必要なのは発想の転換である。自分より受給者が楽をしている、だから受給者は云々、という論理を求めるのではなく、受給者よりも苦労している自分に対しても、状況を改善するような手立てがさしのべられても良いのではないか、と。
この説得がうまくいくとは、とても思えない。
私の手取り年収は320~350万円くらい。2010年に支払った税金と社会保険は、消費税6~8万円、所得税11万円、住民税20万円、厚生年金34万円、健康保険11万円程度。私は、税金と保険の合計が2倍になっても構わない。けれども、私と同じくらいの給料を貰っている人の大半は、そうは思っていない。
厚生労働省調査の所得階層は(私の勘違いでなければ)総所得に基づいている。私という単身世帯の所得は中央値を上回っており、日本の世帯の過半数が、私より低い収入で生活している。つまり、私は弱者ではなく、弱者を助ける立場である。私と同程度の所得の人々も同じだ。本当に貧しい者を助けるために、より多くの税金を納めなければならない。
私が現在の2倍の税金と社会保険料を納めても、所得が低い方から20%の世帯の収入を上回る。いまその収入で多くの人々が実際に生活している。その中には子育て世帯だってある。単身世帯の私が「そんな収入では生きていけない」などといっても説得力がないだろう。
しかし現実はどうかといえば、私くらいの年収の者に対して、議員に立候補された方々は異口同音に「もっと生活を楽にします」と訴える。そういわねば当選できないということだ。
候補者の主張をよく聞いてみると、「増税をせず、みなの生活を改善することにお金を使う」といっている。つまり、「弱者に対象を絞った手厚い支援は見直す」のであろう。多くの人が「自分は納めた住民税に見合ったサービスを受けていない」と思っていて、市町村の財政赤字に構わず自分の要求を通そうとする。そこで「お金がない」と突っぱねられるから、自分に利益のない施策から予算を分捕りたくなる。
Thirさんの説得が意味をなすのは、生活保護を受けている人と同等か、少し多いくらいの所得しかない人までだ。大多数の人々は、「弱者支援を強化すれば、自分の生活水準は下がる」と考えている。実際、その通りだろう。「現状でも不満いっぱいなのに、もっと悪くなるなんて許せない。貧しい人々にやるお金を節約し、俺の生活をもっと豊かにしろ」これが多数派の本音ではないか。
ネットで散見される生活保護の受給者を羨む発言は、一種のレトリックだろう。もちろん、自分よりフローの収入が多いこと、自分より食費に余裕があることなどは、ベタに羨ましいのだ。とはいえ、貯金を吐き出すのは嫌だし、経済的自立がもたらす自尊心だって手放したくない。総合的には、「自分も生活保護を受けたい」とは思っていない。
……それでも、「自活している自分と、生活保護を受けている人とは、もっと生活水準に差があるべきだ」と思う気持ちは、理解できる。私と同程度の収入がある人でさえ、そういうことをいうのだ。もっと所得の少ない人々の憤りは想像に難くない。
5年前には上ばかり見て足るを知らぬ人々は、今日もまた同情だけしてカネは出さない。
と書いたけど、景気が悪くなったら同情するのもやめちゃったみたいだね……。