アフガニスタン関連の最新ニュース。AOP608より、US, Russia seek tougher Afghan sanctions と UN worried about sanctions on Afghanistan の要旨およびコメント。
Thursday, 8 June, 2000 - 国連安全保障理事会は、非公式の予備的会談を開始した。アフガニスタンを支配しているタリバン運動に対して、より厳しい制裁措置を講じる可能性を検討するもの。
会談の主導権を握っていたのはアメリカとロシア。両国は、「アフガニスタンに関連するテロ活動の脅威増大への対策」という名目で、手を組んだと伝えられる。ロシアは、「アフガニスタンにはチェチェン反政府組織の訓練基地がある」と称して嫌悪感を表明。一方、アメリカは、米大使館爆破事件の容疑者とされるオサマ・ビン・ラデン氏の引き渡しをアフガニスタンを統治するタリバン勢力に求めたが、交渉は決裂。これらの経緯が米ロの姿勢の背景と思われる。両国が提案している制裁措置は、アフガニスタンに対する武器販売禁止、アフガニスタンのタリバン関係者の国外旅行禁止のみならず、さらなる経済制裁だ。
BBCのスペシャリストによれば、安全保障理事会の、米ロ以外の各国は、今のところこの件については特に賛成も反対も表明せず、無関心を装っているようだ。
South Nexus, ISLAMABAD, Jun 08 - 「アフガニスタンを支配するタリバンに対して、たとえほんの少しでもこれ以上の制裁措置を加えることは好ましくない。ただでさえ内戦でがたがたになっている国に対し、悪影響を及ぼすだけだ」と、国連の高官が語った。
「さらなる制裁措置は、(これまでの制裁措置や内戦で)すでに極度に弱り切っているアフガニスタン国民に対して、むしろ逆効果だ。アフガニスタン国民の状況がさらに悪化するだけだ」シュエド・アハメド・ファラ氏は、火曜、記者たちに対してそう説明した。ファラ氏は、アフガン問題を担当している国連職員。
国連安全保障理事会は、アメリカの意見に押し切られる形で、昨年、アフガニスタンに対する経済面そのほかの制裁措置を課した。アフガニスタンを支配するタリバンが、アメリカ大使館爆破事件の容疑者とされるオサマ・ビン・ラデン氏の引き渡しを拒んだ直後のことだ。
「心配なのは、もしこれ以上、制裁措置を追加すると、(しいたげられたアフガニスタン国民の怒りが爆発して)暴動のようなことが起きかねないということです。そうなれば、我々のスタッフも危険にさらされます」国連世界食糧計画のアフガニスタン担当者ミカエル・サケット氏は、そう語った。
他方において、国連は、内戦で疲弊(ひへい)しさらに今年の干ばつで危機的状況におちいっているアフガニスタンに対して、支援活動を進めようとしている。今すぐ必要な当座の支援だけを考えても、厖大な資金が必要となる……それほどまでに、アフガニスタンは「今すぐ」の緊急援助、それも大量の支援が必要なのだ。
<妖精現実・解説> アフガニスタンは、何十年にも渡る内戦でぼろぼろになっている。おまけに、今年は、史上まれにみる最悪な干ばつ(日照り)にみまわれ、アフガニスタン国民は食べ物どころか飲み水さえない苦境におちいっている。現に、飢えやかわきによる死者が出ていると伝えられている。
こんな状況において、見て見ぬふりをつづけるとしたら、なんのための「国連」なのだろう。なんのための国際協力なのだろう。困っている国を助け、不足している医薬品や食料品を提供しあう。自国に充分にあるものは他国に分かち、自国に不足なものは他国からもらう。苦しいときはお互いさま、助け合って共存共栄を図る……この考えについて、あまりに図式的・理想論的だとの批判もあろうが、いずれにせよ、いま現に干ばつで死者が出ている国を放置は、できまい。また実際、国連も、アフガニスタン支援を、いちおうは真剣に考えてきている(その「真剣さ」の程度や「思惑」は必ずしも純粋では、ないとしても)。
問題は、そうして国連全体が支援の姿勢を打ち出しているのに、国連のなかの安全保障理事会がそれと逆行するように、「アフガニスタンを、もっとしめつけてやれ」という苛酷な提案をしていることだ。安保理といっても、実態はアメリカとロシアで、他国は見て見ぬふりらしい。制裁措置を追加する根拠も、「チェチェンの反政府勢力を支援しているらしい」という根拠のあいあいな憶測であったり、「テロ容疑者をかくまっている」という主張。現に水不足で今この瞬間にも人がつぎつぎ死んでいるという切迫度と比較すると、アメリカの言い分など空理空論とさえいえる。むろんアメリカ側の主張にも理はあろう。アメリカ側の主張にも真摯に耳を傾けねばならない。が、それにしても問題の解決には優先順位というものがあろう。犯罪容疑者をかくまっているなら、たしかに犯人隠匿で問題だが、オサマ・ビン・ラデン氏については、少なくとも現時点では無罪の推定を受けるはずだ。ましてや、容疑者をかくまっているらしいというだけで、有無を言わさず巡航ミサイルをうちこんだアメリカの「正論」とは、なんなのか。
百歩ゆずって、もし仮に、アフガニスタンがチェチェン問題に関係しているなり、テロリストをかくまっているなりしているとしても、餓死者が出るほどやつれ果てている国にさらなる「経済制裁」等を加えることに意義があるのかどうか。たとえもし仮に相手が本当に「悪い」としても、人間の尊厳にのっとったフェアな裁きとは思えない。相手の弱みにつけこみ、「水と食べ物がほしければ言うことを聞け」と脅しているようにさえ思われる。
なにより残念なのは、国連は全体として「とにかくいま困っている国」をなんとか助けようとしているのに、米ロのわがままで、それに逆行するような提案がなされていることだ。世界中の国や地域の代表が「国連」という場で知恵を出しあい、話しあって決めた尊い結論が、米ロというたった二つの国の思惑で踏みにじられるのは、あまり良いこととは思えない。むろん「国連」自体、そもそもそんなに「尊い」ものではないこと、さまざまな権謀術数がうずまいているだろうことは、想像がつく。それにしても、ロシアはアフガニスタンに対する空爆の準備を完了し、アメリカは、すでに巡航ミサイルを撃ち込むなど、米ロのやってきたこと、これからやろうかと検討していることは、あまりに一方的で、尊大だ。
