグを活用する
第6章 Webアクセシビリティ
第7章 XHTMLの良い書き方・悪い書き方
「基本となる考え方」「タグの付け方のルール」「実践での作業方法」に内容を絞り、XHTMLの要素と属性の紹介は最小限。その分、要素の分類と入れ子ルールがていねいに示されるなど、初級の解説書としては文法の基礎の説明が異例の詳しさです。本書の後半では、アクセシビリティの考え方と具体的な方策など、辞書的な解説から抜け落ちがちな、しかし大切な内容を取り上げています。
おそらく講義では自学自習を要求される巻末のXHTML1.0リファレンスは、要素の意味、直下に配置できる要素、属性などが一目で把握できる、充実した内容。その上で希望を書けば、紙面をカラー化してXHTML1.0の3つの文書型の差異をビジュアルに表現し、属性の情報をもう少し詳細にしてくれたら、もっと便利でした。
最後に、学校の講義とセットなら初心者でも本書で学べますが、家庭での自学自習なら「作れる!わたしのWebサイト」など、もっと易しい本を最初の1冊にしてください。2冊目以降ならOKです。
中級者向けの辞典です。解説する範囲は、HTML 4.01、XHTML 1.0 SE、XHTML 1.1、XHTML Basic 1.1、およびCSS 2.1 CRです。
膨大なW3C勧告の内容を、正確さを損なわず平明に整理して紹介する、という編集方針が本書の特徴です。全ての要素、属性、プロパティ、値について、必須/任意選択/非推奨/仕様外を区別して端的に記述。ブラウザの対応状況は WinIE5-8、FF1.5-3、Chrome2、Opera7-9、Safari2-4、iPhone、MacIE5の17種を調査。対応ブラウザのない項目も粛々と解説。各社の独自拡張は補章で最低限の情報を紹介しています。
HTML の解説はとくに素晴らしく、各バージョンの仕様の違いが明瞭にわかります。また各要素の直下に配置可能な要素の一覧を示した付録「DTDでの要素の定義」は大いに役立ちますし、ABC 順の索引にもなります。本書を十全に活用すれば、通常の範囲で仕様書の原文を調べる必要は、ほぼなくなります。
第1版以来、類書と一線を画す至高の辞典の地位は不動ですが、次の第5版ではHTML/XHTMLのリファレンスを見直してほしい。直下に配置できる子要素と属性の一覧が1ページにまとまっていると便利なのです。同著者の「Web標準テキスト(3) HTML/XHTML」のリファレンスをベースに工夫していただければ……。
第3版との大きな違いは、近年のブラウザ開発状況を鑑みてCSS解説の準拠仕様をCSS2からCSS2.1CRへ変更、対応状況の調査対象にIE8などを加増、の2点。買い換えの価値はあります。
実作業を外注先にお願いしているWeb担当者が、打ち合わせの場で専門用語を織り交ぜた営業トークに翻弄されないよう、広く浅く基礎知識を勉強するための本です。
左ページに解説文、右ページに図解という見開き形式のレイアウトで統一され、全体の構成は、1章:Web技術の概要、2章:HTML、3章:CSS、4章:Webサーバー、5章:Webアプリケーション、6章:セキュリティと法律……となっています。
総花的な内容なので、ひとつひとつの説明は百科事典的なものとなっています。HTMLとCSSについては文法の初歩が記載されているものの、自分で自在にページを作成できるようにはなりません。が、それは本書の欠点ではなく、むしろ美点です。Web担当者が知っておくべき上流の内容については先端知識の要約を紹介しつつ、下流のコーディング知識はバッサリ略す、そうでなくては時間がいくらあっても足りない。
本書は実作業を外注に出す側の都合で統一されているため、Web標準に関する説明をはじめとして教条的な記述が目立ちますが、これも悪いことではないと思います。
なお、意外と文字量は多く、一夜漬けは難しいでしょう。数日かけて、要点をノートなどにまとめながら読まれることを勧めます。またセキュリティに関しては、実作業を外注に出すWeb担当者でも、もう少し詳細な知識が必要になりそうです。一般常識としては十分な内容だと思うのですが。
HTMLとCSSの中級辞典です。精緻な表組みを駆使した情報密度の高い紙面、全頁で解説文や表の中の多くのキーワードについて参照ページを毎回付記、複数のサンプルを紹介、「NOTE」として使用上の注意点を記載、W3C非推奨・ブラウザ独自実装といった情報も一目瞭然……といった特色があります。とくにキーワードの参照ページ情報は便利で、索引を使わずに関連情報をどんどん調べられます。
本書の欠点は、HTMLの体系的な学習・理解に使えないことです。HTMLには複数の仕様があり、主要部分は共通ながら、少なからぬ要素・属性が一部の仕様だけに規定されている他、仕様間には規定内容の差異もあります。この複雑さの背景には膨大な議論の積み重ねがあり、それぞれ意味があります。ところが本書では、非推奨と独自実装は明記されているものの、個々の要素や属性がどの仕様で認められているか、きちんと示していない。
例えばXHTML1.1ではruby関連の要素が規定され、frameなどが削除されましたが、本書からその事実を感得するのは、ほぼ不可能です。この欠点は改訂版でも第1版と同様であり、意図的な編集と私は理解しています。各要素の内容(包含要素)を示すなど、よい試みがあるだけに残念です。
DTDに基づきHTMLを厳密に解釈するウェブブラウザがない以上、本書が「実務で役立つ情報」に注力し、解説の対象と範囲を「適当」に選択したことは理解できます。したがって学習用途には正統派の「詳解HTML&XHTML&CSS辞典」を強くお勧めしますが、本書も実務者には便利な1冊だと思います。
入門・初級レベルの傑作解説書です。まずホームページのテーマを決め、構成やタイトルを思案する段階からていねいに説き起こします。続いてWebページ作成の道具であるHTMLとスタイルシートをやさしく解説。さらに配色の基本や公開手順、その後の運営・管理のアドバイスまでを扱います。
本書の特徴は、「なぜ?」を大切にした解説です。入門書にありがちな不正確な用語・説明を避けつつ、ひとつひとつ納得しながら理解を深めていけるよう工夫されています。そのため、HTMLやスタイルシートといった技術の背景にある考え方まで、自然と身につきます。類書の多くとは一線を画す到達水準です。
320頁と分厚いのは、作成だけでなく企画・運営についてもきちんとサポートしているためです。落ち着いたカラー紙面に見やすいレイアウト、豊富な図解とサンプルの紹介あと適度な余白にスペースが割かれ、解説文は文字が大きくコンパクトにまとまっています。初心者でも短時間で読めるでしょう。
ブログなどが普及した今も、企画・運営やデザインの調整には様々な知識が必要です。これからWebサイトをはじめる方、HTMLとスタイルシートの再入門を希望される方に、自信を持ってお勧めします。
ただし本書を読了しても希望するデザインを自在に実現するには至りません。「次の1冊」として「HTML&スタイルシートレイアウトブック 改訂版」をご紹介しておきます。
[旧版との差異]2色刷り→オールカラー、CSSによる段組の解説を追加、IE8対応、資料の追加など。
