趣味Web 小説 2005-06-23

梅田望夫さんが見ている、どこか遠い世界

梅田望夫さんの記事って、どんな層を対象に設定して書かれているのだろう。そして実際の読者は、どんな人々なのだろう。

  1. 「これからの10年飲み会」で話したこと、考えたこと
  2. 「勉強能力」と「村の中での対人能力」
  3. 「知の創出」のコモディティ化への戸惑い

世の中は日に日に複雑化し、「勉強能力」「学習能力」が仕事上ますます大切になっているのは事実である。ただその一方で、それだけで飯が食える場(チャンス)が確実に減っている気がしている。インターネットのおかげで。あるいはインターネットのせいで。

それで一つの仮説として、「飯を食うための仕事」と「人生を豊かにする趣味」はきっちり分けて考え、「勉強好き」な部分というのは「音楽好き」「野球好き」「将棋好き」と同じ意味で後者に位置づけて生きるものなのだ、と考えるってのはアリなのかもしれないなと思い始めているのである。文学や哲学が好きで文学部に進んだ人なんかの場合は、「最初から就職先あんまりないぞ」みたいな覚悟があって、ほんの一握りの才能を持った人以外は、「勉強好き」(自分が楽しめると思える領域の勉強)の部分を仕事で活かせるなんて、はなから諦めていた。そしてその部分を「人生を豊かにする趣味」と位置づけて生きるのは、これまでも当たり前の流れだったのだろうと思う。その感じが、文系世界では経済学部や法学部のほうまで、そしてさらに理系にまで、どんどん侵食してくるイメージ。そう言ったらわかりやすいだろうか。同意できる仮説かどうかは別として。

では「飯を食うための仕事」という部分では純粋に何が大切なの? という話になるとやはり「対人能力」なんだろうな。そこをきちんと意識しておかないと、つぶしが利かないんじゃないかなぁ。そんなことが言いたかったのである。ここでいう「対人能力」は前エントリーで述べた「村の中での対人能力」ではない。組織の外に向かって開かれた「対人能力」のことだ。

こんなことに戦々恐々としなきゃいけないのだから、上昇志向のある方々はお疲れ様。私は社会の底辺で細々と生きていければそれでいいと思っているから、梅田望夫さんのおっしゃるような危機感には縁遠い。

梅田さんが飯を食うための仕事と書いているのは引っ掛け。敢えてどぎつく書けばウソです。それはつまり、現在の日本において新卒者が「就職先がない」というのと同様のウソ。何だってよければ仕事自体はあるわけです。

今、うちの職場で一番高い学歴を持っているのは事務員さんで、都の西北の某大学卒。正社員ではなく派遣社員。

もったいないと思う人は多いでしょうが、私はそう考えない。余裕をもって仕事をして、気楽に生きていくという幸せの形がある。私の母がそうでした。高校時代、トップクラスの成績を誇りながら進学せず、就職。10年くらい働き、簡単な仕事を簡単にこなして楽しく旅行などしていたわけです。そして非才の父と見合い結婚し、あっさり専業主婦におさまりました。

才能を十全に発揮することに関心がなく、結婚相手まで非才の人を選んだ母は、しかしこれまでの50余年、幸せな人生を送ってきたと思います。当人も常々そう語っているし、周囲の声も同じ。世の中には、こうした幸せの形があります。

「勉強能力」と「村の中での対人能力」みたいなものさえあれば楽しい仕事人生を送れる、という選択肢が、ここ数十年の日本社会にはかなりあった。(中略)一流大学を出たかなり多くの人が、大組織に勤めているいないは別として、そういう部分の「甘え」を持ちながら生きている。

「これからの十年」さらに「その先の十年」は、そういう「甘え」が命取りになる時代なんだと思う。

梅田さんは一流大学卒でプライドの高い人を前提として話をしているから、命取りなんて言葉が出てくるのだと思う。「左遷」されて憤激するような感覚で書いているのではないか。

私も一応、某旧国立一期校の出身者だから、自分の話として書かせていただくけれども、これは生き方の問題です。プライドを捨てれば、「勉強能力」と「村の中での対人能力」みたいなものさえあれば楽しい仕事人生を送れるはずなのです。

音楽や野球や将棋の仕事での役に立たなさと比較して、お勉強はまだしも役立ちます。漢字が読めるだけで全然違う。新聞記事が読める、2桁×2桁を暗算できる、地理・歴史・政経などの素養がある、パソコンのトラブルにある程度まで自力で対処できる、これらの能力があるとないとでは大違いです。梅田さんはご存じないかもしれませんが、本当に勉強ができない人は、これらのことができません。

話のレベルが低すぎますか? そうかもしれません。しかし私はそれなりの大学を院試免除(学科のみ)が公示される成績で卒業しましたが、四国4県の県庁所在地を全部いえたら「賢い人」に分類されるような世界に生きています。

梅田さんの描いている世界には、100人に1人くらいのトップ層しか暮らしていないのではないか……ふと、そんなことを思ってしまう。現実感のない、どこか遠くの世界に見えるのです。

手取年収200万円あれば食うには困らない。年収1000万円なんて一般人には手の届かない世界なのだし、次の10年を考えるより「年収300万円時代を生き抜く経済学」でも読んだ方が幸せになれる人は梅田さんの読者の中にも多いと思う。

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