米ロとも、明確な「犯罪」事実を立証したわけでなく、単に「訓練基地があるようだ」とか「容疑者らしい」といった推定だけで、あまりにも強硬な姿勢に出ているように思われる。あえていえば、自分の言いなりになってくれない子どもアフガニスタンに対して、意地悪をしている陰湿なおとなのようにすら見える。
微妙な足並みのずれはあるものの、いま米ロは手を組んでアフガニスタンに「攻撃」をしかけている。その理由は本当に「チェチェン関与疑惑」「ラデン氏問題」だけなのだろうか。それだけにしては、やや、しつように過ぎるようにも思われる。もっと何か「裏」があるのだろうか。どうにも論理が不透明だ。
First foreign commercial flight lands in Afghanistan|UAE airline to operate weekly Afghanistan flights (from AOP):アラブ首長国連邦(UAE)の企業の飛行機が8日の日曜、アフガニスタン南部の都市カンダハルに着陸した(地図参照)。
昨年、国連安保理がアフガニスタンのタリバン政府に経済制裁と同時に空路の封鎖も課して、一般の外国機は、ずっとアフガニスタンへの乗り入れが差し止められていた(アフガニスタンの飛行機も国外に出ることが禁じられた)。というわけで、UAEの飛行機が入ったのはビッグ・ニュース。この飛行機は、UAEのシャルジャ(シャーリカ)とアフガニスタンのカンダハルを結び、今後も毎週一回、日曜日にフライト予定。
なぜ安保理が経済制裁を課したかというと……。1998年、アメリカは、「アフガニスタンはラディン氏(アメリカ大使館爆破事件の容疑者)をかくまっている、ゆるせない」といってアフガニスタンにいきなり巡航ミサイルを撃ち込んだ。が、ミサイルは外れてラディン氏には当たらなかった模様で、翌1999年には「公正な裁判をするからラディン出てこい、おらおら」と呼びかけた。が、出てこないので、「世界のみなさ〜ん、あの国は悪い国なんですよ〜。あそこには食糧を輸出しないでください」といえば、だれもアメリカには、さからえなかったとさ。
ちなみにアメリカは、アフガニスタンを「テロ国家」に指定しているが(最近ロシアも同調)、アフガニスタンの反政府テロ組織(ムジャヒディーン)を訓練し援助してたのはアメリカ自身。CIA の The World Factbook が2000年版になってから、その事実がちゃんと載るようになった。anti-communist mujahidin forces supplied and trained by the US
と書いてあります(本当は
forces でなく militia でしょう……)。当時の反政府というときの政府は、旧ソ連にサポートされた政権。旧ソ連もアフガニスタンに軍事介入してました。
それはともかく、このたび「人道的見地」から、アフガニスタンとUAEのあいだで週一回だけ国際便が飛んでいいことになった。少しは商業などの復興に役立つかもしれないし、なにより、効果がないどころか逆効果の「いじめ」制裁・解除への呼び水となるかもしれない。
UAE airline complies with UN sanctions against Afghanistan
Monday, January 22, 2001
DUBAI, January 22 (Itar-Tass) -- The Flying Dolphin, a private airline from the United Arab Emirates, has discontinued flights to Afghanistan when the flight of the Boeing 727 from Dubai to Qandahar was cancelled on Sunday.
The airline which began to perform some five flights, including charter, from Dubai and Sharjah to Qandahar and Kabul last October stopped registering new passengers for the flights.
The discontinuation of civil aviation flights from the United Arab Emirates to Afghanistan had been made necessary by the going into force of new U.N. sanctions against the Taliban government which has refused to extradite Islamic extremist Osama bin Laden accused of involvement in international terrorism.
The Flying Dolphin still hopes to obtain U.N. permission to perform humanitarian and passenger flights to Afghanistan.
To date, the United Arab Emirates was the sole "transshipment point" for Afghan citizens who worked in the Gulf countries. They number about 300,000 in the Gulf region.
The Taliban embassy staffed by 10 diplomats continues to work in Abu Dhabi. The diplomats mainly perform consular functions.
