趣味Web 小説 2006-01-16

メモ:若年無業者問題、社会学的アプローチへの疑問

若年無業者の増加が続き、いよいよ危機的になっているということで、昨年はニートとか縦並び社会といった言葉が流行りました。

本田由紀さんは玄田有史さんに代表される「人間力の向上による若年無業者問題解消」の主張を強い調子で批判されている教育社会学の研究者です。

ところが fhvbwx さんは上記記事において、本田由紀さんとNEET論者との違いはさっぱり分からないと述べています。

私が思うに、ニート「更生」論も本田由紀さんの専門教育(Ex.工業高校,商業高校)活性化提案も、個々人がレベルアップすれば労働需要は増大するという前提に立っている点で世界観を共有しているのではないかな。

たしかに私の勤務先でも、「ものすごく優秀な人が応募してきたら、中途でも何でもすぐに採用するはず」という話を方々で聞きます。「学歴じゃない、仕事ができればいいんだ」ともいう。とはいえ、その基準は超キビしい。一流企業のエース級社員が労働条件の格段に劣る職場へ転職を希望するわけもなく、事実上、ジョークの域を出ていない。

無業者に対する教育支援などが無意味だというつもりはありません。ただ、「優秀な人材が足りない」という声を真に受けて、対人能力を専門教育を通じて獲得する人が増えれば若年無業者問題が解決に向かうとの考え方は疑問。仮に現在、工業高校の卒業生が普通科高校の卒業生より就職率が高いとしても、それは単に彼らが就職活動を勝ち抜く能力が高いだけで、工業高校の存在が雇用の枠を広げているわけではなさそうなので。

やはり人手が足りなければ否応なく雇用を増やさざるを得ず、逆に不景気でどうしようもないなら、有能な人材だって放出する他ない。ニートがどうの、専門教育がどうの、といっても、個々人のサバイバルスキル向上を支援する制度を用意することしかできず、「無業者を減らす」という目標は実現されないでしょう。もし有能な若年無業者が何らかの施策によって社会に出れば、代わりに無能な労働者が失業するのではないか。

結局、本田さんや玄田さんのようなアプローチでは、「より適切な敗者の選別」が可能となるだけのように思います。

……と、書いてきてようやく気付いたのだけれども、教育社会学を専門とする立場で「若年無業者対策はマイルドインフレ+名目賃金微増(実質微減)+景気回復に尽きる!」とかいっても「で、あなたの仕事は?」となってしまうわけで、クリティカルな提案とはなりえなくとも専門教育に着目した提言を行うのは本田さん的に当然なのかもしれない。

補記

団塊の世代の定年退職が労働力不足を招き若年無業者問題を解消するという説を時々新聞などで目にしますが、愚論ですね。なぜなら引退者の激増は社会に危機をもたらすからです。現在は雇用が足りないので60歳定年も仕方ないものの、将来的には景気の力強い拡大により雇用をどんどん増やして老人の再雇用を進めるべきなのです。だから近視眼的に、団塊の世代が引退して若者が就職できてよかったね、ではいけない。

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「人間力」というような曖昧なもの曖昧なものであることはみんなよくわかっていて、マジックワードとして便利に使っているだけ、だから問題視する必要ないよ、という説。

余談

玄田有史さんのブログ。若者の目線を重視する携帯電話文体の中堅世代……玄田さんはニート論壇の Yoshi さんですね。

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