後世はともかく、夏頃までの数ヶ月間が最大の山場。街を復旧するのか、街を高台に移転して復興するのか、その判断は今すぐに迫られる。津波の被害も周縁部では既に回復工事が始まっている。放っておけばなし崩し的に復旧が選択されることになる。
経験的には、復旧が選択される。第一に、当の被災者たちが復旧を望むからだ。第二に、政府には私有財産を補償する財源がないからだ。
街を復旧すれば、意外なことに地価は回復する。100年以内に必ず大津波に襲われることがわかっている地域は、三陸の他にも三重県や高知県など数多い。だが津波のリスクは、不動産価格にロクに反映されていない。「自分がその家や土地に暮らす間に津波がくる」と予想する人が十分に少なくなれば、地価は津波のリスクから切り離されてしまうのだ。
今回、たいへんな津波の被害にあった地域も同じだろう。10年も経たずに津波の心配のない土地との地価の差は消えてしまい、当面の経済状態を反映した数字になるだろう。だから「もはや1円の価値もない土地だからお見舞金程度の金銭補償で立退きを迫ることが可能」なんてことはない。
震災復興にどれだけの金額を投入するか。
全く新しい街をスムーズに作るなら、被災地域の私有財産と、新しい街を建設する周辺の高台の土地を、被災前に近い価格で全て買い上げる必要がある。そうでないと被災民の反発によって計画が止まる。復旧ではダメだというならスピードが重要であり、買い上げ価格を十分に高く設定しなければならない。この場合、経費は10兆円を優に超える。
お金はかかるが、これは自然災害からの復興の理想形といわれる。被災地から私有地が一掃されれば、過去にとらわれず今後の問題だけに目を向けられる。防災・減災はもちろんのこと、未来を見据えてゼロベースで理想を追求した街作りができる。また面倒な交渉が不要になるから、再建事業はコンペで選定した民間企業に委託でき、被災して人員の足りない地方公共団体でも巨額の復興予算を執行可能だ。
だが、過去には限定的な局面での実施例しかない。財源を工面できなかったからだ。財源なしに同じことをしようとすれば、財産放棄の折衝に非常に長い時間を要し、待ったなしの生活再建が先に立って、なし崩し的に復旧活動が進んでいく。関東大震災後の東京も、阪神大震災後の神戸もそうだった。
過去の例に倣って私有財産への補償を行わず、行政が従来型の復興を進める場合、莫大な予算があっても執行できない。被災地の県と市町村の平時の歳出規模は6兆円足らずであり、人員と環境の問題で莫大な復興予算を執行することは難しい。財政学の専門家:土居丈朗さんの予想では、2011年度中に5兆円も執行できれば御の字
とのこと。
復興財源の規模をどうするのかによって、その捻出方法も変わってくる。3兆円程度なら予算の組み替えで足り、5兆円ならいくらかの増税で不足を賄える。10兆円、20兆円ともなると、国債を大量に発行するか、政府紙幣でも刷るのか。この場合、結局はインフレ税になるか、あるいは将来の増税を見越した消費の停滞と景気の冷え込みが先に待つ。もし5%以下のインフレですむなら、むしろデフレ脱却を歓迎したいが……。
私はリフレ支持のつもりなんだけど、一部のリフレ支持者の意見にはわからない部分がある。とりあえず3点、メモしておく。