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花丸横丁デパート1F 電気機器
電器屋
職場の常識
 僕の知っているある街では、何をとち狂ったのか大規模電気店が3軒並んだ通りがある。何の変哲もない一本道の、300メートルにも満たないところに(しかも同じ側に)三軒も名前を云えば皆知っている電器屋があるのである。
 確かに駅前の新興住宅地ではあるのだが、さほど地元民が多いわけでも他に電器屋がないわけでもなく、過当な競争なのはいうまでもない。お互いそれが解っているのか「***さんより安くします」と三軒が三軒ともお互い名指しでがなっている、広告を見ていると頭がこんがらがる。
 さて当然そういう三つ巴の食い合いが長く続くわけもなく、経営資力や立地の面で格落ちする店が没落してくる。
 この店はまだこの新興住宅地が建設途中に「街唯一の電器屋」として、将来発展の見込まれる無風区にパイオニアとしてやってきたのである。開店当日は僕も行ったが、十台のレジは常に休まず長蛇の列が出来ていた。まさにこの店我が世の春、独占状態だった。
 ところが大手が2件も入ってくるとさすがに母体の力に差がありすぎ、値引も悪く、地元住民も愛想をつかした。一時期は電池やテープなどの末端消費物はやたら安く利用していたのだが、百円ショップの登場により瓦解。現在はレジも1つだけになり、無人の店内にテレビだけが煌々とついている寂しい店になった。それでも潰れないところが不思議といえば不思議だ。
 さて、こんな店を象徴する出来事があった。
 先輩からの又聞きではあるのだが、PCに造詣の深い彼はHDを増設しようと思って電器屋巡りをした。大手2件を巡れば用は済むのだが、掘り出しモノでもあるかなとダメモトで寒風吹きすさぶその電気店に入った。
 ところがパソコンコーナーのどこを探してもない。
 パーツは扱わないのかと思ったが、「ハードディスクありませんか?」と、一応店員に聞いてみる。店員答えて曰く。

「ハードディスク? なんすかそれ」。

 まったく潰れない方がどうかしているよ。ねえ。 

ビデオ屋
AVアンダーグラウンド
 ここでAVとは、もちろんAudio Visualではなく、Adult Videoの略である。僕はそうそう詳しいわけではないが、AVは一般に流通されている単体物で15000円程度の定価がついている。まあ、こんな高級品を買うのはよほどのマニアで、健全な男子は雑誌でチェックを入れてレンタルビデオ屋に走るのである。
 さてこの15000円のビデオ、内容は百円均一で売られているものと基本的に変わりがない。制作費・宣伝費に利益を足すとそのお値段になるというのだが、このビデオが実際簡単にコピーが出来るとしたらどうなるだろうか。
 こんなことがあった。
 女にモテない仲間達と酒を酌み交わすと必ずエロビをかける奴がいる。これは世の趨勢である。大体そんなのを食い入るように見つめているのは向こう十年童貞予約席のかかっているパープーくらいで、あとは馬鹿話を優先させるものである。
 さて酔眼でモニターを見ると、どうもかつて買ったビデオに展開が似ている。「おい、これ**か?」と聞くと、相手は「うんにゃ、+++だ」と答える。これを機に見続けたが、最後まで僕の知っている**だった。家に帰って見てみると、やはり内容は同じだ。
 ここに至って僕は大事なことに思い当たった。
 定価15000円のビデオがどうして300円で買うことが出来たのか。60分が相場のビデオが45分しかなかったのか。ジャケットの色彩に違和感があったのか。そして、タイトルの不一致。
 違法コピーだったのだ。原価次第で売価も安くなるわけである。
 僕がコピーを買ったビデオ屋は某都市の地階にあり、今日もビデオテープをガレージセールのように公然と路上で販売している(レジは店舗にあるから、路上販売ではない)。
 いったい何故こんな違法操業ができるのかは知らないし、あまり知りたくないのも事実である。 