中東地域での紛争は毎日たくさん報道されているようですが、アフガニスタンの内戦でも、この二日間で140人以上が死んだと伝えられています。
掲示板2のほうで連載したように、今回、子どもに予防接種をするための休戦協定が破られ、予防接種が延期され、17日まで休戦してほしいと医師団のほうから両陣営に頼んでいました。それが、ふたたび破られたようです。むしろ休戦協定が戦略的に利用されたような感じさえします。15日と16日に反タリバン北部同盟側が激しい反撃に出たもようで(タジキスタン国境付近)、反タリバン側は、アフガニスタン北部の戦略上の拠点となるいくつかの町を占拠したと発表しています。15日のAOP(アフガン・オンライン・プレス)では死者40名とありましたが、16日のAOPでは140人が死んだという数字が出ています。
さらに、今回のイエメンでの「カミカゼ」テロと大使館爆破について、アメリカは「イスラム過激派」が犯人としていますが、またラディン氏が容疑者とされた場合、アメリカは「アフガニスタンはラディン氏をかくまっている」と称して、ふたたびアフガニスタンにミサイル攻撃などをするのでは、との心配が出ています。アメリカは、敗勢の反タリバン側を応援しているようなので、これまでの経済制裁にくわえ、さらに介入の口実を探しているかもしれません。
そんななか、キルギスタンが、タリバン政府を承認する意向を見せています。15日、日曜日の報道によると、キルギスタン政府・安全保障担当者 Bolot Dzhanuzakov さんが「もしアフガニスタンの人々が、これがわたしたちの政府ですと言えば、キルギスタンは、それを承認するでしょう。かつてのラバニ政権を承認したのと同じことです。内戦は良くないと思いますが、基本的には他国の内政に干渉する権利などありません」と語ったそうです。なんとも暖かいことばです。そう感じるのも、基本的に中央アジアNIC諸国はイスラムに対して非常に厳しい(要するに、ふだん冷たいことばかり言っている)からですが……。
戦争・飢え・水不足で人が次々死んでいるとき、「あの国の文化では女性はチャドルで髪を隠さねばならない。これは女性差別だから、そんな国の政権は認められない。であるからして、正当な政権がない国とは話しあいもできませ〜ん」などという当座の本質と関係ない議論は、やめてほしいのです(パロディー記事「男性差別国家ヤパンへの非難高まる」参照)。
世界中の破壊活動家に、自分たちの怖さを見せつけて、活動を思いとどまらせたいのかもしれない。「いちばん怖いのは俺たちだぞ。アメリカのものに手を出すとどうなるか教えてやろう」
それとも、犯人がよく分からないでむしゃくしゃしているのだろうか。「ちくしょう、やられた。頭きたぞ。だれでもいいから、一発なぐってやらなきゃ、気がすまない。また、あの弱い奴をいじめてウサを晴らすか……」
まぁ人間さんの考えには興味ないが、アメリカの報復テロの巻き添えをくう無関係の人々は、迷惑だろう。いや、百歩ゆずって、ラディン氏が犯人としよう。で、ラディン氏はアフガニスタン人ではないけれど、仮にアフガニスタンのどこかに住んでいるとして、アメリカがその住まいにミサイルを撃ち込み、ラディン氏やその家族、側近、使用人などをぶっ殺して「かたきはうったぞ、ざまあ見ろ」とくちをゆがめる……それは良いとしよう(まぁあんまり好ましいとも思えないけれど)。
けれど、この前それをやったときも、結局ラディン氏には命中しないで、関係ないところがやたら破壊され、無関係の人々が死傷したのではないか。
写真=アフガニスタンの子どもたち。スーパーミルクチャンのコスプレ中(嘘)。写真提供「燈台」、使用許可済
ともあれ、掲示板2で十日ほど前から追っていたネタがCNNにも出たので、以下、紹介しておく。
Afghanistan fearful of U.S. military strike after warship attack(From CNN Correspondent Nic Robertson)カンダハル、アフガニスタン − アブゥドゥル・ハイさんは、アメリカからの食糧援助で得た小麦を粉にひいて食べている。困窮のなかでもなんとか生きられるのはアメリカのおかげだと、感謝している。決してアメリカぎらいでは、ない。けれど、ハイさんは警告する。「イエメンでの事件の報復として、せっかちにアフガニスタンにミサイルを撃ちこめば、さらなる抗争が生じるだけです」
訳注:アフガニスタンのタリバン政権は、もし攻撃を受けたらパキスタン(アフガニスタンのとなり)の米施設に報復すると言っています。
二十年以上にわたる内戦で何百万人ものアフガニスタン人は疲れ果てている。ハイさんもそのひとり。ウサマ・ビン・ラディン氏の容疑などより、日照りでほとんど収穫がなかったことのほうが、切実な問題だ。
ペンタゴンの発表によると、月曜、バーレーンとカタールにおいて、米軍は最厳戒態勢「デルタ」に入った。「アメリカ市民およびアメリカ施設に対する具体的な脅威が認められる状態」だ。ペンタゴンの担当官は、ラディン氏の名をあげ、次のように語った。
「ラディン氏の容疑がかたまった場合、ラディン氏の組織に対する先制攻撃も検討している。そのような先制攻撃が、アメリカに対するテロ活動を妨害するのに有効と判断された場合だ」
二週間前のイエメンでの USS Cole 爆破事件では、17人のアメリカ人が死亡した。現在のところラディン氏の関与を認める直接の証拠はないが、ラディン氏の名は容疑者候補リストの上位に挙げられている。
1998年8月、米軍は、アフガニスタン東部のラディン氏の居場所およびラディン氏の活動と関係あるとされた工場に対し、ミサイル攻撃を行っている。ラディン氏が、ケニヤとタンザニアでの米大使館爆破事件を画策した疑いがあったからだ。