古の神々が遺した秘宝を求めて行方不明となった父を追い、幼馴染とともに主人公は旅立つ。秘宝とは何か、父の目的、新しい神々……主人公は次第に世界の中心へと導かれてゆく。
1990年にゲームボーイ用ソフトとして発売された人気RPGのリメイク版です。舞台は人間、エスパー、メカ、モンスターが共存し血縁関係を持つカオスな世界。最初に4種族を自由に組み合わせて4人PTを結成。以後PT変更は不可。上画面が3D表現の冒険画面、下画面が2Dのミニマップとメニュー。ターン制コマンド式バトル。シンボルエンカウント。どこでもセーブ可能。終盤のイベントまでは全滅→戦闘に再挑戦、イベント後は全滅=リセットです。
1周クリアの目安は12~20時間。物語は一本道ながら、攻略の戦術はPT編成次第で大きく変化。コンパクトな作品を何周もして、戦術の工夫を楽しむ作り。戦闘の早送り機能や、セリフが刈り込まれたシンプルなイベント演出は、全て周回プレイを見越したもの。じっくりと1周でコンプリートを目指す作品、セリフが小説よりも多いイベント演出重視の作品とは一線を画す、レトロRPGの「らしさ」を残した作品。
さらに、地平線の見える世界を疾駆するDSの限界に挑んだグラフィック、チェーンエンカウントで数十体の敵に不意打ちを食う恐怖、連携攻撃で強敵を一掃、ミューズの助けで3人死亡1人瀕死の絶望的状況から大逆転、などなど現代の技術でゲーム性を高める工夫も豊富。素晴らしい作品だと思います。
不満点は、1)画面切替後の3D画面の方向が「キャラの正面が上」なこと。「北が上」で固定されたミニマップに合わせ、3D画面の初期方向は「北が上」が便利だと思う。2)マップアビリティの変更が面倒。3)漢字が難しく小学生に敬遠される。社長が講演で自社製品購買層の高年齢化を憂えていましたが、ポケモンや、小学生に売れていた頃の製品をもっと研究してほしい。
タイトルで早合点しないでください。福島瑞穂さんの編集意図は 1)様々な「産まない理由」を紹介する 2)出生率低下論議に複数の視点を提供する 3)出産・育児環境整備への要望の大きさを示す 4)生の声を多数紹介し読者に思考の契機を提供する の4点だと後書きに記されています。
本書は3部構成です。第1部は2本の対談記事による問題の概括と興味深い視点の提供、第2部・第3部は各5人(計10人)の手記による個別事例の紹介、となっています。編者の福島さんは出産・育児の経験者で、その体験を明確に肯定しています。その一方で、他者の「産まない選択」にも理解を示し、その判断を尊重します。
手記の書き手は様々です。積極的に「子どもはほしくない」という人の他にも、不妊治療に取り組んだが体外受精までは踏み出せなかった人、「2人目はほしくない」という人、居心地のよい現状を崩す動機がない人、将来的には産むかもしれない人、などなど。
一見バラバラながら、本書は「人生選択の自由を阻害する社会はよくない」という大きな主張に貫かれています。「産まない選択」が非難され人格・尊厳を傷付けられ沈黙させられることも、「産む選択」が生涯収入の激減・個人の時間の激減・教育費等の出費増など大きなコストと引き換えになることも、どちらも改善されるべきなのです。
「産まない選択」というタイトルは、本書が編まれた1992年頃に盛んだった福祉国家構築の議論が背景にあります。編者らは、出産・育児の障壁が下がった未来に「それでも産まない」人々が社会に糾弾されることを恐れたのです。現実には、その後の17年間、体感的な出産・育児の困難は増大する一方でした。
結果的に「産まない」人は「産めない」と説明すれば納得される社会となりましたが、それでよいわけがない。「産まない」選択への理解も全く進んでいない。本書の視点は現在も有効です。
主人公はポケモントレーナーのチャンピオンを志し、母に旅立ちを告げる。広大なジョウト地方を駆け巡り、ポケモンを育て、ライバルと切磋琢磨し、困っている人を助け、ロケット団に立ち向かう。長い旅の果て、セキエイ高原にて、ついに主人公はチャンピオンへの挑戦権を得る……。
1999年発売のポケモン金・銀をリメイクした、個性的なRPGです。主人公は1人で旅を続け、バトルも原則としてポケモンが1対1で戦う。バトル中、主人公は行動を指示し補助アイテムを使うのみ。旅に同行できるポケモンは6体まで、各ポケモンが同時に覚えられる技は4つまで。このシンプルな枠組みに膨大なアイデアが詰め込まれており、奥が深い。とはいえ力押しでもクリアは可能。通信対戦などに興味がなければ、話は簡単です。
ビジュアルはダイヤモンド・パール(D・P)などを踏襲。街とフィールドは連続しており、建物やゲートの出入りのみ画面切替。マップは3D、キャラと民家・施設の内部は2Dで表現。いずれも記号的なグラフィックで統一され、リアルな表現を避けています。なお本作では先頭のポケモンをボールから出して連れ歩きます。これがかわいい。
音楽は旧作の無難なアレンジです。物語も旧作とほぼ同じで、人々の頼みを聞き秘伝マシンなどを集めて行動範囲を広げ、チャンピオンロードを目指します。ジョウト地方制覇の目安は20~80時間(私は約30時間/カントー地方で+10時間でした)。
難点も少し。(大人感覚だと)エンカウント率が高い。アニメONだと戦闘のテンポが少しトロい。セーブに時間がかかる。またチュートリアルを兼ねる序盤1時間ほどの展開は、新規の方以外には少し面倒(初期状態だとダッシュ不可、木の実も採集不能)。
漢字がほとんど使われておらず、年齢を問わない作品です。多少の不満はありますが、旧作ファンにも新規の方にもお勧めします。
文庫版で500ページを超える山田悠介さんの長編小説を、171ページに簡略化して漫画化。
就労・納税をしない者を島に棄てるDUST法が成立した世界を舞台とするファンタジー作品。山田悠介作品でリアリティーを云々してもつまらない。孤島で生き延び、かすかな希望を得、しかしそれすら奪われ、最後に切ない思いを残して死にゆく主人公の悲運を素直に受け止めるのが真っ当な消費の仕方だと思う。
漫画版では、サクッと読める原作小説をさらに簡略化しています。具体的には、サバイバルの知識や工夫、努力に関する描写が、ごっそり抜かれています。わずか数コマの農作業描写だけで食糧の安定確保に成功し、衣料品や食器等の生活用品の入手方法は完全に省略。とにかく主人公らが苦労する様子がないから、島の生活自体は意外と悪くないもののように思えてしまう。また、漫画版の主人公は殺人を犯さない。これは個人的には原作よりいいと思っていて、終幕の虚無感がいっそう胸に迫る。
原作小説には「ブラブラしている若者を農村へ送り込もう」という、実際に一部の与党国会議員が大真面目に提案していたNEET対策案への風刺があります。経済学的には需要不足の社会で供給を増やしても繁栄はなく、NEETに労働を強いるのは無意味。しかし漫画版では、人生を操作される理不尽、仲間割れの怖さ、妻子を奪われる悲しみ、などに物語が集約され、徴農政策への風刺はファンタジーに埋没しています。とはいえ、原作の農業描写は取材不足が明らかで、最終的にDUST法が国の繁栄を実現するから台無し。簡略化は正解だと思う。
