庶民にとって凶悪犯罪が十分に縁遠くなって数十年、こうなるのは必然だったんですかね。絶対に自分ではありえない誰かさんの犯した凶行の罪を、巨大な社会の特異な一人に負わせる、その他人事感覚に依拠して、被害者に絶対の同情を寄せてしまう。その復讐心を肯定してしまう。
復讐権を独占しながら、その権利を行使せず、加害者のみを庇護し、被害者遺族の権利を踏み躙っている近代国家と法制度に問題がある。そういう根本的な問題を本村洋は提起しているわけだが、論理的にも心情的にも当然の主張であるように思われる。
諸説あることは理解していますが、私の理解では、近代刑法は復讐権そのものを否定しています。復讐の禁止という意味では、なるほど加害者のみを庇護
しているともいえましょうが、国家が復讐権を独占
しているという考え方に私は与しない。
被害者の遺族にも国家にも復讐の権利はない。権力が犯罪者を処罰する根本のロジックは、「罪の報い」ではなく、「社会秩序を守るため方法として、現状それ以上にうまい手段が見当たらないから」だ。