「見せしめ」に効果は、あるのかどうか。ラディン氏は、実際にはイエメンの件とは無関係かもしれないけれど、世界の「悪人」どもが「アメリカを怒らせると怖い」と思い知り、以降、アメリカを標的にするのを思いとどまってくれるなら、さしあたって、アメリカは目的を達したことになる。真犯人でないラディン氏を殺すのには倫理上、異論もあるだろうけれど、これが見せしめになって、世界が平和になるなら、まぁゆるされるのかもしれない。
ただ、歴史が示すところによれば、たとえラディン氏を殺せるとしても、ミサイル攻撃によってなんら罪のない無関係なアフガニスタン人が犠牲になれば、イスラム世界での反米感情は、かえって高まり、世界平和どころか正反対に、あちこちでさらなる抗争が生じる可能性が高い。
アフガニスタンに身を置いて考えれば当たり前すぎるほど当たり前のことで、あなたと同じ町(仮に東京都大田区としよう)に容疑者が住んでいるからといって、大田区全体をミサイルで破壊されたら、大田区民にしてみれば、攻撃者(アメリカ)を狂気の無差別テロリストとしか思えないだろう。
実際、これは欧米のプロパガンダでいうところの「イスラム過激派」のやり方と、なんら変わらない。ひどい目にあった大田区民は、アメリカの「正義のためにミサイルをうったのだ」という声明をあざ笑うしかない。
しかも、これまた歴史が示すところによると、こういうパターンでアメリカが撃った兵器は、ぜんぜん目標に当たらないのである。ラディン氏にもフセイン氏にも、当たらない。関係ない人や物が破壊され、たまたま付近に住んでいた人々は迷惑きわまりない。
当たらない理由も、はっきりしている。アメリカのちからの限界だ(もちろん限界があったほうがいいのだが。ある国だけが無制限にちからを持つのは好ましくない)。もしCIAが充分に強力で優秀なら、容疑者を拘束して法廷に引き立てればいい。それができないので、いそうな場所にやたらとミサイルを撃ち込むという原始的なことをやるのだろう。しかし、相手がどこにいるか、はっきりしないのだから、そうそうミサイルも当たるわけない。
また、このやり方では、もしうまくミサイルが当たって殺せても、今度は真犯人をつきとめられなくなってしまう……つまり、あとで大使館爆破の真犯人が分かっても、ラディン氏を犯人とみなし過激な軍事行動で殺してしまった手前、上層部としては、うやむやにするしかなく、本当の犯人を裁けないか、あるいは極秘で裁くという、ややこしい事態になる。
きちんとした司法手続きを踏まずに、いきおいにまかせて軍事行動に出れば、このように、あとあといろいろなひずみが生じるだろう。
「爆弾犯人に裁判なんか要らない、やらなきゃこっちがやられるから、ミサイルをぶちこんでやれ」……というのは、たぶん、多くの日本人の感覚ともマッチすると思う。日本のひとびとは、裁判も終わらない推定無罪の相手に対して――つまり裁判をちゃんと受けさせないうちに――警察の発表(に尾ひれをつけるメディア報道)だけで、あんなのは死刑に決まってる、と簡単に信じるようだから、本質は同じだろう。
ちょっと話がそれるが、警察は、本来、行政機関であって、警察の発表には、なんら司法上の効果もない。くだいていえば、警察の発表というのは、週刊誌の記者が書いたスクープ記事と同じようなもの。そのスクープが正しいのかどうかを判断するのが、裁判所の仕事だ。要するに、警察につかまる、ということは、「不倫疑惑?」などといって芸能レポーターにつかまるのと同じレベルの事柄だ。
余談はさておき、もし仮に、本当に相手が犯人で、裁判にかければ死刑になることが100%確実で、かつアメリカの撃ったミサイルが純粋に正義と平和を守るための攻撃だとすれば、いちおう、この場合は問題ない(関係ない人がまきぞえをくらう点をべつにすれば)。ただ、歴史がおしえるところによれば、このように権力が集中すると、なにかとまずいことが起きやすい――この例では、米軍(ペンタゴン)が「悪質なテロ容疑者はミサイルで殺して良い」という「法律」をつくり、ラディン氏がそうであるという「捜査」を行い、刑を執行するか猶予するかといった「判断」も行っている。
同じ人間なり組織が、「法律を決めること」(立法)、「法律を運用したり、とりしまること」(行政)、「法律に反しているかどうか判断したり、刑罰を執行すること」(司法)をぜんぶ行える場合、事実上、なんでも可能になってしまう。自分につごう悪い人間が「違法」になるよう勝手に法律を作り、逮捕して、処刑してしまえばいいからだ。
独裁者も、優秀で善良であれば、掌握した権力を有効利用して、ほかでは不可能なような大胆な改革を進めることができる。そのようなケースも実際にあるだろう。けど、多くの場合、権力が集中してしまうと、その権力者は、ろくなことをやらない……というのが歴史のおしえるところだ。このような経験をふまえ、人間の弱さに対処するために、法律を決める権利と、とりしまる権利と、裁く権利を分けることで、人間は、自分があばれださないように、自分をしばった。三権分立とは、弱い人間がみずからを律するための知恵であり、もし人間がもっと超然としていれば、べつに分立させる必要もない。有害と知りながらどうしても禁煙ができないで、ライターに鍵をかけるようなもの。
それはそうと、アメリカは世界の警察をきどっているようだが、もし被害にあったのが日本の船でも、しゃしゃりでてきて犯人のいそうな場所におしおきミサイルを撃ち込むのだろうか? だとしたら、それはそれで、うっとうしい。アメリカが手を出したせいで、日本は、望んでもいない戦争に巻きこまれるかもしれない。さりとて、(同じように悪質なテロ事件でも)たまたま被害者のなかにアメリカ市民が含まれていたときだけ特に厳しく対処するのは、国籍における「人種差別」のようで、気にかかる(「白人が殺されたときは犯人を徹底追及し死刑にする、黒人が殺されたときは捜査もしない」)。アメリカ国内でのことならそれも当然だろうが……。
もとをただせば、いくら凶悪犯罪の容疑者がそこにひそんでいるからといって、よその独立国にミサイルを撃ちこむところが、そもそもの間違いだろう。ラディン氏がひそかに潜伏先を日本に変えたらどうするつもりか? アフガニスタンだと撃っていいのか? いいか悪いか、だれが決めるのか?