なお本書は漫画家・壱臣さんの初単行本ですが、絵はなかなかきれいで、コマ割りも自然、人物がきちんと描き分けられていて読みやすい。壱臣さんの今後のご活躍に期待します。
小野不由美さんが2001年に刊行された本格推理小説の佳作を原作とし、山本小鉄子さんがほぼ忠実に漫画化した作品です。2005~2006年に描き下ろし全3巻で刊行されました。今回の文庫版では1・2巻が上巻、3巻が下巻に再編されています。
犯人は島民の思考を規定する馬頭夜叉の伝説を用い、被害者を別の事件の加害者と人々に思わせ、事件の隠蔽と幕引きを狙った。しかしなぜ麻理ではなく志保が殺されたのか。また、動機のある者にはみなアリバイがある。式部の調査は行き詰った。と、そこへ意外な名探偵が現れ、快刀乱麻を断つ。全ての謎は解き明かされ、失意の主人公は一縷の望みをかけて海を渡る……。
シンプルな絵柄に膨大なセリフとモノローグからなり、絵が風景・状況・表情・しぐさ以外の情報を集約する役割に徹しているのが本作の特徴です。それゆえ読後感は小説にかなり近い。この原作を大切にする姿勢は買いますが、漫画的な情報整理の手法(人物相関図や現場の見取り図など)まで完全に排除しているのは、個人的には「もったいない」と感じました。
とくに下巻には謎解きのシーンがあります。本作のトリックの肝は「勘違い」。主人公と同様、読者も著者にミスリーディングされているのです。思い込みを突き崩すのだから、図解を取り入れ、明快に説明してほしい。ところが本作では、小説に準拠したセリフだけで解説が進んでしまう。さらに、指紋の一致については説明を省略。よく考えれば分かることとはいえ、せっかく漫画化したのだから……。
派手なアクションはないし、調査中も次々に殺人事件が起きるわけでもない。コツコツと情報を集めていくにつれ、データの充実に反して混迷が深まっていく。このフラストレーションを謎解きで一挙に昇華させる……。本作は、そうした本格推理小説の滋味を漫画で味わえる、貴重な作品です。
小野不由美さんが2001年に刊行された本格推理小説の佳作を原作とし、山本小鉄子さんがほぼ忠実に漫画化した作品です。2005~2006年に描き下ろし全3巻で刊行されました。今回の文庫版では1・2巻が上巻、3巻が下巻に再編されています。
主人公・式部剛は消えた知人・葛木志保の目撃証言を追って九州北西部に浮かぶ夜叉島へ渡る。島民の非協力的な態度のため式部の調査は難航する。島の風習、近日に起きた事件などの情報を得たものの、肝心の志保の行方はわからない。半ば諦めかけた頃、志保が島に滞在した痕跡と廃屋の大量の血痕を発見する。式部は島外の人間である僻地派遣医師・泰田均に狙いを定め、志保が死亡した事実と検案資料を引き出す。そして志保の本名が羽瀬川志保であり、島の出身者であること、そして志保とともに島へ向かった女性が志保と旧知の仲の永崎麻理だったことが判明する……。
シンプルな絵柄に膨大なセリフとモノローグからなり、絵が風景・状況・表情・しぐさ以外の情報を集約する役割に徹しているのが本作の特徴です。それゆえ読後感は小説にかなり近い。この原作を大切にする姿勢は買いますが、漫画的な情報整理の手法(人物相関図や現場の見取り図など)まで完全に排除しているのは、個人的には「もったいない」と感じました。
また、これは意見の分かれるところでしょうが、小説と漫画では得意な事件・物語の展開が異なるのでは……と私は思いました。雑誌連載ではなく描き下ろしだったこともあり、死体が登場するのは200ページ近く読み進んでから。観光資源に乏しい地味な島を巡ってひたすら証言を集め続ける展開は、漫画としては地味です。小説なら、言葉で世界を構築していくこと自体が面白みを生むのですが……。
「金田一少年の事件簿」シリーズのような、派手な展開と記号的なヒントを期待すると肩透かしを食います。腰を落ち着けて読んでください。
B・Jに救われ透視能力を得た若き無免許医・零の活躍を描く漫画「RAY」の余話をまとめた1冊です。雑誌の企画による吉富版「BLACK JACK」と、著者の次の連載「GATE RUNNER」の読切版も収録。
「RAY」は当初、月刊連載で1回あたりのページ数が多いことを活かした1話完結の連作短編形式でしたが、次第に長編連載の体裁を強めていきました。そのため中盤以降、大きな物語の流れから外れた物語の入り込む隙がなくなってしまいました。具体的には、院長、看護士、賢治くんら、魅力的なサブキャラクターをフィーチャーする物語と、本編スタート以前を舞台とする物語が省略されたわけです。
本書にはまさにそのサブキャラ中心の物語と、過去を舞台にした物語が収められています。とくに本編のプロローグにあたるKarte.5は本編読者待望の作品。また医療行為と全く無関係な作品が3話あるのも特徴でしょうか。何でもありのようで意外とストイックだった本編をきっちり補完する楽しいオマケだと思います。
B・Jに救われ透視能力を得た若き無免許医・零の活躍を描く漫画の第7巻(完結)です。非現実的・非科学的な設定、超人的な身体能力を持つキャラクターを豊富に詰め込みながら、絵の迫力と物語の魅力で引っ張っていく、漫画の力強さを持った作品。
永遠に記憶の世界を繰り返す不老不死か、まだ見ぬ未来か……人生を選択する第7巻。30話から最終回34話までを収録。
Kranke.30:遺伝子はコピーでも心は私のもの……3人のクローンがそれぞれの一歩を踏み出す。
Kranke.31:記憶を継続して人生をやり直す……コーイチの計画が動き出す。そして零の眼の行方が判明する。
Kranke.32:かつて零が探し求めた、零の生まれ育った施設でコーイチは待っていた。零はかつてコーイチと語り合った夢を思い出す……。
Kranke.33:コーイチと篠山、零の選択は……。
Kranke.34:エピローグ
ほのかが生まれたのが11年前。組織はその時点で研究の目的を失っているので、その後も研究を続けてきたコーイチが技術水準を一段上げたことに物語的整合性はあります。これによりクライマックスの零の選択が読めなくなります。しかし特異な世界の特異なキャラクターが展開する物語も、読者が一般人である以上、大枠ではベタな着地点を求めるもの。予定調和の結末は、商業エンターテインメントとして正解だと思う。
B・Jに救われ透視能力を得た若き無免許医・零の活躍を描く漫画の第6巻です。非現実的・非科学的な設定、超人的な身体能力を持つキャラクターを豊富に詰め込みながら、絵の迫力と物語の魅力で引っ張っていく、漫画の力強さを持った作品。
組織の目的が判明、零・ONE・ほのかが一堂に会し、彼女らのアイデンティティーが揺らぐ第6巻。コーイチたちの協力もあり、零たちと組織との戦いもついに決着する。25~29話を収録。
Kranke.25:沢病院に零そっくりのONEが現れ、オリジナルの記憶を持たない零を失敗作と断じる……。
Kranke.26:組織のトップは沢院長と師匠のかつての仲間だった。零を襲撃するONE、そこへコーイチが現れ……。
Kranke.27:ついに明らかになった組織の目的。組織のトップは部下を全員殺害、じつは失敗作だったONEも捨て、完全体のほのかとともに去る……。
Kranke.28:自暴自棄になったONEは篠山に迫るが……。
