趣味Web 小説 2009-12-22

「コピペ転載推奨」について

0.

  1. チェーンメール、チェーン日記全否定の啓蒙活動に思う(徳保隆夫 2006-12-04)
  2. 善意であれ事実であれチェーンメールはダメゼッタイという話(rikuoさん 2009-12-17)
  3. コピペ転載(チェーンメール、チェーン日記)批判を問い直す(徳保隆夫 2009-12-21)
  4. Re:コピペ転載(チェーンメール、チェーン日記)批判を問い直す(rikuoさん 2009-12-22)

あらためてお断り:SPAMチェーンメールは以下の議論では取り扱いません。私が「チェーンメール」と書くとき、SPAMチェーンメールは含みません。

以下、いろいろ書きましたが……

「発信年月日と最初に情報を発信した人物・団体がわかるコピペ転載なら問題ない」ということであれば、rikuoさんと私に大きな意見の相違はないかもしれません。

1.コピペ転載のメリット

コピペ転載には、いくつかの利点があります。

2.事例:農薬散布情報の伝え方

私の勤務先には社内の電子掲示板がありますが、重要な情報はメールにコピペ転載されて周知されます。その様子を、一例を挙げて、説明します。

  1. 本社工場の植木への農薬散布情報は、本社の総務によって掲示板からメールにコピペ転載され、本社勤務の全員に加えて、世界各地の事業所の部長級以上に届きます。散布の当日、事業所から本社へ出張する社員がいるかもしれないからです。そしてこのメールには「必要に応じて転送してください」と書かれています。
  2. 出張は部長決済です。事業所の部長は、管理下のどの課に本社への出張が必要な用件があるかを把握しています。しかし、正確にいつ誰が実際に出張するのかは、出張申請が提出されるまでわかりません。そこで、出張が必要な案件を抱えている課の長に、2次転載の転送メールを発信します。
  3. 課長は出張の可能性がある(ことを承知している)部下に、3次転載の転送メールを発信します。
  4. 本社への出張を現実的な可能性として認識している社員であれば、課長から転送された農薬散布情報を読まずに削除することはないでしょう。「自分で掲示板をチェックせよ」と指示するのは非現実的。本社工場の農薬散布情報まで遺漏なく把握するためには膨大な掲載情報の全件チェックが必要になってしまいます。

掲示板へのリンクではなぜダメか。そのたったひと手間が、「後で見る」→「見るのを忘れてました」という事故につながるからです。この問題の発生率を劇的に減らすには、情報の転載が効果的でした。掲示板の情報が訂正されるたび、メールを再送するのは手間ですが、それは必要なコストなのです。

一方、不要不急ながら「全社周知」「部内周知」「課内周知」とされた情報は、掲示板へのリンクだけのメールが発信されます。「役員の新任・再任」はリンク、「○月×日、株主総会が開催されるので、来客対応(挨拶・服装など)に注意せよ」は転載でした。合理的な判断だと思い、感心した覚えがあります。

少し整理します。

もし社内の公開情報を全てメールで流したら、情報の重要度がわからなくなって、大切な情報を見落とすことになります。そこで、あまり重要でない情報は掲示板に載せ、最近の記事一覧を情報管理ソフトのトップページに表示するにとどめます。掲示板には情報が集約されていますが、掲示板はメディア力が乏しい。

大切な情報は、掲示板の記事へのリンクがメールで配信されます。おそらく、リンクを辿るのはメール受信者の一部でしょう。しかし情報の存在を周知するのが主な目的なら、それでもよいのです。

とても重要な情報は、掲示板の内容をメールにコピペ転載して配信されます。これなら、メールを開くだけで情報に接することができ、読まれる確率が高まります。しかし本社の総務が各地の社員の本社出張の可能性を把握して直でメールを配信した場合、よほど絞込みの精度に信頼がない限り、「私には関係なさそう」と開かずに捨てられかねない。

「直属の上司からとくに指名で転送されたコピペ転載メール」という形式は、情報発信者からは縁遠い相手に、確実な情報伝達を可能とする知恵でもあるのです。「掲示板→本社の総務→事業所の部長→課長→社員」というコピペ転載メールの転送という情報伝達の手間には、意味があります。

3.

