花丸横丁デパート3F ファッション
ブティック |
女は得か?
今まで何度もデートや家人につき合って女物の服を見てきたが、云えるのは「値段が安い」「売場が広い」「テナントが多い」ということだ。デパートはそもそも女中心に作られているのだから当然といえば当然なのだがこれは最近ファッションに目覚めてきた者としては悔しく思われる。
特に値段! 布面積などの理由もあるにはあるのだろうが、やはり需要量が圧倒的に違うんだろうな。男だったら週ローテーションで済むだろうがそんなこと女がしたら速攻白眼視されて、後にパージされると聞いた。そんな社会にいると好きな人はもとより、ファッションに縁遠い人でも服を買わずにはいられないんだろうな。
確かに大学の教場を見ても(一々服なんて暗記していないが)そんな同じ服を着ている女は見ない。夏は勿論、驚いたことに冬だってそうなのである。これには少々カルチャーショックを受けた。
美人もブスもスリムもデブも、狂乱状態になって服を買ってる世の中。そりゃ安くなるわな。それがいいのかどうかは知らない。彼女らは化粧品や装身具やプロポーション維持に金を使ってるわけで、可処分所得は服の値段比をさっ引いても男の方が特かも知れない。
そう考えると、デート代を払うのもむべなるかな、といった感じがする。男は少なくとも普通に生きていればそんな美形管理に大枚はたかないからねえ。目の前の女性が美人で洗練され人間と見えるならば、彼女はそれに対して多額の投資をしているわけで、報いるのも当然だ。
大体食事の後のことを考えてもみ給え、男で五千円以上のトランクスはいてたら馬鹿だぜ。女で三枚千円のショーツつけてたら馬鹿だぜ。
と、云うわけで女物の服は安いが女は他の装飾に金がかかる、という結論が出た。これを打開するためには「男のまま女物を着る」ということになる……それじゃ女装か。 ▲
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紳士服店 |
ひやかしとコーディネーター
元来が真面目な人間なので、マジメな服装を好む傾向がある(無論、例外も多々あるが)。ちなみにこれを書いている4月末なら単色(暖色系)のボタンダウンに薄手のチョッキを着てテーラー付きのジャケットを着ている。
僕はあまり服装に頓着する方ではないのだが、それでもたまには品のいい服を買いに行きたくなることがある。
普段はダイエー・ジャスコ・ヨーカドーでローブランドの見栄えのいいものを着ているが、慶事なんかでワンランクレベルをあげようと思ったら紳士服の店に行く。それにしたって大衆店であり、昨今の一部大学生のようにYシャツ1枚に万札切るようなブランドハウスには近寄らない。
ファッションについて詳しくは解らないが、やはり値段相応にそういう店の方がいいものを扱っている感じはする。社会人が対象なので少々顔をしかめるようなオヤジ臭い服もあるが(僕は生涯あのドブネズミ色のスーツは着ないと決めております)、それにしたってカジュアルショップよりは遥かに僕の趣味にあう。但し最近安くなったとはいえ、まだまだ値段は趣味に合わない。
だから必然的に買うのは後回しになりまずは競合店を巡って品定め、値踏みをしなければならない。まあ、いくつかの店にとっては結果的に冷やかし行脚をしていることになる。
で、ここで問題なのがビッチリとスキのない装備で固めたハウスマヌカン、否最近貰った名刺(奴らは冷やかしにも名刺を寄越すのだ)にはファッションコーディネーターと書かれるダンディーなおじさま、イケてる若人だ。
彼らはまるで高級料理店のウエイターのように重厚な、ハイソな足音立てて現れて「いらっしゃいませ、どのようなお品をお探しでしょうか」とバリトンの声立てて来るのである。
これには参る。
いろいろやりとりがあって、予算にあった一着を選んでくれるんだけど他の店も見たかったりすると本当につらい。こういうところ、僕は甘いんだよね。情に流されて買ったことはないけど、適当に言い訳をして店を出るのはやっぱ胸に痛いものがある。「またのお越しをお待ちしております」とかいわれると余計だ。
それならまだ普段アクセサリー買ってる店で、フリーターらしきねーちゃんに「やっぱこの夏はアーミーにタグですよねー……似合ってますよー」とか適当なお世辞いわれる方が気楽だ。「敬語つかえ」って内心思うけど。 ▲
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勝負下着は六千円!?