Kranke.29:零たちはコーイチの情報で組織の夢が結実した場所へ辿り着く……。
B・Jに救われ透視能力を得た若き無免許医・零の活躍を描く漫画の第5巻です。非現実的・非科学的な設定、超人的な身体能力を持つキャラクターを豊富に詰め込みながら、絵の迫力と物語の魅力で引っ張っていく、漫画の力強さを持った作品。
コーイチへの気持ちがわからなくなる零。美里の煽りやライバルの登場もあり、篠山との距離がグッと縮まる第5巻。21~24話と特別編を収録。
特別編には著者の人気作品「EAT-MAN」の主人公、ボルト・クランクが登場。「RAY」も非現実的な作品ながら、明確にファンタジー世界の住人であるボルトに零は翻弄される。唯一、沢院長だけはボルトと互角に張り合い、彼がこの世界で浮いた存在であることを再認識させられます。
Kranke.21:意識が戻ったユキヤは病院を抜け出す。零と篠山は組織の襲撃からユキヤを守り、彼の恋人を助けるため手術をはじめる……。
Kranke.22:コーイチを追う零。零への気持ちを明確に示す篠山。零の気持ちは揺れる……。
Kranke.23:篠山を慕う大富豪の娘・すみれ。だが篠山は……。
Kranke.24:組織の足跡を追って亡くなった妻とそっくりな娘を持つ村人に辿り着いた零たち。記憶が蘇るクローンとは……。
SP Kranke.:沢病院の患者を誘拐しようとする異様な男。零は男の依頼で手術を行う……。
B・Jに救われ透視能力を得た若き無免許医・零の活躍を描く漫画の第4巻です。非現実的・非科学的な設定、超人的な身体能力を持つキャラクターを豊富に詰め込みながら、絵の迫力と物語の魅力で引っ張っていく、漫画の力強さを持った作品。
ようやく突き止めた組織の臓器工場は、零の記憶の場所ではなかった。たびたび零と対決してきたユキヤとともに工場をも廃棄した組織の目的は何か? そして零の中で次第に存在感を増すコーイチがついに姿を現すが……謎が深まる第4巻。16~20話を収録。
Kranke.16:組織から心臓を買い、病気の息子に移植しようとする大富豪。零と美里ら沢病院の看護士たちは家政婦見習いとして富豪宅に入り込み、無意味で反倫理的な手術を止めようとする……。
Kranke.17:臓器工場の場所を突き止めた零は単身で突入する。組織は工場を廃棄し、次の段階へ進もうとしていた……。
Kranke.18:零は組織に切り捨てられたユキヤを助けるが、昏睡状態が続き情報は得られない。そんな折、零は師匠と再会する……。
Kranke.19:零が初めて手術に臨んだのは15歳のときのことだった……。
Kranke.20:沢病院の1病棟がバイオテロに制圧される。零はスタッフを次々手術し病原体の駆除に奔走するが、テロはコーイチがアカリボンとブルービーを連れ去るための陽動作戦だった……。
B・Jに救われ透視能力を得た若き無免許医・零の活躍を描く漫画の第3巻です。非現実的・非科学的な設定、超人的な身体能力を持つキャラクターを豊富に詰め込みながら、絵の迫力と物語の魅力で引っ張っていく、漫画の力強さを持った作品。
過去の亡霊と向き合い、仲間との絆を深める第3巻。11~15話を収録。臓器工場出身の零には、救出された前後の記憶がない。工場を管理していた組織の正体はもちろん、かつて自分がいた場所もわからない。懐かしい仲間たちとの再会が続き、かつての恋人への思いが募る。その一方で、突然現れたアカリボンや経歴不詳の篠山を組織のスパイと疑う。12話のみ組織と無関係の物語。
Kranke.11:アカリボンは無痛症のはず……零は彼女を監視しつつ、依頼を受けて前代未聞の水中手術に挑む。
Kranke.12:院長命令で不本意ながらスタントマンの緊急医としてスタンバイする零。ベテランスタントマンは息子の信頼に応え、プロのプライドにかけて危険に飛び込む……。
Kranke.13:急速に老化が進む病気の患者は組織の元構成員だった。零は彼が記憶を全て失う前に病気を治すことができるのか……。
Kranke.14:元患者の案内で廃病院に辿り着いた零。そこへ組織のトップが現れ、11年前に目の前で死んだ友達と容貌も症状もそっくりな少女を残して去る……。
Kranke.15:なぜか零の過去に詳しい篠山はかつての恋人・コーイチなのか? 零は篠山を尾行する……。
B・Jに救われ透視能力を得た若き無免許医・零の活躍を描く漫画の第2巻です。非現実的・非科学的な設定、超人的な身体能力を持つキャラクターを豊富に詰め込みながら、絵の迫力と物語の魅力で引っ張っていく、漫画の力強さを持った作品。
第2巻は6~10話を収録。6・9・10話と、零が生まれ育った臓器工場を管理していた組織との戦いが前面に出てきます。その分、1話完結で難病患者と零の物語を描く7・8話は、B・Jへのオマージュを前面に出した、結果的には「RAY」としては異色の作品となっています。
Kranke.6:院長の秘密ファイルからワクチンの製造装置にされた少年の存在を知った零は、篠山とともに謎の研究施設へ向かう……。組織の研究者、ユキヤが登場。
Kranke.7:賢治を見ると臓器工場での恋人を思い出すようになる零。そんな折、何もしていないのに身体に傷が増えていく患者が現れる……。
Kranke.8:傷口が閉じず、死を待つばかりの患者。零は患者とその家族、友人らの話を静かに聴く……。
Kranke.9:記憶をなくしたブルービーと遊園地へ出かける零。そこへ組織の人間が現れ……。
Kranke.10:零の携帯電話に、かつての友達・アカリボンから、助けを求めるメールが入る……。
B・Jに救われ透視能力を得た若き無免許医・零の活躍を描く漫画の第1巻です。非現実的・非科学的な設定、超人的な身体能力を持つキャラクターを豊富に詰め込みながら、絵の迫力と物語の魅力で引っ張っていく、漫画の力強さを持った作品。
第1巻は1~5話を収録。1話完結に近い形式で、主に零の医者としての活躍を描きつつ、物語の登場人物と大きな設定を少しずつ読者に提示していきます。
Kranke.1:シンジケートを裏切った銀行強盗グループが病気で苦しむ仲間を助けるために呼んだのは、透視能力を持つ天才外科医・零だった。妹を見捨てようとするリーダーの姉、なぜか正確なシンジケートの追跡。零は患者を救えるか……。
Kranke.2:青年医師は恋人を救うため零に心臓移植を依頼する。零は天才的な人工臓器製作者の篠山から人工心臓を受け取るが、それは女性の胸には大き過ぎた……。
Kranke.3:臓器工場で生まれ育ち、本来の眼を奪われた零。かつての仲間の一人・ブルービーが生物兵器の時限爆弾となって発見されたという情報を得て、零は街へ飛び出す……。
Kranke.4:零が看護士として働く沢医院に麻薬組織に命を狙われる男が現れた。麻酔に反応して姿を隠す腫瘍に侵された患者を救えるのは透視能力を持つ零しかいない……。
Kranke.5:外気に触れると死ぬ謎の病気を患う少年・賢治は人の思考と記憶を読む能力者。彼は新しい入院患者の少女に何かが憑いているという。その夜……。
経済学者の飯田泰之さんと反貧困運動家の雨宮処凛さんの対談本です。内容の6割強が飯田さんの発言とコラムからなり、実質的には「経済成長と適正な所得再分配により貧困は解消可能」という飯田さんの主張を強く訴える編集となっています。