私自身は、チェーンメールは過去に1通しか受け取ったことがありませんが、口コミで出典不明のウソ情報を教えられるのは日常茶飯事です。かくいう自分の記事を読み返してみても、そのほとんど全てが根拠不明の怪情報。例えば、上記の「2.事例:農薬散布情報の伝え方」が100%創作でない保証がどこにありますか。「この話が事実だという証拠を出せ」と迫られたら、私はブログを畳んで逃げます。

rikuoさんのいうブログなら可能な「状況の変化に対応した記事の訂正」なんて、私はやっていない。かつて私が批判したあれこれが、その後、改善されても、(ほとんどのケースで)私は記事を放置しています。

ようするに私は、根拠不明の記事を書きまくり、状況が変化しても訂正しないブロガーなんですね。それでいてGoogleなどの検索エンジンで記事の掲載順位がかなり高い。さらに著作権を放棄して盗用大歓迎と謳っています。喧伝される「チェーンメールの害」の全てが、このブログにはあるのです。

それがいいことか悪いことかと問われれば、なるほど記事に客観的な根拠あって、状況の変化を完璧にフォローできるなら、そうした方がいいには決まってます。が、そういうことに潔癖になると、ほとんどのブログは成り立たない。そんな息苦しい世界は嫌です。

4.

私の過去に書いてきた「意見記事」には、明示されてはいないけれど「あなたもこの意見に賛同して世間に再発信してください」という意図が込められています。「コピペ転載を推奨する」のは、その手順を簡略化するひとつの方法に過ぎません。デモ隊に参加して一緒にスローガンを叫ぼう! というのと同じなんです。

私がブログに記事を投稿するという手段を採用しているのは、記事と同じ文章をメールで知人に送りつけ、「これは素晴らしい意見だからキミもぜひキミの知人にこのメールを転送したまえよ」といっても、そっと受信拒否されるだけだとわかっているからです。チェーンメールを書けばアッという間にリフレ政策に賛同する人が増えて、政府に圧力をかけられるなら、今すぐそうしますよ、私は!

チェーンメールが「成功する」のは、最初からその意見に賛同する素地のある人が多いから。それでも、「自分の言葉で記事を書き直すこと」と条件をつけると、情報の再発信まではなかなかしてくれない。ようは賛同の度合いと手間のバランスの問題なんです。

だから結局のところ、まず賛同されなきゃどうしようもない。チェーンメールへの怒りというのは、私の認識では、「何でこんなバカな話に賛同して協力するんだ」ということでしょう。それで、協力の敷居を下げる「コピペ転載推奨」を叩く。でも、本質的な問題は、バカな話に賛同することの方ですよ。

チェーン日記やチェーン的RTは、「私バカです」が公開されるから、「えっ!? あんな人まで」とか「こんなに広まっちゃってるなんて……」と愕然とするのはわかります。でも、血液型性格判断を「けっこう当たってる」と思ってる人、周囲にものすごく多いでしょう。大学教授とか難関大の理系学部卒でも普通に信じてたりするじゃない。それがちょっと見えやすくなってるだけなんですよ。

「コピペ転載推奨」を叩いたって、バカが見えにくくなるだけで、意味ないんですよ。そりゃ情報の再発信を邪魔すれば、ネット上では少しヘンな情報の伝播速度が落ちるように見えるかもしれないけれど、ネット上での情報発信なんて口コミとは比較にならない。1日にTwitterに投稿した話題しか世間話しない人がいるとすれば、相当に無口な方ですよね。ブログの読者数、Twitterのフォロー数で掛け算したって、人気上位1%程度の人だけだと思いますよ、ネット上の情報発信力が口コミ力を上回っているのは。

5.

「コピペ転載推奨」は絶対にダメだという意見は、コトの軽重を間違っていると思うわけ。

「絶対にダメ」は、かなりキツイ判断です。日本は、殺人さえ「絶対にダメ」ではない社会。いま相当にひどいブログさえ、いちいち「許せない」「撲滅すべき」とかいわない人が、「コピペ転載推奨」は全否定するから、それはおかしいでしょ、と。

「コピペ転載するなら、元情報の発信年月日と最初の発信者を明確にするべき」という提案にとどめるのが妥当な線ではないでしょうか。

と、ここで冒頭の注釈に戻るわけなんだけれども、元情報の発信年月日と最初の発信者が明確になっている「コピペ転載推奨」の情報は「チェーン***」の定義から除外して話をしています、とrikuoさんにいわれたら、それでも私は「絶対にダメ」はいいすぎだと思うものの、とくに大きな対立はないわけです。

Information

注意書き