アメリカ合衆国は、歴史上、数々の輝かしい記録を残しつつ、他方において無数の汚点をも残している――「軍事力で圧倒的にまさっていれば、弱小国の主権を踏みにじって良いのだ」という考え方は、あとあと悪いお手本となり、とうのアメリカ自身をも苦しめることになるだろう。アメリカ本国で「暴力はいけません。問題は話しあいで解決しましょう」と子どもたちに教えようにも、これでは、子どもたちに信頼してもらえないだろう。暴力事件を減らすために、バイオレンス映画やホラービデオをとりしまる? ちゃんちゃらおかしい。子どもの目のなかのごみを取ってやりたければ、まず自分の目のなかの丸太をどかすべきだろう。
軍事攻撃も「最後の手段」としてはアリだと思うが、相手はぜったいに反撃できない弱い国だからって、安易にやりたい放題やると、必ずめぐりめぐって、あとで後悔するだろう。
日本が軍隊を持っていたら、やはり同じことをするのだろうか。
U.S. official denies report of bin Laden-Cole link(CNN 10月27日):12日のイエメンでの事件がラディン氏と関係あるとする報道があって、またミサイル攻撃か、という観測が出ていましたが、それは単なるうわさで事実でないと、アメリカは公式に否定したもようです。地下鉄が脱線すると、またオウムかと騒ぐヒステリーは、日本のものだけでもないようです。
27日ワシントン発AP電は、少しニュアンスが違って、「ラディン氏は容疑者として徹底調査されたが、有力な証拠は出なかった」となっています。
他方、アメリカの侵攻がなくとも、食料援助がないと、この冬、100万人程度が餓死するのでは?と、金曜、世界食糧計画(WFP)が発表したそうです。このニュースが複数のメディアで流れてます。これも単純化していうとアメリカの攻撃――兵糧攻め(ひょうろうぜめ)――の結果です。国連安全保障理事会の経済制裁(けいざいせいさい:食べ物や水を与えないリンチ)の結果です。何を制裁したいのか知りませんが、とりあえず、国連で現在のアフガニスタンを国として承認したほうが良いように思います。
アフガニスタンのニュースです。
アメリカの侵攻はないだろうとのことだったのですが、一部でアメリカはアフガニスタンを攻撃したとの報道(うわさ)がありました。アフガニスタンのタリバン政権は、攻撃を受けたとのニュースを否定しました。しかし、アフガニスタンの通貨アフガニは急落、対米ドルで史上最安値を記録しました。BBCの現地レポートによると、現地では、依然アメリカのミサイル攻撃への不安が高いままです。ロシアも軍事介入するかもしれないと思われています。そのわけは、反タリバン側の司令官がロシア国防相と会談し、ロシア(とイラン)が反タリバン側への支持を重ねて表明したためです。
アメリカはミサイル攻撃の前歴がありますし、ロシアも軍事介入の前歴があるので、人々は気が気でありません。
ロシアは、アフガン紛争について、戦いによってでなく話しあいによって解決すべきだとしていますが、その一方で、中央アジアの安全確保のためとして、来年(2001年)、旧ソ連邦の諸国(トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタンなど)で合同空軍を作り、アフガニスタン国境付近で合同軍事演習を行うことに決めました。
ロシアからの人道的援助として、大量の医療物資がタジキスタンに届きました。これは、アフガニスタン北部の最近の戦闘で、住まいを失ったアフガン人に対するもので、すぐにも国境を越えてアフガニスタンへ送られる予定です。しかし、反タリバン側の支配地域にしか配られないようです。また、反タリバン側からみても充分な援助でないようで、さらに追加の緊急援助がないと命の危険にさらされる人が多いと反タリバン側は述べています。(タリバン側からみると、反タリバン地域だけへの後方支援は、迷惑な内政干渉というか、間接的な軍事介入の側面を持っているでしょう。)
タリバン側は、現在、国土の95%までを平定し、反タリバン側の武装勢力は北へ北へと後退、北部国境付近のぎりぎりのところまで後退し、最後の反撃を試みています。上の地図でフェイザーバードとあるタジキスタン国境付近が最後のとりでとなるかもしれません。
ロシアの権益としては、アフガニスタン北部の天然ガスがあります。旧ソ連の援助で開発されて、かつてはソ連へ輸出されていました。余談ですが、チェチェンの独立にロシアが猛反対して軍隊まで派遣してるのは、あそこが石油パイプラインの大動脈だからで、民族がどうこうは、あまり関係ないようです。ちなみに、アメリカの国益としては、トルクメニスタンの天然ガスの開発計画がありました。天然ガスといのは、石油代替エネルギーとして注目されてるもので、20世紀が石油の世紀なら21世紀はガスの世紀になるのでは、という人もいるほどの重要物資。トルクメニスタンには非常に大量の天然ガス資源があって、これをパキスタンまでパイプラインで運ぶ計画を米企業が立てています。上の地図から明らかなように、このパイプラインはアフガニスタンを横断するので、アフガニスタンに対するアメリカの影響力が強くないと計画実現できません。
有限なリソースは必ずとりあいになるし、そうでなくても権益をめぐってややこしいことになりがち。「海水ジュウテリウム発電」いわゆる核融合が実用化すれば、地球上の争いの原因の過半が消滅するでしょう。
さて、アメリカ議会のほうですが、良いニュースがあります。くだいていうと、アフガニスタンで選挙で政権を選んだら、それを承認しようというような議案が満場一致で可決されました。例えばタリバン政権であっても、選挙によって支持を集めれば、アメリカは、これを認める方針に転換したようです。とはいえ、同時に、アメリカ議会は、人権問題とケシ問題でタリバンを非難しました。