飯田さんは雨宮さんの主張とその背景にある体験・イメージ・価値判断を傾聴した上で、ひとつひとつのトピックについて経済学の知見から雨宮さんの提言が実現した場合の費用と便益を提示していきます。すると、雨宮さんの価値基準に照らしても、飯田さんの示す別解の方が良案に見えてくるという仕掛け。
ただし、雨宮さんが例えば最低賃金アップの主張を今後も続けることには、飯田さんも一定の理解を示します。それはお二方の真の論敵が「世間の常識」だからです。日本人の多数派が根ざす価値観の岩盤を崩すのは極めて困難であり、飯田さんが雨宮さんに通じる言葉を模索したように、雨宮さんもまた運動家として世論に通じる言葉を選ばざるをえないのです。
貧困解消策に関心のある方へ安心してお勧めできる親切な一冊です。巻頭に雨宮さんの、巻末に飯田さんの主張がまとめられています。そして間の対談を読むと、経済失政が続いた20年の体験が経済成長論の壁となること、人々の価値観が金持ちから貧窮者へのシンプルで適正な再分配を阻むこと、つまり本書の主張が実現困難な理由もよくわかります。
類書に「経済成長って何で必要なんだろう?」があります。ご参考まで。
飯田さんは反貧困の活動家を(運動を離れた場では)納得させられる言葉を発見された様子。今後は「世間の常識」を体現するであろう方々、例えばテレビ局の解説委員さんなどと対談していただけたら嬉しいです。
少年たちがパートナーのガジェットロボに指示を出して異次元人と戦うRPGです。主人公は小学5年生ですが、難易度は低学年向け。セーブデータはひとつ。
本作では「移動」が省略されており、「自室を出る→行き先を選ぶ→イベント発生→戦闘→勝利→自動的に自室へ戻る」の流れで1話終了します。イベントは会話だけで進み、選択肢は登場しません。一部声あり。画面に登場するのは2Dのキャラ絵と吹き出しくらい。イベント中の移動も完全自動、背景画が変わるだけ。絵本を読むようなプレイ感覚です。
行き先の選択では、本編の物語が進む場所(赤星/建物)とサブイベントのある場所(青星)しか画面に登場せず、迷う心配なし。本編での戦闘回数は決まっているため、レベル不足ならサブイベント(敵が弱い)に挑戦。サブイベントでは仲間たちの性格や生活が見えてきます。
3Dのロボが激突する戦闘は、ジャンケン風で運要素が強い。戦闘中のHP回復手段はなく、互いにHPを削り合う。赤>青>緑>赤の3すくみで、攻守双方が色を選択。自分が赤アタック、敵が青ガードなら100%ダメージ、赤ガードなら50%、緑ガードなら10%です。逆も同様。雑魚は特定の色で攻撃・防御しますが、ボスは毎ターン色を変えます。運に頼って低レベルで進むもよし、サブイベントで鍛えて悪運に備えるもよし。指示をサボると、ロボは自動で行動。派手で長い戦闘CGは省略可能。
簡単といわれるドラクエやポケモンも、シリーズが進むにつれシステムが複雑化し、今や大人でも全容の把握が困難な複雑さ。だから本作の大胆に簡素化されたシステムと10時間でクリアできるボリュームには需要があります。
しかし本作は漢字を多用している(ルビなし)のが大失敗。想定ユーザーには遊べないゲームに。漢字をやめる(orルビを使う)か、戦略性・難易度・容量を上げるか……。甥っ子に贈ったが、漢字でギブアップされて悲しい。
DSカード内のセーブデータをパソコンにバックアップするための道具です。「ドラゴンクエストIX」と「ポケモン プラチナ」で正常動作確認済。説明書が英語なので、簡単に使い方をご紹介します。
【最初の準備 WinXPの場合】
a) パソコンに付属のCDを入れ、エクスプローラでCD内の\drivers\0609フォルダを開き、圧縮ファイルの「NDS Adaptor v1.0.zip」をデスクトップに解凍します。
b) NDS Adaptor をパソコンのUSBにさすと、「新しいハードウェアの検索ウィザード」が起動する。
c) Windows Update に「接続しない」を選択して「次へ」。
d) 「一覧または特定の場所からインストールする」を選択して「次へ」。
e) 「次の場所を含める」→「参照」→「デスクトップ」を選択して「次へ」。
f) 互換性未検証のメッセージが出るが、本製品のメーカーを信頼するなら「続行」。
g) 完了しました、と出るので「完了」。
【その後の使い方】
1) NDS Adaptor にDSカードをさす。
2) NDS Adaptor をパソコンのUSBにさす。
3) a)で解凍したファイルの中にある「Nds adaptor v1」というソフト(移動OK)を起動。
4) 「Back up」がDSカード→PC、「Download」がPC→DSカードです。Back up ではファイル名を指定。
5) 使用後は、画面右下の「ハードウェアの安全な取り外し」をクリックし「EMS Inter-Link Cable を安全に取り外します」。
6) NDS Adaptor をUSBから抜く。
◇フリーズ注意!◇
本製品をパソコンにさした状態でのDSカード着脱はNG
本製品をさす前にソフトを起動するのはNG
どんな願いも叶える女神の果実。だが自然の摂理を超越した力は世界に悲劇をもたらす。翼を失った守護天使は、酒場で出会った仲間たちとともに救世の旅に出る……。
ワイヤレス通信によるマルチプレイと新設計の転職システムが特徴のDQシリーズ最新作です。プレイ時間の目安は、パーティー編成とマルチプレイまで1~2時間、転職まで4~8時間、本編エンディングまで20~60時間(私は28:11)。セーブデータは「NDS Adaptor」でPCにバックアップ可能。
シナリオ本編を協力して進められるのがDQ9のマルチプレイの特色。定年退職して暇な父と、そんな父をもてあます母にプレゼントすると、とても喜ばれました。試行錯誤の末、ゲーム初心者の母がホスト、僧侶に転職した父がゲストという形で安定。父の道案内を無視して母が迷子になったり、感動イベント中に壺を割ってはしゃぐ父を母が睨んだり、自由度の高さがドラマを生みます。
職業の個性と確実な成長を両立させたのがDQ9の転職システム。職業固有の魔法と転職後も有効なスキルが分化し、魔法が復権。新しい職に就くとレベル1に戻りますが、パラメータ上昇のスキルで底上げ可能。復職すると以前のレベルへ復帰するので、気軽に転職できます。
ドラクエらしい温かいデザインは健在。待望のキャラメイクと装備品の外見への反映を3Dの特性を活かし実現。DSの制約ゆえ2Dで描かれる街の人々に溶け込む3Dキャラの表現は見事(イベントでは2Dが浮く)。切ない物語を優しく包む音楽も気に入りました。旧作の名曲も各所に登場。
その他、セリフ中の漢字にルビあり、イベントのコンパクトな演出、街の会話のユーモア、リアリティよりプレイヤーの都合を優先したスキルの数々、進化した錬金釜、スマートなクエスト処理、DQ8より高速化しつつ演出を強化した戦闘、等々、進化と工夫を感じました。
経済学者の飯田泰之さんが行ったエコノミストの岡田靖さん、評論家の赤木智弘さん、活動家の湯浅誠さんとの対談3本を中核とし、芹沢一也さん、荻上チキさんとの対談・鼎談を前後に配して序論とまとめとした「思考技術としての経済学」入門です。