デパートなどでどうにも目のやり場に困るのが、あの下着売場である。いや、勿論僕は男であるからして、地階催物会場で「紳士トランクス四枚千円」等というものを見ても「ほおほお安いねえ」とくらいしか思わないのだが、女モノの下着は邪念が入ってとにかく困る。
別に下着フェチじゃないから見てるだけでどうこうなると云うわけではないが、なんかきまづい感じがするのは確かだ。家族でTVを見ていたら突然エロシーンが始まったような重みを僕は感じる。
さて、高校二年生の頃、僕はその女性下着専門テナントに入ったことがある。この恐怖体験は一聞に値するだろう。
昔、つきあっていた彼女とはよく彼女が合法的に仕入れるクスリをきめてはラリってデートしたりしていた。行き先は大抵デパートだった。そこで金持ちの彼女は大抵散財し、幇間の僕がおいしい思いをする、という妙な関係だった。
その時も彼女はラリっていた。僕は恒例のパスタハウスでの飲酒でしこたま理性を飛ばしており、彼女とともにラリラリでデパートを徘徊していた。と、彼女は「下着を買うから選べ」という。冗談にしては傑作だと思って「面白い、受けて立とう」とアルコールで痺れた頭で答えてしまったのだ。
彼女は突然けたたましい笑い声をあげると、僕の腕を引っ張っていった。 僕はこのデパートにそんな店なんてあるとは知らなかったからてっきり他の店に行くのかと思っていたが、彼女は地階の中央入口(僕は駅直通の入口から入っていた)まで僕を連れていった。
地階には化粧品やブティックや貴金属など、男には縁のない高級商品が沢山あり、その値段に僕は唸った。しかしその驚きもその下着専門店には遠く及ばなかった。
まず当然のことだが女物の下着しかなかった。男性の立ち入りは禁じられてるかと思ったがそんなことはなかった。彼女に聞くと恋人の誕生日かなんかに贈る奴がいるからだという。とても信じがたい話である。
しかもそれがなんというかアンダーウエアとは思えない代物。云うまでもないがこれは見せることを前提にしているね。そうでなければ不気味すぎるよ。その色も着用時の露出度もちょっと機能やファッション性を考えると信じられない。まあこれは僕の感性で、世の中にはこういうのの愛好家がたくさんいるんだろうな。性癖は色々あるが、僕にはわからない。
また驚かされるのはその価格。あんあ小さな布きれがどうしてン万円もするの? という感じ。まあ専門店という特異性と量が少ないからなんだろうなあ。ああいう非効率的な下着が売れているとは思えないからね。
彼女は「どれがいいか?」ときくから、僕は適当に「値札」を見て一番安いのを指差した。そんなものはどうでもいいから、なんか安い服でも買ってくれないかと期待しているのである。この当時新しく手に入れた服と云えば彼女の奢りだったのである。
彼女は「趣味悪い」とか「変態」とか散々罵りながらも、それを買った。
そしてその日、別れがてらに「これあげる」といって、その安い下着(とはいえ、6000円位したのだが)を無造作によこした。
貰ってもしようがないのだが、色々おごってもらった身としてむげに断れず、結局その下着を受け取ると,地元駅のゴミ箱に捨てた。あんなものを家族に見つかったら即勘当である。 ▲
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アクセサリーショップ |
古文書−109体験記−
これは九九年の年末に起こった体験である。
渋谷駅前に「109」なる神殿ありき。日本津々浦々に住まうコギャル教団の聖地なり。信者、顔を黒くまた白く塗り、痩身を本義と心得、装飾品かまびすしく、信者同士携帯電話で話すのみ。その信者、全国の中学、高校、専門、短大、大学におり、各々一日五回、聖地渋谷の「109」に平身低頭す。
我、山田大佐と名乗りし男。信者ではなく、信者とも交際せず、ギャル男でもなき堅気なり。その我、人生にてただ一度、この聖地に踏み込みたり。
故は特にあらず、信者を運ぶ半蔵門線渋谷駅にて小用を催し、御手洗周囲にあらずんば、やむなく地下道を通りて聖地のトイレをつかわんと欲す。これ只一度の体験であり、信頼できる友人と同道して入る。
内部は「パラパラ」と称する宗教歌がガンガン鳴り響き、いとうるさいこと比類なし。信者が眠るべき時間(正午頃)に来訪した故か、客少なく顔を黒く塗りし店員、あやしんでこちらを見る。場違いなところなり、信心持たぬ我ら、心細さにしばしたたずむ。
通路は人二人並んで歩ける程度の狭さで蛇行すること歩きがたし、テナントには山のように商品があれどもその値、質、用途ともに我らには関係なし。
ピアスに顔を包み込んだ危なき男女、階段にて爆笑ふける。やや身の危険を感ずるも相手眼中に無きか何事もなし。無事小用終えたれば、商品渦巻く密林にぞ戻る。
