趣味Web 小説 2011-03-21

土居丈朗さんの震災復興増税論を読む

土居さんは経済学の博士で財政学の専門家。リンク先の記事はやたら長いので、私なりの理解に基づき大胆に言葉を補いつつ(ゆえに多少はわかりやすくなったとしても信頼性は大きく低下していることに注意)、以下に要点をまとめる。

  1. 人々が寄付したい金額と同額の増税をする場合、増税によって追加的な景気の冷え込みが生じることはない。なぜなら、寄付金を捻出するために消費を我慢することと、納税のために消費を我慢することに、経済活動としての差異はないからだ。
  2. ただし寄付には、心理的、物理的な壁がある。それゆえ、寄付する意思はあり、一時的に消費を抑制してはいるが、結局そうして捻出したお金(の一部または全部)を寄付をしない人々が現に存在する。一方、税金ならば、必ず支払うことになる。よって、人々の善意を遺漏なく吸い上げるには、税方式の方が優れている。
  3. ようするに、復興増税の後に景気が冷え込んだとしても、それはもともと増税がなくても観察されたはずの現象なのだ。そして寄付方式の場合、消費を抑制して浮いたお金の一部が実際には寄付されず、そのまま貯蓄されてしまう。だが復興増税ならば、吸い上げられたお金の全額が復興支援のために使われる。
  4. これは「復興に必要な経費の全てを増税で賄う」という提案ではない。ほぼ確実に、必要な金額は人々が寄付する意思を持っている金額を上回るだろう。不足分は、国債の発行で賄ってよい。
  5. なお、日本銀行による新規発行国債の直接引受には、少なくとも現時点では賛成しない。当面は現行法下で実施できる市中国債の買いオペを進めるべき。全ての市中国債を買い切ってもなおデフレが続くとき、初めて新規発行国債の直接引受を検討するのが理に適っている。

以下、さらに蛮勇を奮って補足する。つまり、こういうことだと思うのだ。

「寄付なので、自由意志に任せます」といわれて人々が出す金額と比較して、「復興のために税金を徴収します」といわれて「それなら仕方ないな」と思える金額はずっと大きい。復興増税は、この心理の綾を有効に活用し、被災者への支援を願う国民の意志を、最大限に現実化する政策である。

例え話をすると……多くの人々は「こんなときに遊びまわるのは自粛しよう……」と消費を1万円減らして、1000円だけ寄付をする。差額の9000円は、結局、貯蓄に回る。土居さんは、一時的に景気を冷やすだけで有効に活用されないこの9000円を、「復興増税によって吸い上げよう」と主張されているのだと思う。

では、復興費用を全て国債で賄う、とはどういうことか。それは、人々が現在休眠させているお金を政府が借りて復興に使う、ということだ。前段の例でいえば、貯蓄に回った9000円を政府が借りて、復興支援に使うわけだ。ただ、政府が借りた9000円は、将来の日本国民が利子をつけて返済しなければならない。

土居さんは、復興支援増税なら被災地の人々には返済義務が生じないが、国債を発行すれば、被災地の人々も平等に返済の義務を負うことになる、と指摘されている。自然災害からの復興支援という目的を鑑みれば、現役世代内の富の再分配の方が道義的に正しい、という主張だろう。

個人的には、土居さんの主張に説得力を感じた。今回、集まる寄付金は1兆円に達しまい。平均すれば、年額1人1万円、月額1人1000円、1日につき1人30円を大幅に下回る。それが現実だろう。他方、経済行動の自粛はその数倍にもなるだろう。復興増税をして、「税金を払って義務を果たしたのだから自粛はやめる」という空気が広がれば、むしろ経済は活性化するのではないかとさえ思う。

いずれにせよ、「人々が寄付したい金額と同額の増税をする」……つまり、それ以上の増税はしないという前提があるので、注意してほしい。

また土居さんは担税能力に応じた負担を主張し、人頭税方式は否定されている。所得税の税率変更や、原子力発電所の事故で供給能力が落ちている電力への消費税上乗せを想定しているのだろうか。電力消費税の場合、商品価格を「最小限の利用なら安くすむが、基準値を超える毎に従量課金のカーブがきつくなっていく」という設定が可能だから、うまく設計すれば節電促進効果も期待できる。

補記:

復興増税について、徴税時に「避難してきた被災者」を区別できず、被災者も税負担をすることになるので反対、という意見がある。土居さんの答えを見つけられなかったから、私の考えだけを記す。

例えば、経済的な弱者は、消費税を免除されるべきだろうか? 私は、そうは思わない。全員から消費税を徴収した上で、その分配にメリハリをつければ、弱者は小さな負担で大きな支援を受けることができる。それでよいではないか(現在の消費税が実際にそのように機能しているかどうかは脇に置く)。同様に、被災者が納税額より大きな支援を受けられるなら、被災者も復興増税の徴収対象に含まれていい、と私は考える。

個人の住宅や企業の事業所などを全額公費で再建する、などということはありえない。どのみち復興に被災者の負担はつきものだ。年額1人1万円程度の負担で道路や学校が再生され、住宅や事業所を再建する際に無利子で融資を受けられるなら、被災者にとっても悪くない話だと思う。

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