試聴機とフリーペーパー
 CDにしろ本にしろ、定価ではまず買わない。
 大体が中古だ。よって本屋CD屋の類には原則用がない。最近じゃ中古屋に出回るスパンが異常に短いからね。大体1週間もすると500円は割り引かれて並んでいるからね。1週間を待てない程ハマっているアーティストはいないから、これは安上がりで便利である。
 さて、そんな僕がCD屋に行くとすれば用はただ一つ、暇つぶしのためだ。
 無料ペーパーを片手に試聴盤を聞き歩くのである。やろうと思えば1時間は軽くつぶせる。まあ大体そこまで暇じゃないし、店員の目も気になるからそういうことはやらないが、ともかく便利である。
 僕が聞くのは洋楽のメジャー系だから、気に入ってはいるがアルバムを買うには至らない(シングルは殆どでないからね、念のため)アーティストなんかを聞いている。邦楽の試聴をしている人はたまに見るが、洋楽は聴いている人は殆ど見ない。だから試聴機の数も多く、助かっている。
 この試聴機という奴も買わせるのが目的な訳だから非常に音質が良いねえ。通人に云わせれば「まだまだ甘い」ということになるんだけど、僕のような身では十分聞けるサウンドである。
 またフリーペーパーの音楽情報も有り難い、FMラジオを聴いていれば大抵は知っていることばかりだが、活字として読むとまた違った印象を受けるし、DJ喋りで聞き取りにくい情報も解るので視覚情報はやはり貴重だ。
 最後にかつて偏執的に聴いた代表曲のリストを挙げる。

HEARTBEAT/TAHITI80
DO YOU WANT MY LOVE/COCO LEE
HEY Mr.DJ/(忘れた、確か「I LOVE R&B」の2曲目)
MAMA SAID KNOCK YOU OUT/L.L COOL J 

眼鏡屋
秘孔を突く眼鏡女
 僕だって鉄壁の意志を持っているわけじゃない。
 仮にも法学生であるからして、一般の人よりは若干悪徳商法の手口も知っているつもりだ。その対策なども理解しているからこそ、怪しげな通販や女声の電話攻撃にもセミナー勧誘の葉書にも、健康療法をうたったマルチにも興味をしめさずに堅気の生活を送ってきたのだ。
 そんな僕だからこそ、店員の甘言などに乗せられて、不必要なる物を買ったりするだろうか?
 これがするのである。悪徳商法ではないと解ると警戒心を解いてしまう物だ。
 今回はそれの話だ。読者諸兄はこれを持って教訓としてほしい。

 その眼鏡屋は大手のチェーン店である。みなさんも名を出せば知っている店だろう。そして僕はそこで既にフレームを決め発注していた。その日はレンズを選びに来店したのだ。
 僕の担当についたのは、これがとんでもない美人で巨乳、しかも胸ボタンを3つまで開けていたのだ。
 これにはすっかり参ってしまった。
 いや、普段なら僕の頭には赤ランプがともり、警告アラームが脳の中を駆けめぐるのだがこの時ばかりはやられてしまった。美人だろうが巨乳だろうが裸で現れようが普通は強く警戒するのだが、いかんせん眼鏡屋の店員と云うことで従業員は全員眼鏡着用、彼女も例外ではなかった。
 急所を突かれた、と思った。
 あとはもう彼女のペースだ、彼女もそれを十分意識して好成績をあげているのだろう。僕は彼女のいうがままに2番目に高級なレンズを買わされていた(自己弁護すると確かにこのレンズは軽くて前の眼鏡よりよかったけどね)。
 さて、ここで教訓とすべきは男性諸君、危険な女には近寄るなと云うこと。二十歳を間際に控えると「あのーコイズミですけどー、**くんいますかあ」という電話がほぼ毎日かかってくる。コイズミというのは今日来た電話の主だが、これは毎日変わる。そして**にはいる僕のファーストネームを熱い吐息とともに送り出してくるのだ。
 彼女らは突然面識のない人間に対し、デートに誘う。あえばひょっとすれば宿泊できるかも知れない。でもそうなると確実に100万はもっていかれる。彼女にしても1回のペイが10数万円ならそれくらいやるだろう。
 生活かけた奴に勝てるわけがない。
 勝てない奴には近寄らないのが一番だよ。 