ケシ問題、つまり麻薬問題ですが、ヨーロッパに流通するヘロインのうちのかなりの割合がアフガニスタン産のケシを原料にしてる、という話で、前にも書きましたが、これは見かけより複雑な問題です。まず繰り返しておきますが、アフガニスタンの農民がヘロインで儲けてるわけではありません。ブローカーからカネをもらって、原料のケシを栽培してるだけです。現地農民はケシを作っても、食べていくのがやっとというのが普通のようです。内戦のほか、アメリカが言い出した経済制裁のせいで、畑の給水設備などが整備できず、荒れ地でも栽培可能なケシくらいしか作れるものがない、という因果関係も指摘できます。アフガニスタンのタリバン政権は、繰り返しケシ栽培を禁止していますが、内戦があるため、国土全域を完全にコントロールできるわけでなく、麻薬業者もそこに目をつけているようです(前はパキスタンの農民にケシを作らせていたが、パキスタン国内のとりしまりが厳しくなったのでとなりのアフガニスタンに来た)。
非合法作物の栽培をやめさせるには、少なくとも、代替作物を栽培できるような環境を作ること、アフガニスタンの人々が自由な商取引をできるように経済制裁を解除することが望まれます。単にケシ畑を焼けというのでは、死ねというのと同じです。
人権問題、とくに女性の地位の問題ですが、これは、切実な事実である部分と、介入の口実(プロパガンダ)の部分があるようで、事情が分かりにくくなっています。ある地域の石油なりの権益がほしい大国が、その地域の民族の解放だとか独立支援だとかを口実にあれこれすることは、よくある話ですが、アメリカのいう「アフガニスタンの人権問題」には、そういう面もあるようです。切実な問題のほうに真剣にコミットしている誠実な人々からみても、なんであれアメリカが人権問題に関してタリバン政府を非難すれば、我が意を得たりと思ってしまうわけですが。
次のニュースです。アフガニスタンからパキスタンへ流出する難民(というか避難民)が最近、急に増えて、UNHCRもびっくりしています。一部報道では北部での戦闘激化のためとされていますが、実際には、もっと単純な理由、つまり冬が来て寒くなるから、そして食べ物がないからのようです。春夏の最悪の日照り続きで、作物がほとんどとれなかったようです。もともと不足気味の飲み水が日照りでさらに欠乏し、死者も出ていると報告されています。
アフガニスタンのニュースです。
きょうはフランスの通信社AFPが配信したフェイザーバード発の現地レポートをお伝えします。フェイザーバードは、アフガニスタンのいちばん奥の辺境で、もちろん内戦の不安なニュースはあるものの、人々の暮らしは比較的のんびりしているようです。例えばフランス革命の「動乱期」といっても、ピレネーの山奥に住むフランス人には、あまり関係ない遠い世界の話だったと思いますが、ちょうどそんな感じかもしれません。ただし内戦の影響は大きく、人々は耐乏生活をしいられ、町には電気も水道もないままです。
とりあえず地理の説明から。このまえ使ったアフガニスタン北部の地図を、もう一度、はりつけておきます。
右上のタジキスタンという字の下のほうに、ちょっと読みにくいですが、フェイザーバードという町があるのが分かるでしょうか。以下、このあたりのお話です。地図に「ワハン回廊」とあってアフガニスタンの領土がでっぱっていますが、でっぱった先は中国。上はタジキスタン、下はパキスタン。パキスタンとの国境が地図にもある「ヒンドゥークシュ山脈」で、平均標高4000メートルくらい、アフガニスタン内の最高地点は地図にもある「ノシャック山」(ノシャーフ山)7470メートル。いずれにせよ、たいへんな高地です。
そして、いちばん上にこの山脈の写真が一枚あげてありますが、「アルプスの少女ハイジ」の舞台になってもいいような美しい風景です。フランス通信社の記者も、記事のなかで picturesque
と表現しています。
では、このあたりをさらに拡大してみましょう。
太線は国境、緑の破線がアフガニスタン国内の県境。フェイザーバード(Feyzabad)は、バダフシャン県の中心地、いわば県庁所在地のようなものです。この県には、約50万人が住んでいます。となりのタハル(TAKHAR)県(県庁所在地Taloqan)のあたりは、掲示板2でお伝えしているように、最近の戦闘の前線になっています。タハルは9月にタリバン政府軍の支配下に入ったものの、10月になって反タリバン北部同盟が奪回作戦を実施、激しい攻防が繰り広げられています。
記事にあるように、この山奥のバダフシャン県には、お米を主食にしている人が多いそうです。ちなみに、アフガニスタンの人は緑茶も飲むようです。日本からみてなんとなく親近感がわくかもしれませんが、なんといっても、ここはアジア。中国のとなりの国です。もともとヨーロッパなどよりは日本と共通点が多いでしょう。ウズベク人が40%と出ていますが、ウズベク語はアルタイ系。日本語の系統は不明ですがアルタイ系に近いといわれてますので、広い意味では日本人の遠いきょうだいと言えるかもしれません。
写真は画質がいまいちですが、アフガニスタンの食べ物のページより――このリンクをたどると、もっとうまそうな料理がいろいろ出ていますけど、ここでは、おっ、お米のごはんだ、ということで、この写真を引用。見づらいですが、明らかに東南アジアふうの長米種でしょう。写真のお料理の説明:「サブジー・チャラオ。サブジーとは、刻んだほうれん草で、エシャレットといっしょに、ガーリック風味のソテーにします。子羊のすね肉にそえて、白米といっしょに食べます。チャラオは白米のことですが、中国の炊いたご飯とは異なります(※たぶんピラフのたぐいでしょう)。チャラオ(米)といっしょに食べるのは、上記サブジーのほか、「コルマ」でもOK。コルマとは、玉ネギ、トマトペースト、辛みの少ない香辛料から作るアフガニスタン独自のソースのことです(※とろみのある野菜スープのようなものでしょう)
」
2000年春に妖精現実でアフガニスタンをとりあげたころは、タリバンの支配地域は80%くらいと言われていました。CIAの1999年資料には「約3分の2」と書いてあったのを覚えています。それが、最近のアフガン・ニュースは、どれを見てもタリバンの支配地域はアフガニスタンの95%と書いてあって、タリバンの支配が広がっているのは明らか。たしかに、はやく100%統一してほしいという気持ちもあります。が、残りの5%の地域に住む人々からみれば、タリバンの体制下に移ることは生活の大きな変化を強いられること。今まで当たり前に思っていたことが、宗教上の理由で禁止されたりするかもしれません。麻薬の原料となるケシの栽培(これもアフガニスタンの古くからの伝統ですが)などは、あるいはタリバンが強権を発動して禁止したほうが良いかもしれませんが、一般的に言うなら、文化に深く根ざした習慣というのは変えにくい(簡単には変えたくない)ものでしょう。