「入門」といっても、対称読者は論壇に造詣が深い(しかし経済学には疎い)方々としていますので要注意。とくに説明なしにケインズ、ハイエク、フリードマンといった人名が登場、彼らの主張について読者が多少の知識・イメージを持っていることを前提に話が進みます。ですから「ケインズって誰?」という方には勧めません。
対談録ならではの読みやすさ、面白さでスイスイ読めるのが本書の美点です。ただ、前書きと後書き以外全て対談録のみとなっており、各章のポイントまとめや議論の図解などはありません。ややもすると瑣末な部分ばかり印象に残って根幹の論旨が頭から零れ落ちてしまいがちなので、ていねいに読んでください。
本書は「経済成長の必要性を説く」ことを一応のテーマとしていますが、それ以外の様々な話題に多くのページが割かれています。そのため取り留めのない本のようにも見えますが、飯田さんのスタンスには一貫性があり、それが本書の真のテーマを示していると私は思いました。
【経済学は問題・状況を分析し論者に判断材料を提供する学問なので、政策を決める価値判断とは分離できる。したがって、飯田さん個人とは価値観を異にする赤木さんや湯浅さんにも「思考技術としての経済学」は有用だ。】
論壇に登場する経済学者がみな分析と価値判断をセットで提示するため、論壇で目立つ経済学者の価値判断への反発が経済学自体への忌避感となる現状に一石を投じ、経済学のツールとしての有用性を啓蒙する意欲的な1冊。……が、ここでも多くの読者の関心を集めるのは飯田さん個人の価値判断。難しいですね。
政界の大御所たちがテレビの片隅でひっそりと語り合う「時事放談」という番組がありますが、本書はそのオタク評論界バージョンです。読者の問題意識や日頃の関心事について「役に立たない」意見交換が行われるが、御大のファンなら楽しい、という一冊。
内容は、主にアニメファン周辺の時事的なテーマについて「もう初老なんだから説教がましくなるぞ」というスタンスで語り合う対談本。当然のごとく「いまどきの若い者は……」みたいな話題が豊富です。御大といっても名が売れているだけで、どんな発言をしたところで一般のオタクに具体的な影響があるかといえば、全くない。意見に賛成できないとか何とかでカリカリするのは時間とお金の無駄。ファンブックの類と思ってください。
今回のラインナップは「同人誌が生き残るには」「オタクの取り扱い方」「鉄オタ分析」「スピリチュアルが廃れないわけ」「オタク論壇の現状とこれから」「現実生活でもキャラは大切」「懐古の空想性」「本を捨てる」「ネットで叩かれて気付いたこと」など。前巻の「オタク論!」と比較して他人事について語る割合が増えた印象です。
元が月刊誌の連載なので、大長編はなく、空き時間にスイスイ読めます。終盤、ネタ切れ感が漂う中、両者の多忙で連載が終了してしまいましたが、数年後に復活して同じようなテーマで語ってくれたら私は嬉しいです。
岡田斗司夫、唐沢俊一、眠田直の3人が1995年に結成したオタク芸人ユニットのライブをまとめた本です。1997年の「オタクアミーゴス!」以来、12年ぶりの続刊となります。
内容は各氏が持ち寄ったマニアックな「オタクネタ」の紹介。コンセプトは「トンデモ本の世界」と似ています。本書に登場する作品の多くはメジャーになれない明確な理由があり、実物を真面目に鑑賞するのは苦行に等しい水準。ところが、編集されたダイジェストや2~16倍速の早送りで紹介されると逆に、その異形さが「世の中にはこんなものがある」という面白さとなります。
紹介されるものの大半は映像作品なので、どぎついシーンを穏当に避けた画面写真と紹介者のプレゼンだけでは、隔靴掻痒の感がなきにしもあらず。けれども本書の淡白な編集と書籍という形式は、時間とお金の節約に優れています。紹介作品の少なからずが近年にDVDになったものなので、一部の作品を実際に見てみたところ、本書の高効率をつくづく実感しました。
「トンデモ本の世界」がオカルト本に興味がない人にも面白かったように、本書もまたアニメなどに興味がなくても楽しめます。その一方で、「世の中にはヘンなものがたくさんある」ことを面白いと感じないなら、アニメや特撮のファンでもお勧めしません。その他、著者3人の鼎談も収録されていますが、分量は控えめなので、DVDの「特典」程度に考えた方がよいと思います。
マクロ経済の豊富なデータをもとに俯瞰的な視点から落ち着いた議論を展開する、一般向けの経済書です。今般の世界同時不況からの脱出策、2000年代に世界各地で経済が高成長した(が挫折した)理由、今後数年の経済展望とリスク要因に関心のある方にお勧めします。
1~4章:今般の世界同時不況が生じた仕組みを整理・解説、過去の恐慌と根幹部分が共通することを明らかにし、経済史上の成功例・失敗例の分析から恐慌脱出の方策を示します。
5~7章:2007年までの世界的な経済成長の構造を検討し、アメリカから始まる景気回復、EUと新興国の成長減速、日本のデフレ再突入と停滞を展望します。最後に、今後のリスク要因と対応の大枠を提示します。
サブプライムローン問題そのものは新しい問題ながら、市場の一部で生じた問題が金融危機を招き、さらに実体経済へ波及し恐慌となる大枠の構造は、1907年恐慌、世界大恐慌と類似しています。ならば、歴史の教訓 1)金融システムの護持 2)大規模な金融緩和によるリスクを取りやすい経済環境の整備 3)財政支出による将来見通し(期待)の改善促進 に学ぶことで脱出が可能かもしれない。
本書は文章の構成が明快で読みやすく、終章のていねいなまとめも復習に便利です。豊富なデータをもとに抑制された筆致で議論が展開されますので、著者と見解を異にする方でも落ち着いて読めるでしょう。
なお、恐慌脱出策は岩田規久男「世界同時不況」、今後の展望は原田泰+大和総研「世界経済同時危機」を併読されると理解が深まります。なお本書が多くを語らない金融危機の防止策については竹森俊平「資本主義は嫌いですか」、岩田規久男「金融危機の経済学」が参考になります。
一般向けの経済評論です。世界金融不況そのものの解説は新聞レベルにとどめ、「この危機をバネにして取り組むべき経済改革のアイデア」を豊富に紹介した1冊です。
議論の前提として、ミクロの個別事例や伝聞情報などが重要な位置を占めるのが本書の特徴です。グラフが4つに絞られるなど、客観的なデータが乏しい。新時代に向けた提言なので過去のデータをもとに実証的にアイデアを検証するするのは難しいのかもしれませんが、私は何度も「本当にそうなるだろうか」と引っかかりました。
例えば「3年後から毎年1%ずつ消費税を増税+税収を前倒ししてのケインズ政策」で不景気を脱出できる、というご意見。論理は明快で、均衡財政乗数原理も理解できました。しかし1997年の消費税増税は需要不足による長期デフレ不況の入口でした。過去の事例の実証分析なしに、「今度は大丈夫」と信じるのは抵抗があります。
同様に円高チャンス論も素直に頷けませんが、その前提となる円安バブル論にも首を傾げました。著者は実質実効為替レートのグラフから超円安による持続不可能な輸出依存経済だったと結論しますが、デフレの悪影響を等閑視する分析です。名目実効為替レートを見るのが妥当では?(この場合「超円安」は観察されない)