我、途中で一軒の狭いテナントを見つける。アクセサリーの店なり。我堅気の装身具ならば若干の興味関心ありて中を覗く。
そこは大変狭き店であったがまるで樹液に群がる羽虫の如く大量のコギャルが群れて追った。六畳程度に一〇人ほどといえば解るだろうか。皆々信者同士でしか通じぬ言葉で通信し、ワケ解らぬ奇声を発す。
黒き肌が蠢くそのスタイル、いと気持ち悪く、我ら早々に退散するなり。
我、地元に帰りて数日後、さるアクセサリー店がカリスマ店員なる枢機卿の経営する店と知れり。信者相争い商品を買い足れば笑いは止まらず豪勢な生活をするの由。我、あの聖地の恐怖感ずれば堅気が入るのは勧奨せざりしこと、ここに厳命す。 ▲
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不良の巣
かの悪名高きパンクバンドである「SEX PISTOLS」のメンバーが出会ったのはどこだったか? マルコム・マクラーレンの経営する「SEX」というブティックである。
その故事を知ってか知らぬか、僕の家の近くにどうしようもない不良少年が集まるブティックがあった。尤もこっちは古着屋なのだが。店は映画等に出てくるガレージホームのような特異な平屋建てで、何故かネオンで店名が飾られ、広い駐車場があった。
この駐車場にはいつも堅気とは思えない車やバイクが止まっており、夜中に前を通ると常に気違いじみた哄笑が聞こえてきた。夜に駐車場で円陣組んでるトサカ頭などを見ると、何とも云えない不気味さに駆られたものだった。またこの店は結構市内では有名だったのか、公園で携帯片手に荒んだ顔した金髪氏が「じゃあ、**に集合なー」ともったりとした口調で話すのを聞いたことがある。
そうはいっても仮にもブティックであるから窓には「SALE」という貼紙があったし(これは思うに「喧嘩売ります」という意味ではなかったか?)、一応はカジュアルな格好のマネキンも展示されていた。ただ僕の知る限りこの店で服を買ったという人は見たことがない。それでも経営が成立していた以上、不良少年がカツアゲでもした金で服を買っていたのだろう。
そんな危ないブティックも、先日気がついたら取り壊されていた。
不良達はどこへ行くのだろう、と思ってその後に立てられる建物に注目していた。そして今年の四月、何が出来たか?
和菓子屋である。
羊羹やらドラ焼き片手に暴れ回る不良など想像もできないので、付近住民としては平和が戻ったと判断してもいいのだろう。 ▲
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宝石屋 |
誰が為に店はある?
例えばダイエー、例えばイトーヨーカド−などいわゆる庶民向けのデパートにも大体宝石屋というのはテナントとして入っている。
大体入り口に近い一等地にあり、薄暗い店舗に厳重そうな警備装置を配置し、売り子に立つのは洗練された感じの慇懃なマネージャー。どこもかしこも遠目で見ても宝石屋と解る鉄壁の布陣だ。
あれは何だろうねえ、やはりあの独特の似非ブルジョア風センスは冷やかしを撃退するための装置かね。なんとなくホテルのラウンジを思わせるじゃない? あのイヤラシイ暗さとか、慇懃なタキシード男とか。そういう感じで下々の輩を追い払うのが目的だとすれば一定の効果はあげているわけで、少なくとも僕はあんな悪趣味の空間に近寄ろうとは思わない。買うつもりは更にないが。
ま、そんなつもりはないと思うが「このテナントだけでも高級感を出して、お客様を優雅な気分にさせよう」などとは考えていないだろうなあ。なんせ鼻たれたガキが走り周り、オバサンが4着1000円の下着に殺到し、コギャルが大騒ぎしながらテナントを冷やかし、危ない中坊がゲーセンでカツ上げしに行き、とにかく庶民派デパートはろくな客がいない。
ただ消極的に考えれば、ああいう似非ブルジョワになるのも理解できる。だって仮にも原価がいくらか知らんがン十万円で売るものをそこらの商品と同じようなテナントで売っても仕方ないしね。しかしいくら宝石が虚飾用商品だとしても、一等地のテナント料や凝った悪趣味の内装に化けているとなると少々気になる。
ま、僕は女に「奢らず、貢がず、威張らせず」主義なので関係ないですが。
今まで、僕がどうしても不思議に思うのは、そういう宝石屋で客が商談しているのを見たことがないという点だ。僕の記憶にある宝石屋派いつも呆けた顔をして、あたりに目を配っているのが常だった。
あんなデパートでン十万も身銭を切るという人の気持ちもよく解らないが、それでもやっていけるということは客いるのだろう。 ▲
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"HANAMARU STREET"
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