2009年7月、私はドラクエ休暇を取り、ついでに実家へ帰って両親に『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』をDSiとセットで贈りました。かつてファミコンを嫌った母が受け入れてくれるかどうかが心配でしたが、結果オーライ。両親の初めての「冒険」がはじまりました。
冒険初期の様子をまとめたレビュー記事は多くの方に読まれました。その後の展開を期待するご意見もいただきましたが、私は3日間でエンディングに到達して実家を離れてしまったので、その後の様子をリポートすることはできませんでした。
この正月、私は実家へ帰り、母とすれ違い通信してみました。父は、祖父が脳梗塞で倒れたため、看病のため千葉県を離れて故郷の愛知県へ行っていましたが、両親は12月にすれ違いをしていました。DQ9ではすれ違い通信をすると、お互いの戦歴が交換されます。母のDSカードに(DQ9を遊んでいない弟を除く)家族の戦歴が集まったので、この機会に後日談を兼ねてご紹介したいと思います。
じつはドラクエ休暇以降、母は本編の展開に行き詰るたび、私に質問メールを出していました。「エンディングを見たよ!」というメールが届いたのは9月のことで、そのとき母のプレイ時間は90時間程度だったといいます。それがどうして正月には528時間にも達しているのかというと、自転車でコケて足を骨折してしまったんですね。もう暇で暇で仕方ない。で、どんどん宝の地図に潜り、プレイ時間が延びていったという。
マルチプレイは60時間オーバー。初期には「お父さんの場所は空けておかなきゃダメ」といってお供を2人しか連れていなかった母ですが、じつは1週間くらいで3人目を作成したそうです。まあ、そんなものですよね。で、本編クリアまではよくマルチプレイをしていたのだけれども、その後は父と宝の地図のレベル競争になり、アトラスやSキラーマシーンとの対戦では父の協力を仰いだものの、その後は母の方に勢いがついていく。
一方の父はというと、無茶苦茶プレイ時間が長い。その割に戦闘回数や宝の地図クリア回数が少ないんですね。一体、何をやっているのか? 母が笑いながら話してくれたことには、なんと父は世界各地で拾える錬金素材を全部99個にしていたんです。「えっ!?」私は驚きました。「でも、お父さんはそれが楽しくて仕方ないんだって」……なるほど、『おいでよ どうぶつの森』でも他人にはわからないこだわりを持ってプレイしている人、いるもんね。
DQ9は夫婦の会話のネタを大量に提供してくれたらしく、母が語る父に関する話は、9割方ドラクエのことでした。たいていのことは、母が本気を出せば父など相手にならない。ドラクエは「たいてい」の内だったようで、父の愚かなプレイが、母にはおかしくっておかしくってたまらなかったらしい。父の方はたぶん、いつものように、母が笑顔なら満足だったんじゃないかな。
それにしても父のプレイ時間はすごい。主人公に転生させたり、たくさん作成したお供のキャラを平等にレベル99まで育てたり、みんなに同じ装備品を作ってあげようと頑張ったり、世界中の全ての土地をマス目単位で踏破しようとしたり、あとは寝落ちしたり。残念ながら、父の努力は戦歴画面に表現されないタイプの目標に捧げられているのでした。
両親のすれ違い通信は各2回。父と私は初期に1回、試しにすれ違い通信をしていたので、12月に両親がすれ違って合計2回。母は12月に父と、正月に私とすれ違い通信をして2回。千葉県成田市はすれ違い通信の不可能な街ではないと思いますけれども、父がすれ違い通信をしながら丸1日ふだん通りの生活をしても誰ともすれ違わなかったので、それっきり挑戦もしていないという。
母は、私が帰りがけに買ってプレゼントした『ドラゴンクエストIX 星空の守り人 大冒険プレイヤーズガイド』の折込地図を拡大コピーして、マップに落ちてる錬金素材と宝の地図の場所を、発見するたび書き込んでいきました。上の写真はその一部です。
私はこれを見て、背中に電撃が走るような感覚を覚えました。そう、ゲームって、こうやって没頭しちゃうくらい面白いものなんだよね……どうして、いつの間に、忘れてしまったんだろう、この情熱を。親って、ありがたいものだな。ただ生きているだけでも、多くのことを教えてくれる。
20年ほど前、私と弟も攻略本をボロボロになるまで読み込んで、あちこちに書き込みをしていました。でもゲームを恐れた母は、「1日30分」の制限をつけます。ドラクエは何とかクリアできたものの、『ファイナルファンタジーIII』のクリスタルタワーは兄弟でリレーしても踏破できず、悔しかったなぁ。1日だけでいいから許してほしい、と何度も頼みましたが、答えは「ダメ」。どうしてぼくたちの気持ちをわかってくれないのか……悲しくてたまらなかった。
びっしり情報が書き込まれた地図を見て、「ああ、やっぱりぼくたちの母さんだったんだ!」と、当たり前のことを思って、心が震えました。部屋に戻ると、なぜか涙があふれてきて、止まらなくなりました。
まず7月に贈ったのがソフトと同時発売の『大冒険プレイヤーズガイド』。次に9月の父の誕生日に『公式ガイドブック 下巻』をAmazon経由でプレゼントしました。父はこの本をとても気に入ったそうで、祖父の看病のため愛知へ旅立つ際、母のためにもう1冊買って、家に置いていったという。
ちょっと開いてみると、あちこちに母のマーキングが。「あ、これはね……」と、いろいろ説明してくれました。
攻略本じゃないけど、数年ぶりにドラクエ4コマの本が発売されたそうで。もう出ないのかと思っていたので、意外。でも以前の担当者がもういないのかどうか、かなり本の編集が変わってしまったとかで、ネットでは評判がいまひとつ。でもせっかくだから読んでみようかなあ……。
正月には弟も帰省していて、母がDQ9を500時間以上もプレイしていることに衝撃を受けていました。「俺は1日30分って制限されていたんだから、毎日ファミコンをやっていたけど、500時間もプレイした作品はないんじゃないか? これだから大人ってのはズルイよなぁ」
息子たちから「で、そんなに遊んで飽きないの?」とスポイル攻撃を受ける母。「飽きないよー」といっていたけれど、だんだん不安になってきたみたいで、夕方、父に電話していた。「ね、そっちはもう2000時間に迫っているんでしょ? 病院でお義父さんのリハビリ中、暇だもんね。いくらなんでも、そんなにやって飽きない?」父の答えは聞こえないが、予想通りの答えが返ってきたらしい。母が大笑いする。
「ねぇ、隆夫たちにも聞かせてやってよ。ほら、隆夫、お父さん」と受話器を渡される。「あー、お父さん? ドラクエ、2000時間近くもやって、飽きない?」「うん! 全然飽きない! 面白いよ!!!」あっはっは。父は偉大だな。こりゃ母が楽しくなるわけだよ。
ちなみに。翌日、母は私が持っていった(私の)クリアデータが入っている『レイトン教授と魔神の笛』に関心を移しました。本編は「ナゾを解くのが面倒くさい」といっていましたが、クリア後特典の「レイトン教授のロンドンライフ」は、とても気に入ったらしい。
父にはちょっとだけ悪いことをしたかな。