データがない、あっても納得できない、といったわけで判断を保留したい部分の多い1冊でしたが、「自由主義経済の終焉」といった議論とは一線を画した経済学的な物の見方が貫かれており、面白く読めました。著者の持論が不況の解説を軸に読みやすくまとまっています。
なお世界金融不況そのものについて理解を深めたい方には岩田規久男「世界同時不況」、原田泰「世界経済同時危機」をお勧めします。
手堅い分析が信頼されているエコノミスト:上野泰也さんの4冊目の単著です。処女作は経済分析入門、第2作はマクロ経済:需要編、第3作は同:供給編、そして本作では、より個別具体的な話題を取り上げています。
全11章。1~10章では10の話題を取り上げ、経済学の論理に著者の経験・価値観を加味して分析・提言を行います。11章では秋田県の現状を10年後の日本の姿と見立てて分析し、今後の日本に必要な経済政策を考えます。
各章とも、まず何らかの資料を示して分析を行い、補足資料を紹介しつつ著者の考えを述べる、という流れになっています。落ち着いた語り口で、安心して読めます。議論の前提がきちんと示されますので、著者の価値観・提案に同意できなくとも、自分の考えを深める役に立つでしょう。
なおタイトルにも使われている「依存症」は、あまり意味のないキーワードです。「依存」という言葉のネガティブなイメージにとらわれず、データを注視してください。実際、本書で紹介している様々な「依存」について、著者が「解消すべき」という立場を明確にしているのは3・5・6・7章くらいです。
11章以外は10~20頁程度で、経済エッセイ集として気軽に読める面白い本です。1~10章の結論・まとめをもう少し明確にしてほしかったとも思いますが、大きな不満ではありません。
細野真宏さんによるやさしい経済解説の最新刊です。1・2章で「論理的思考」の大切さを説き簡単な実践例を紹介、3章で世界金融不況と家計の関係を読み解き、4章で日本の年金の仕組みを解説します。
既刊の細野本は(ほぼ)テレビニュースだけを情報源としていましたが、本書の年金編は細野さんが参加した社会保障国民会議の資料も参考に書かれています。しかし本書で扱う内容は新聞の経済面等で概要が紹介された範囲にとどまり、「一般市民が常識として理解しておきたい」範囲を逸脱しません。この思い切った「到達レベルの低さ」が細野本の魅力です。
2004年の年金制度改革で永久均衡方式から有限均衡方式へ転換した経緯、マクロ経済スライドの解説で保険料水準の上限を定めつつ各世代の85歳時点の所得代替率が揃うカラクリの説明がないこと、などに現行の年金制度を批判する向きからは不満もあるでしょう。
結局、「少子高齢化が進んでも年金は大丈夫なのか」という根本の疑問は、本書を読んでも解消されません。ごく簡単に書けば、日本経済が拡大していけば緩やかな調整で済み、そうでなければ大胆な調整が必要になります。しかし将来予測は困難なので、現行制度に沿って穏当な解説をした判断は支持できます。
経済に詳しい人は、一般市民であっても、もっと多くのことを知るべきだ、と考えるかもしれません。しかし私は、「原油価格の上昇で鶏卵の値段が上がる理由を誰もが説明できる社会を実現する」というのは、十分に高度なミッションだと思います。本書が多くの方に読まれることを期待します。
元ライブドア社長の堀江貴文さんが最高裁判決を前に「ライブドア事件」の体験をまとめた本です。四六版ながら字数は新書より少なく、ブログと変わらない素朴な文体で書かれていますから、短時間でサッと読めます。
ライブドア事件についての堀江さんの主張は、P168~175にまとまめられています。当初マスコミによって様々な報道がなされましたが、最終的に起訴されたのは3つの事案でした。堀江さんは、その内の2件はそもそも犯罪ではなく、残る1件は部下の犯罪であり、道義的責任はあるが刑事罰を受ける立場にはない、としています。
堀江さんが無罪か有罪かを自分で判断したい読者は、当該事案の詳細(何月何日の会議で宮内さんが**といい、私は**と指示した、よって**だ、など)を知りたいと思われるでしょうが、本書にそうした内容はほとんどありません。堀江さんにとっては、幾万もの業務の中のひとつに過ぎず、とくに印象がないようなのです。
よって、堀江さんにとってのライブドア事件は、強制捜査から始まります。本書の大部分は検察の言い分への反論、やり方への抗議、そして拘留生活の描写に割かれています。
本書には堀江さんの気持ちが率直に綴られているように見えます。ライブドアで目指したビジョン、宇宙開発への思い、逮捕されてから考えるようになったこと。ライブドア事件に関心のある人には物足りない内容でしょうが、堀江貴文さん本人に関心のある方には興味深い1冊だと思います。
昨今話題になっているマスメディアとの付き合い方に焦点を当てた狭義の「メディア・リテラシー」教育には距離を置き、放送部の部員たちが番組などの制作を通じて「メディア使い」として成長していった事例を紹介する本です。
著者はメディア・リテラシーを「メディアを使いこなして表現し、仲間や社会にメッセージを発信する能力」と定義します。そして情報発信のステップを「調べ・まとめ・伝える」と整理し、表現の構造を「取材・表現方法の選択・内なる他者の発見と対話・発表」という4項目で捉えます。
本書において著者は表現とコミュニティの関係性を重視し、「調べ・まとめ・伝える」技術は省略、表現の構造4項目に各々1章を割いています。取材が社会に影響を与える、表現方法の適切な選択が意思の疎通を実現する、内なる他者の発見と対話が表現を鍛える、作品の発表が学校や地域を変えていく……20年に及ぶ指導経験から興味深い事例の数々が紹介されます。
著者が長年小論文の指導も行っていることから、元生徒たちの作文が豊富に引用されているのが本書の特徴です。教師の意図と生徒の苦闘の両方を知ることができます。
狭義のメディア・リテラシー教育の参考にしようと思って手に取ると面食らう本ですが、「放送部」や「生徒会活動」に興味のある方にはお勧めの一冊です。ただ、小さな思い込みを脱した生徒たちが、結局はより大きな思い込みに捉われたまま卒業する結末に、私は虚脱感を覚えました。
雇用問題を中軸に据えて長期不況の害を説き、今般の不況の原因は需要の縮小にあると喝破して、金融・財政政策の総動員による需要増大策こそ必要だと説明する、一般向けの経済評論です。
私は著者の主張の多くに首肯しますが、本書は欠点が目立ちます。
まず、本書は多くの事柄について世論と異なる意見を提示していますが、その主張の根拠となる事実が不足しています。グラフ、表、図解がひとつもなく、単発の数字や論文の引用しかない。論理の提示も大切ですが、素朴な違和感を打破するには一目でわかる事実の提示が必要だと思います。
例えば若年失業者数は景気に連動して増減している(つまり若者劣化論は俗説で景気こそが真の問題である)事実も、著者が地の文でそう書くだけで納得されるわけがない。統計があるのですから、きちんと出典付でグラフを示せば一目瞭然です。私のように先に統計を見ていた潜在的賛同者ならともかく、現時点で若者劣化論に共感している(可能性が高い)一般読者に本書の書き方で伝わるでしょうか?