例えば、「純潔主義者」が日本を支配して、日本人は、あしたからタバコを吸ってはいけないというおふれを出したら、困る人も多いでしょう。たしかにタバコを禁止するのは良いことなのですが、あまりに急激で力まかせの変化は、かえって非合法活動(ヤミタバコの高騰、それをとりしきる組織の暗躍など)や、潜在的不満の暴発などの、ひずみを生じるでしょう。とくに変化が、多数派のコンセンサスを得ていない場合には。
ともあれタリバンは優勢で、現在、反タリバン北部同盟は、窮地に立たされています。タリバンを政権と認めるなら、反タリバンは反政府ゲリラということになりますが、アメリカなどはタリバン政権を認めていませんし、ロシアとイランも反タリバン側への支持を明言しています。今なお反タリバン側である最後の地域が、今回の記事に出るバダフシャン県です。
それではAFPのレポートを日本語訳で引用しておきます(原文はこちら)。ラバニ大統領がこんなところに落ちのびて、現地の人々からは敬愛されているらしいことなど、アフガニスタンの歴史を知る者にとっては、興味しんしんです――共産主義のクーデター、ソ連の軍事介入、共産政権に対する反政府ゲリラ「ムジャヒディン」(アメリカの支援あり)、ついにソ連を追い出し、政府を転覆して、新たに大統領におさまったラバニ氏だったが、そのラバニ氏が内部の権力争いで追放され……でも今ではラバニ氏を追放したはずのムジャヒディンの象徴になっている。ゲリラから大統領、と思ったら追放された。と思ったら、今度は反タリバンの結束のなかで象徴的元首になっている。バダフシャンの山奥で、今なにを考えているのでしょうか。またアメリカの介入で自分が大統領になれるかもしれない、という期待は、当然あると思います。
FAIZABAD, Afghanistan, Oct 26 (AFP) - バダフシャン県は、アフガニスタンの北東の端にある。岩だらけだが美しい地方だ。反タリバン側が完全に支配する最後の県となった。この土地を守っているのは、反タリバン側の抵抗力だけではない。険しい道だ。
バダフシャン県は、北はタジキスタン国境、東は中国国境という最果ての高地。ほとんど道らしい道もなく、外界から遮断され、生活は恐ろしくのんびりしている。
ブルハヌッディン・ラバニ大統領は、1996年、タリバンによって首都から追放され、ここバダフシャン県を本拠地としている。「タリバンの軍も、バダフシャンまでは来ないだろう。道がないのだから」と語っている。
移動の困難にくわえ、パシュトゥーン族が人口のわずか5%にすぎないこの地では、タリバンたちの思想(イスラム教とパシュトゥーン族の慣習法から成る)も受け入れられがたいだろう。
アブドゥラさんはパシュトゥーン人だが、「ここではパシュト語でなくダリ語(ペルシャ語系)を話します」と言う。四世代にわたってバダフシャンに住んでいる。「アフガニスタンでもパシュトゥーン族がこんなに少ないのは、この県だけです」
多様な民族がつどうこの土地で、半数を占めるのがタジク人(イラン系)、ついでウズベク人(アルタイ系のウズベク語を話す人々)も多く人口の約40%を占める。
タリバンは先月(2000年9月)、手前のタハル県の中心地タロカンまで進軍した。バダフシャン県の中心地フェイザーバードの人々にも不安が広がった。
ここに住む人々のほとんどは、タリバン政権下の(宗教的な)厳格主義の生活をまったく知らないが、「男はあごひげを伸び放題にしなければいけない」だとか「女は仕事をやめなければならない」といった奇妙な政令のうわさは聞いている。
「ムジャヒディン(反タリバン)の指揮官たちは、タリバンたちがタロカンに至ることを恐れていました。そこを失うと、逃げ道がないからです。背後はタジキスタン国境ですが、タジキスタン側は国境を開いてくれないでしょう」国連のために働いているあるバダフシャン県人は言った。
国連と赤十字のフライトを除けば、外界とこの土地を結ぶ簡単な道はない。バダフシャンで人道的援助を行うグループは、ここが戦闘状態になった場合の独自の避難計画を立てている。何日もかけてタジキスタンへの悪路をドライブするのだ。国境の町エスカシェム(Eskashem)経由で(※エスカシェムは、さらに奥地のタジキスタン国境の町。上の拡大地図に出ています)。
南から攻めてくるタリバンの恐怖はあるものの、最近のアーメド・シャー・マスド将軍ひきいる反タリバン側の反撃で、この美しい町フェイザーバードにも若干の落ち着きが戻った。
「我々はマスドを愛しています。偉大なる戦士です」地元のタジク人は言う。
アフガニスタンのどこでもそうだが、ここでもタリバン流の厳格なイスラム教徒(Islamic Mullahs)は多い。しかし、彼らの影響力は絶対的ではない。(この地を本拠とする)ラバニ前大統領の存在のためだ。ラバニ氏は熱心だが穏健なイスラム教徒で、権威あるカイロのAl-Azhar大学で学んだ神学者でもある。
フェイザーバードの町は旧市街と新市街に分かれる。旧市街の商店街では女性はまれで、みな頭からつまさきまでのベールを身につけ、顔を網で隠している。タリバン支配下の地域では義務づけられていることだが、タリバンの支配下にないフェイザーバードでも女性たちがこうしている、ということは、つまりこれがタリバンによる押しつけというより、もともとの伝統的文化コードにすぎないことを示している。
店は、山腹にあって、商品は乏しい。とくに野菜類を見つけるのは困難だ。比較的に豊富なコメが、ほとんどの人々の主食となっている。
11月2日、木曜日、アフガニスタンのニュースをお伝えします。
BBCのレポートによると、タリバンは、近隣諸国に対して、アフガニスタンを攻撃しようとするアメリカやロシアに領空を使用させないよう、訴えました。
アメリカは、イエメンでの米軍艦爆破事件について、今のところラディン氏の関与を否定してません。そのため、アフガニスタンに対するアメリカの空爆があるのではないかとの不安が残っています。すでにお伝えしたようにパキスタンだけは、パキスタン領空を使用するアメリカの軍事行動の禁止を明言しています。
