本来、高齢化の影響はもっと小さいはずです。農業などの自営業で生計を立てる人が減って、サラリーマンの定年はほとんど延長されず、大量の老人が「失業」しています。老人のうち、身体能力的には就業可能な者を失業者としてカウントすれば、現在の日本は失業率20%超の社会です。将来は40%にもなります。
結局、需要不足が続いて、供給能力が余り続けていることが決定的な問題なのです。
日本には少なくとも1000万人くらいの余剰労働力が存在するのだから、うまくやれば、政府が数年かけて数百兆円くらい政府紙幣なり何なりで新規の需要を作りまくっても、インフレになんかならないのではないか。需要の増大にあわせて供給も増えるなら、インフレにならないのは道理です。
「うまくやれば」とは、労働の継続・再開にインセンティブを与えることをイメージしています。具体案はない。
65歳から十分な金額の年金が支給されるなら、65歳以降の勤労意欲は維持できない。まして老人向きの仕事は薄給が予想されます。社会保障は弱者救済に特化して年金を廃止する、あるいは逆に完全無差別の基礎所得制度にする……とか、現実味のない策しか今は思いつかないので、とりあえず保留させてください。
変化後のイメージはあります。労働力不足が恒常化し、効率のため人材配置が流動化された社会です。
そこでは、老人に「可能」な仕事は、何でも老人に任せることになるでしょう。常に余り気味の老人は給料が安くなり、ますます希少価値の高まる若者は給料が上がります。ひとつの仕事を一生続ける人は減り、青年→壮年→中年→高年と年齢を重ねるにつれ、数回の転職をすることが当たり前になります。
「人手不足解消のため」の外国人労働者の受入促進は、高年労働力を十分に引き出してから検討すべきこと。喫緊の課題ではないはずです。
権丈先生の「医療政策は選挙で変える」には、医療費は常にGDPと連動してきたことが示される。世間では老人が増えるから医療費も増えるに違いないという議論がなされるが、実際には無い袖は振れないため、医療費が巨額になる前に政策が変更され、結果的に一定額に収まることになる。
すなわち、政策的に判断しなければならないことは、日本はGDPのうち何割を医療費に当てるべきかということであり、その他のことは本来議論が必要な問題ではない。
上限が決まれば、必然的に医療水準も定まります。万人に最高の医療を、というのは無理な話なので、適当な水準で諦める他ない。問題は、日本経済がゼロ成長を志向する限り、この調整は激烈なものになること。
先進国の経済成長は実質年率2%程度で、これは日本の医療費の自然増とほぼ同じ。現在の医療水準を維持して収支トントンなのだから、医療技術の進歩を保険診療に取り入れるには、保険料を上げる必要があります。「金持ちだけ長生きできるなんて許せない」という声に応え続けるなら、この値上げには際限がありません。
しかも、1991年にバブルが崩壊して以降の日本経済は、バブルの再来を恐れる余り高成長自体を忌避してきたので、医療費の自然増を経済成長率が下回っています。現在の医療水準を維持するだけでも、保険料地獄になるわけ。これも人の一生のスパンでは際限なく続く事象です。
保険料の上昇を抑制すれば、医療水準は下がります。政治的な困難は計り知れません。昨年までならこの病気にかかってもみんな助かったけど、今年からは金持ちしか助かりません、という話ですから……。
国民の不満を完全に解消しつつ医療制度を持続するためには、高度経済成長が必要です。現在の医療水準を維持し続けるだけでも、従来の経済政策を転換して、他の先進国と同等以上の経済成長を実現しなければなりません。
私の要領を得ない説明よりは、こちらの資料を読んでいただいた方が話は早い。ゼロ成長経済に国民は耐えられないことが推察されると思う。……はずなんだけど、当の藤正さんはマイナス成長でもOKと主張する本を発刊されています。読んでみたけど、私の疑問は解消されずじまい。
世界の株式相場が上昇基調を強めている。主要52市場の株式時価総額の合計は約45兆ドル(約4090兆円)と直近の底だった2月末から5割以上増加。昨年9月のリーマン・ショック前の水準に近づいた。
「ITバブル崩壊」のときと全く同じ。日本の一人負け。バブルが崩壊するたび、虚妄の経済成長の時代は終った、安定成長が大切だ、と日本人は考える。ところが実際は、「虚妄」の実態は1~2年分の経済成長前倒しに過ぎず、経済成長に背を向けた日本経済との差は少しも縮まらない。
というか、バブルの果実もないのに崩壊の影響だけはきちんと受ける、このバカバカしさ。
バブルを過剰に恐れず、成長できるときにはガンガン成長した方がいい。前FRB議長のグリーンスパンさんご自身は反省の弁を述べているけれども、金融商品の規制に関してはともかく、緩和と引締めの判断は、凡そ正しかったと私は思う。日本経済も、反バブルの自縄自縛から、早く解放されてほしい……。
権丈善一さんの再分配の政治経済学シリーズは面白い。ただ、3冊目以降、折々に書いた記事を寄せ集めて編集するスタイルになったのが残念。PDF形式で連載されている珍しいウェブコラム「勿凝学問」の書籍化と考えれば悪くないけれど、こういう文脈では勧めにくい。
お忙しいのでしょうが、もっと内容を整理して、新書版くらいのサイズにまとめてほしい。経済コラム集というジャンルはあって、そういう本としてなら文句はないのですが。