さらに、本書は本文の構成とペース配分が奇妙です。話があちこちへ飛び焦点が定まらない見通しの悪さは著者の他の単著と同様で、読んでいて疲れます。各章の冒頭で議論の展望を示し、末尾で要約を行ってほしかったです。前書き・後書きが全体の要約として機能していないのも残念。
より微視的には、例えば著者は、上げ潮派について詳しく紹介してから、不同意の立場を簡単に付しています。私はやはり、批判対象の意見は簡潔にまとめ、自論をこそ根拠を添えて詳述してほしいと思うのです。
3部作になるそうなので、以降の2冊では、共著の「構造改革論の誤解」「平成大停滞と昭和恐慌」で見せたようなスッキリした書き方をお願いしたいです。
今後、限定品市場や中古市場などで特典付の商品の購入を検討される方のために、特典の内容をご紹介します。
【体裁】
四六版見開きの板紙の内側に特製冊子とCDケースが接着された一体構造。商品名から受ける印象と異なり、特典全体が「Dragon Chronicle」で、その中に特製冊子と限定サントラCDが入っているという体裁です。価格差なしの数量限定予約特典に見えない贅沢で凝った作り。
【特製冊子】
本文13頁、フルカラー。ゲームの舞台となる世界(エデン)で創刊されたカルチャー誌「SEVEN」という設定で編集されています。実質的な内容はデザイナーや作曲家などのメイキング秘話ですが、前述の見立てに基づき、いずれもエデンで暮らす芸術家に雑誌記者が取材して書いた記事、というスタイルになっています。
【サントラCD】
5track、合計10分14秒、ピクチャーレーベル仕様。劇伴のアウトテイクを5曲収録。わかりやすい起承転結はありませんが、軽快に聞けます。特製冊子に作曲者の苦労談がありますので併読を勧めます。
面白い内容で、再販の可能性も低い特典ですが、ボリュームは上記の通りコンパクトです。特典の有無による価格差については、よくよくご検討されることを勧めます。
星は特典の満足度です。ゲームのレビューは特典なし版の方に書きました。
新納一哉演出の2DオーソドックスRPG。勇者のいない現代風DQ3という趣で、7職業各4パターンの計28種のキャラクターから4人を自由に選んでパーティーを編成し、ドラゴンによる支配から世界を救う。ターン制コマンド選択式バトル、敵遭遇率は高い、セーブポイント少ない、アウトフィールドあり。
ギルドが主人公、という珍しい作品です。作中、連呼されるのはギルド名だけ。各メンバーが賞賛される場面は皆無です。プレーヤーのギルドは序盤の活躍から英雄視され、ビジュアルでも明瞭に表現される世界の危機に立ち向かいます。そして冒険のついでに世界中の人々の小さな願いも叶えていく。
戦闘の難易度はプレイスタイル次第。技スキルの組み立てや装備品の開発に知恵を絞り、足踏みせず前進すれば、スリリングな展開を楽しめます。逆に敵遭遇率の高さを活かしてレベルを上げれば、ゴリ押しも可能。このとき収集系のクエストが作業感を緩和するアクセントになります。
ビジュアルには特色があり、人を大きく建造物を小さく描いて、今風のキャラ絵とファミコンRPG同等の画面情報密度を両立。下画面のマップは可能な限り1画面でフロア全体を見せます。古いRPGの画面が持つ見通しのよさを、3DCGを上手に使った上質な2D風表現など、現代的な意匠で復活。フロワロを払うと明るくなる表現がいい。
この作品を快適にプレイできないときは、スキルを調べてみてください。ナイトの「ウォークセーフ」、侍の「鬼の形相」、プリンセスの「月明かりの詩」、ヒーラーの「インビジビリティ」「クラフトマナ」など、一応の対策が見つかることも。初期メンバーに固執せず、プレーヤーの都合を優先することを勧めます。
なおセーブポイント不足で困っている方は、DSを閉・開すれば電池が切れない限り中断・再開できますので、緊急避難としてご利用ください。
サブプライムローン・パニックと世界金融危機が生じた過程、その背景、問題の構造、当面の対策を解説し、再発防止策を提案する、初級者から読める解説書です。
実際のデータをグラフや表で多数示して議論を展開しており、安心感があります。また複雑な金融問題をわかりやすく説明するため、図解や表形式のまとめが豊富に入っているのも親切です。描写を刈り込んだコンパクトな記述も、本論を見失いにくく読みやすい。やさしい語り口調で、ページ数も多くなく、さっと読めます。
本書の特徴は、「悪い」人がいたから危機が起きた、という立場を採っていないことです。そのときどきに市場参加者の多くが考えたこと、実際にとった行動には一定の根拠があったことを本書は示します。そして個々の経済主体の合理的な行動が危機を拡大したことを示し、景気循環を促進するようなルール(硬直的な自己資本規制や単純な時価会計など)に問題があることを指摘します。
市場参加者はルールの枠内で合理的にふるまいます。大切なのは、各人の行動が自ずと経済成長に伴う景気循環の波を抑制するようにルールを設計することです。著者はひとつの案として、資産の利益率の変動に応じて自己資本比率の設定値を変え、好況時の資本蓄積と不況時の投売り防止を導くルールを提案しています。
その他、中央銀行と政府による金融システム安定化策が、平時と危機ではどう異なるかを整理し、今回の金融危機への米国の対応について論評しています。
なお金融危機については、米国のバブルを世界的な貯蓄・投資の不均衡による構造問題と見る竹森俊平「資本主義は嫌いですか」、世界各国の経済への影響を分析する原田泰+大和総研「世界経済同時危機」を併読されると理解が深まります。