ゲーム脳問題:えこひいき(2006-04-06)の補足記事。
「えこひいき」の記事では「森・岡田を批判して、川島を批判しない人が多いのはどうか」という問題を提起しているのですが、これは言ってもしょうがないでしょう。物理学会でも「優先順位問題」として言いましたが、「あれを取り上げるなら、これも取り上げないとおかしい」という話は不毛なんです。「これが大事だ」と思う人がまず率先して批判する以外に手はない。
ちょっと考えれば,なんで森氏の「ゲームで脳が壊れる」説が批判されて,川島氏の「ゲームで脳が鍛えられる」が批判を浴びないか,わかりそうなものだと思うのですけどね。森説は,ビデオゲーム全体の消滅につながりますが,川島説は,個人の選択の自由で完結するものです。ビデオゲームを生活の彩りとして用いている人間は,当然,森説を否定します。
私は菊池誠さんの、「脳年齢」もよろしくないが、優先順位の問題で後回しになっているのだ、という説明には納得できるのです。それなら筋が通っている。リソースが十分にあれば、「脳年齢」も批判するわけだから。しかし A-WING さんの主張はいただけない。
A-WING さんは「疑似科学自体は良くも悪くもないが、他人の趣味をネガティブに評価するために使うのはダメだ」といわねばならない。「サルヂエ」というテレビ番組にも「脳年齢」が登場しますが、「ゲーム脳」よりも「脳年齢」の方が社会的影響力は大きい。あなたがほんとうに気に入らないのは「ゲームに対する非難」なのか、「疑似科学の蔓延」なのか。前者なら、その立場を明らかにした方が誠実です。
私がいいたいのは、ゲーム擁護派が単に批判の道具としてニセ科学批判を持ち出すのはおかしい、ということです。それは100万本売れたゲーム「脳を鍛える」の否定につながる自爆技だからです。菊池さんはゲーム脳批判に乗ることでニセ科学批判の仲間を一時的に増やすことに成功していますが、これは奇妙な共闘関係です。ただ、「わかってやっている」なら、私自身それを一概に否定できるほど一貫した人間ではありません。
個人の選択の自由で完結
という考え方は危険で、現にこの世の中には、当事者たちが「それでいい」といっても、社会が許さないことがたくさんあります。個人の選択の自由で完結していれば問題ないなら、自殺幇助などという罪は存在しえない。売春や麻薬の売買だって、当事者間の了解があればいいことになってしまう。無論、「その通り。いいんだよ」という考え方はある。けれどもたいていの人は、違う。
暴力団が云々とか、強制される人もいるとか、そういった反論があるのかもしれないが、それは暴力団だからいけない、強制は禁止、という話であって、売春や麻薬そのものの問題ではない。売春や麻薬の(一定の管理体制の構築と限度の設定を伴う)合法化というアイデアが何度も取り沙汰され、特定の地域では現にそのようにしているのは、その証左といえる。程度が全然違う、という主張はあって当然ですが、絶対的な差異はない。
程度の違いは現在の議論によく反映されていて、ゲーム業界の非合法化なんて誰も主張していない。残虐ゲーム数タイトルについて販売規制を行う、年齢制限などの内容規制をもう少し詳細に定める、ゲームのやり過ぎを戒める教育を拡充する、といった提案にとどまっています。その妥当性を個別に問うことには賛成ですが、個人の自由を持ち出して全否定するならば、「あなたが守りたい社会秩序」も否定されることを警告したい。
正直いって、科学的にその悪影響が証明されているかどうかと関係なく、POSTAL2やグランド・セフト・オートの残虐性は規制に値すると考える人が少なくないだろう。審議会で根拠の明示なく「青少年に有害」といった発言が出ても、これは致し方ないと私は思う。これは価値観の問題だからです。
もちろん、規制推進派の主張に科学的根拠がないことは指摘されていい。けれども「だから規制をするな」という主張がどれだけ説得力を持つか。科学的根拠と無関係に「猥褻表現」が規制されていることからもわかるように、この社会には多数派の倫理規範に基づく(その他の根拠が希薄な)規制が多々あります。その全てに反対できる人が、どれだけいるのか。例えば近親婚の禁止だって、遺伝学上な根拠は、そのタブーの大きさとは全く不釣合いである事実をご存知ですか?
自分が当然だと思う規制を疑わず、気に入らない規制だけに反対する。そのときせめて「所詮人間は価値観の奴隷だし、私たちの思考は不自由な言葉に支配されている。矛盾は避け難い」といった留保はあっていい。自分の言葉に潜む怪しさを自覚してほしい。
上記リンク先で再配布されているゲームは、いずれも社会的に問題視されたもの。おそらくこれらのゲームを否定する人はゲーム(の自由)擁護派にも多かろう。では、いくつか単語を入れ替えただけのゲームならいいのか? 殺す相手が人間ではなく、例えば地底人なら問題ないのか?
近親婚が他人婚と比較して異常児の発生率が高いことは事実。しかし微小と微小の比較なので大きな差が出るが、絶対値はいずれも小さい。