タリバン側のムタワケル外相は、「国連がいまだに追放されたラバニ大統領の政権を支持しており、そのことが内戦をひきのばす原因になっている」として、国連を非難しました。ムタワケル外相は、国連がラバニ政権を承認していることが、反タリバン北部同盟の精神的支えになっていると指摘しました。また、ムタワケル外相は、ラバニ氏はロシアに軍事援助を求めているとして、ラバニ氏を非難しました。(※ロシアは反タリバン側への支持を明言しています。)
その一方でムタワケル外相は、パキスタンがタリバン側を援助しているとの説を否定しました。また、タリバン側は、もしアメリカの攻撃を受けたら、報復することを重ねて表明しました。
次に、パキスタン発の報道によると、パキスタン側は「アメリカによるアフガニスタン侵攻は、事態をますますややこしくするだけで、何の解決にもならない」と述べています(10月31日)。その一方で、パキスタンは、アメリカのアフガニスタン空爆というのは可能性にすぎず、アメリカが具体的に計画を進めているわけではないとの認識を示しました。
さて一方、反タリバン側の反応ですが、ヘズベ・イスラミは「アメリカは、タジキスタン側からアフガニスタンを攻撃するかもしれない」と述べています。ヘズベ・イスラミの代表者がラジオテヘランに語ったところによると、現在、前線がタジキスタン国境に迫っていることをロシアは脅威に感じているはずで、ロシアも、タジキスタン側からのアメリカの軍事介入を支持するだろう、とのことです。なお、ロシアも、独自にアフガニスタン空爆を計画していて、一時は空軍が出動準備に入るところまで緊迫していました。
反タリバン側にしてみると、自力での挽回は、もはや困難なので、大国の軍事介入に期待するのは当然でしょう。またタリバン側が主張するように、諸国が反タリバン側のラバニ前大統領の政権を正当としていることが、反タリバン側にちからを与えているのも事実でしょう(※日本は、どちらの政権も承認していない)。
LONDON, November 1 (Itar-Tass) - ロンドンの外交筋は1日、アメリカの空爆決定は近いとの見解を示しました。すなわち、アメリカの大統領選挙(一般投票11月7日)前に攻撃があるのではないかとしています。このような観測は前からありましたが、具体的な根拠があるわけでもないようです。
KABUL, Nov 1 (Reuters) - アメリカまたはロシアによるアフガニスタン侵攻への不安から、アフガニスタンの通貨アフガニは、どんどん値を下げています。関係者は「マーケットは、すぐにも攻撃があるかもしれないということで過敏になっている」と話しています。外為市場(がいためしじょう)は、ちょっとしたうわさだけで必要以上に大きく動くものですが、とにかく人々のあいだに米ロの侵攻への不安が高いのは事実のようです。
米ロは、そうしようと思えば「絶対にアフガニスタンへの軍事攻撃はしません」と明言できるのに、そうしていません。攻撃の可能性を否定せずに、さまざまなおもわくに揺れる両陣営をにやにや見ているようです。
反タリバン側の最後のテリトリーとなったバダフシャン(バダクシャン)県の話題が、1日の The Guardian に出ました。バダフシャンについては、11月1日の記事で詳しく書きましたが、ここだけは、今もタリバンの支配力が及ばず、テレビも禁止されていません。
というわけで「バダフシャンTV」は、アフガニスタンの最後のテレビ局。どんな番組をやっているのでしょうか。毎晩のニュースでは、タリバンとの戦闘のことや、タリバンが支配しているアフガニスタンのほぼ全域ではテレビなどのうわついた娯楽が禁止されていることを、繰り返し伝えているようです。そういえば、バダフシャンの人が反タリバンの将軍を愛していると言っていたのも、タリバンは変てこなおふれを出すとうわさしているのも(11月1日の記事参照)、もしかして、このテレビ局が作っているイメージなのかもしれません。
ニュースが終わると、お祈りの時間。それから古い映画。アフガニスタンの首都カブールがタリバンの支配下に入る直前に、カブールから持ち出したビデオが1200本あるそうで、それを順繰りに放送してるようです。ダリ語の字幕がつくそうです。「人気があるのは『ランボー』と『スターウォーズ』です」とテレビ局のカワハニさん。テレビ局にはカメラが一台しかないとのこと。放送は夜の3時間で、16年使い続けているソニーの古いビデオで流しているそうです。「テレビ受像器を持っている人は、だいたい4分の1くらい。でも、ぜんぶが映るわけじゃないんです。この町には電気がないので、高価な自家発電装置が必要です」
テレビ局には衛星アンテナがあり、BBCやCNNを受信できますが、それを再放送することは、してないそうです(需要が見込めないため)。
「人々に真実を知ってもらいたいのです。タリバンの支配では、女性の地位がおびやかされるばかりか、テレビがなくなります」
バダフシャンの人々は、「テレビをとりあげる悪い連中(タリバン)」をやっつけてくれる正義の味方・アメリカのミサイル攻撃に、期待しているのかもしれません。
バダフシャンは、タリバンの支配下にはないけれど、それでもイスラミックな文化圏であることには変わりありません。女性は学校に行ったり外で働くことができますが、外に出るときには、からだ全体を覆う外套を身につけています。西側プロパガンダでは、「タリバンは女性の権利を踏みにじり、からだを隠すように押しつけている」と宣伝されていますけど、実際には、単なる伝統文化、「社会的なコード」ないし「恥じらい」でしょう――タリバン支配地域以外でもアフガニスタンの女性は、そうしているのだから。日本で男性だけがネクタイ着用を義務づけられていることも「外からみると」おかしいのですが、そのシステムのなかでは、単に当然の慣習にすぎないように。時代の変化につれて変わるべきものは変わるべきですが、強引な外力による強制的変革は、なるべく避けたいものです。
テレビ局にも、女性職員は、いないそうです。「まあたしかに保守的ですが」とテレビ局のカワハニさんも認めています。「でも、こんな設備で放送ができること自体、奇跡ですよ」
11月2日、木曜日、きょうのカブールは、晴れ、ところによりくもり。最高気温は22℃、最低気温は8℃の予報です。週末から来週にかけて、ずっと晴れるみこみで、気温も同じくらいでしょう。
ただし、ところによっては、空からミサイルが降るかもしれないので、充分に注意してください。