エクソダス組の勝利?
「いやあ、IT産業ってバブリーだよなあ」
 渋谷近辺の大学に通っている僕の友人は本当に羨ましそうに僕に云った。僕は渋谷なんて殆ど縁がないのでよく知らないのだが、彼は心底羨ましそうに、続けた。
「ハチ公口を出て歩いてホントに1分もかからないところに店があるんだよ。ガラスばりのお洒落な店でさ。パソコンとかがたくさん置いてあるんだよな、店員はみんな若くて俺達とためぐらい」
 ここで僕は話を切った。おいおい、それって単なるパソコン屋じゃないの? 若い奴って、そりゃフリーターに決まってんだろ? 携帯を売っている店ならどこの繁華街だって駅前にあるじゃんか?
 ところが彼は呆れたように首を振った。
「そんな下らない話なら一々しないよ。この店の凄いところはなんてったっていつも「CLOSED」の札がかかっているところさ。店内にはカジュアルな若者がたくさんいるのにね」
「???」
「つまりこういうことさ。ハチ公口の目の前に店舗を出している連中、たぶん俺達と年は変わらない。あいつらはパソコンを売っているんじゃない。ソフトの製作で一財を為しているんだよ」
「そんなの、どこだってできるじゃん? なんで地下のべらぼうに高い渋谷の駅前で、しかもガラス越しに人々が見てる前でやるんだよ」
「さあね、まだまだ目立ちたがり屋のガキなんだろ? まあビットバレー構想に賛意を示してそこにいるのではないことは確かだ。渋谷の一等地に店持ったとなれば自慢は出来るだろうからね」
「イカれてんなあ」
「イカれてるさ。店の前は1日100万人は軽く通るだろうからね、そんな所で1日過ごして見ろ。動物園のパンダじゃないが、まともな奴だってイカれるに決まってるさ。パソコンやってる奴なんてみんなそんなもんだよ」 

携帯ショップ
非携三原則
 携帯電話を持たないでいると、その理由を嫌になるくらい人々から訊かれる。大体は何故か詰問調で、酷いのになると「なんでもたないんだ!」と喧嘩腰で訊かれる。大きなお世話だ。
 不思議なのはそういう連中に限って「自由」とか「平等」とかいう言葉が好きな左がかりなのは矛盾と云うべきだ。自分と違う価値観を認められないとは哀れな限りである。
 さて、僕はそういう無神経な手合いに(ああいう奴が将来「結婚しないの?」「お子さまはまだ?」とかほざいて人を傷つけるのだろうな)真面目に答える理由はないので、大体はそれと解る嘘をついて誤魔化している。
 曰く「祖母の遺言」「山田家の家訓」「俺、ペースメーカ埋めてるから」「ママが許ちて くれないんでちゅー」「金がないから」「電波の声が持つなと云うから」等々。 自分でも馬鹿らしくなってくる。
 時には「持たなくて悪いかよ、バカヤロー」と逆キレをすることもあるが、そうすると云われた方は地下に潜って「あいつは変人だ」と吹聴するのが常のようである。
 んで、なんで僕が持たないかと云えば三大理由がある。
 一つは必要がないからで、僕のライフサイクルは「家」「電車」「講義」が大部分で、いずれも必要としない。その他の時間はPCの前か仲間といるので、いずれも不自由しない。仲間に連絡を取れば大抵僕につながるのだ。
 そして次には面倒くさい。手続きしたことないからどうだか知らないけど、非常に億劫だ。ついでに手に入れたら周知させなきゃいけないし、非常に面倒くさい。僕は懸賞や親戚からの贈物なんかでテレカを五枚所持しており、公衆電話に駆け込めば当分は困らない。
 第三の理由こそが、携帯の販売店の店員の態度が悪い。携帯というメディアは若者にターゲットを特に絞っているから、当然若者ウケする若者を配置するわな。一御番はイケてるとされる浜崎系の茶髪女だわな。そうでもなけりゃ、社員とおぼしき妙に卑屈な男だわな。はっきりいう、商売人として話にならん。礼節を重んじる僕ならば当然丁寧語で喋る、と対するは早口で訳のわからんことを居丈高にほざかれるのが落ちなのだ。僕は四度、携帯の販売店で説明を聞いたがいずれもそうだった。
 そこで思ったのは「俺の金はこんな奴らの成績費にするものか」というものだった。それに元々大していらないもんだから、欲しくもないわな。
 さて、携帯を持っていなくて一番屈辱なのは待ち合わせだわな。
 僕は待ち合わせ五分前に来て、十分後に帰るのだが、逢えないと相手は大抵ぼくが携帯を持っていないせいにする。そんなときゃ遠慮なくぶん殴るようにしていますがね。悪いけど。 

百貨店 花丸横丁デパート 店舗エッセイ

"HANAMARU STREET"

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