この何を今更的な問題。「別窓」とか懐かしすぎる。俺は数年前にユーザーテストをした。5人くらいのど素人を対象にして。結果は明白。真っ黒だ。なぜなら「別窓」が開いたことを理解できなくて、「戻る」が機能しなくなったんだよ。まあそういう先行研究みたいなものはたくさんあって、一応確かめただけなんだけど。ハイパーテキストブラウザの「戻る」が機能しないというのは、送受信できないメーラみたいなものだろう。そのアプリケーションで一番大切なGUI部品が機能しないということだから。で、パワーユーザに対してはその自由を奪うわけだろう。勝手にウィンドウを新しく開かれるとか、余りにもうざすぎる。それに対して利点っていったいなんだ? もうね。あり得ないレベルだね。センスのかけらもないよ。
こういう話は何度も目にしたのだけれども、経験的には異論があります。
端的には、「素人はいつまで素人なのか」。
私の母の場合、最初は「別窓」に戸惑ったけれども、3日でそれには慣れてしまい、その後はむしろ、特定の場面でサイトの製作者が「別窓」をあらかじめ指定していることを「親切だ」と感じるようになりました。いったんそうなると、「適切な別窓設定」をしていないサイトを「不便だ」と思うようになります。そうして、母は「親切」なサイトを好み、「不便」なサイトを敬遠するネットユーザーになりました。同様の例は、大学の同級生をはじめ、私の周りにいくつもありました。
で、母や同級生のように慣れることができない人は、そもそもウェブサービスに対する親和性が低いし、パソコンにもなかなか親しめない。それが社会の真の多数派なら対策を考える価値もあるけど、じつはそうでもないらしい。私が入社した2002年の段階で60歳を過ぎて延長雇用になっていた先輩方も、target で新窓が開くのを少しも苦にしていませんでしたし、70歳くらいの伯父も、そういうの平気。
とすると、「間口を広く」と考えて、「ど素人」が迷わないようにするよりも、多少間口を狭めてでも「便利」にする方が、サイトの運営者にとって利益が大きいと予想できます。サービスに魅力があれば、人々は多少の壁なら乗り越えてみせるし、いったん障害を突破すれば「便利」な方が魅力的だ、と思うようになるのですから。
Gmail とか、すごく人気ありますけど、あれなんか、素人にはとっつきにくい。私も苦手で、SPAMフィルターとしてしか使っていません。Yahoo!メール や hotmail の方が、よほど間口が広いと思う。でも、人気は Gmail の勝ちですよね。それはなぜか、という話にも通じていると思う。
「閲覧者の自由を狭めない」というのはユーザビリティの基本的考え方の一つだけれども、これに対して「ユーザのしたいことを先回りして準備する」こともまた、製作者には求められている。ユーザが「他サイトへのリンクは新窓で開きたい」と考えているならば、製作者側でその希望を実現することが「ユーザの利便を向上する」ことになる。リンク target 問題の争点は、製作者が target 指定すると、ユーザの選択肢がなくなることだ。しかしユーザが通常のリンク参照と同等の簡単操作で新窓を開くためには、ある程度の勉強が必要だ。そして多くのユーザは、「(自分は何も努力する気が無いが)製作者には何とかしてほしい」と思っている。
この記事を書いてから約7年か……。いろいろ、変わらないな。もちろん変わったこともあって、まさか将来の自分が、本文領域の幅固定や文字サイズのピクセル指定に踏み出すとは、予想していませんでした。まあ文字サイズの方は、本当にこのままピクセル指定でいくのか、考えあぐねているのだけれど。
私は、タブブラウザを使うようになり、複数のタブを一気に閉じれるようになって以降、target指定は気にならなくなりました。ほとんどのリンクを別のタブで開きたいというのが私の希望となり、右ダブルクリック(私はこの操作に「新タブ(裏)で開く」を割り当てている)ばかりしているからです。どういうわけか、target="_blank" が指定されていても、新タブで開くのは邪魔されないんですね。
私の周りの人が特殊なのかもしれないけど、リンク先をどうしても現在のタブで開きたいと思っている人なんて、ほとんどいないんじゃないか。新タブならいいけど新窓は嫌だ、てのは割と聞くけど、Sleipnirなどの「絶対に新窓が開かないタブブラウザ」を紹介したら、たいてい満足されました。
私の母の場合、最初は「別窓」に戸惑ったけれども、3日でそれには慣れてしまい、その後はむしろ、特定の場面でサイトの製作者が「別窓」をあらかじめ指定していることを「親切だ」と感じるようになりました。いったんそうなると、「適切な別窓設定」をしていないサイトを「不便だ」と思うようになります。そうして、母は「親切」なサイトを好み、「不便」なサイトを敬遠するネットユーザーになりました。同様の例は、大学の同級生をはじめ、私の周りにいくつもありました。
この段落がすべてを物語っている。つまり「別窓」とは詐欺師のようなものだ。本当は不便なものを便利に見せかけ、逆に本当は便利なものを敬遠するように仕向ける。
そんなものに騙されないように何かできることはないかを考えるのが常だよ。俺は。