趣味Web 小説 2012-01-26

ベーシック・インカムが月額7万円でよい理由

1.

以前の記事に付け加えたい内容はとくにないのだけれど、以前とは少しスタイルを変えて書いてみる。

なぜベーシック・インカムは1人当たり月額7万円でよいのか。私が何冊かの本を読んだ限りでは、国民の合意が得られる可能性がある最大の税率からの逆算で7万円という数字が出てきているので、全ては後付けかもしれない。が、そうだとしても、「高々月額7万円のBIを、なぜ支持できるのか」という問いは成り立つ。

  1. BI導入と生活保護の廃止は、ほぼセットで語られている。「月額7万円のBI」は、「労働しない(できない)者は、肩を寄せ合って生きていきなさい」と人々の生活スタイルを誘導する装置である。
  2. どうしてもBIだけで一人暮らししたければ、田舎へ移住するしかない。とすると、人口の分散を促す装置といえるかもしれない。(ただし移住する人の大半は高齢者だろう)
  3. が、身寄りのない高齢者同士、長屋で一緒に暮らすのか。住み慣れた町を離れるのか。おそらく、BI導入によって、餓死者は大幅に増えると予想する。それは過渡的な現象かもしれないが、大きな痛みを伴うことは避け難いと考える。
  4. 子どもが2人以上いれば、片親でも月額21万円。高校までは問題なく進学させられる金額。しかし子ども1人では14万円で、これはキツイ。片親で子ども3人なら28万円。子どもの年齢が離れていれば、1人ずつ大学へやることも不可能とはいえない。こうしてみると、「経済的理由で子どもを増やす」人も現れそうである。
  5. 現実的な話ではないと思うが、仮にBIの導入時に医療保険も縮小されるなら、BIは高齢者医療の簡素化を促す。結果的にピンピンコロリ(=つまらない病気で簡単に死ぬ)が復活するかもしれない。
  6. 月額7万円のBIで、日本人の労働意欲が低下するとは思えない。たいていの日本人は、赤の他人と一緒に暮らすなんて真っ平だと思っているし、田舎暮らしへの忌避感と都会への憧れは相変わらず根強い。とすると、月額7万円では足りないはずである。

2.

若年層では少し話が違ってくる。1.では「子どもが2人以上いれば……」という親の皮算用を書いたが、現実に起きることは、子どもの自立の促進だろう。中卒の若者が3~4人集まれば遊び暮らせるので、義務教育を終えるや「これ幸い」と家を飛び出す子どもがどんどん増えるのではないか。

補習塾にいた頃、親には叱られてばかりの中学生を覆っていたのは、「家を出ても生きていけない」という絶望感だった。月額7万円のBIは、彼らを解放するには十分な金額である。とはいえ、彼らもいずれ7万円では不足を感じるようになり、労働を始めることになると思う。

現在は高学歴の人材が余っているから、企業は学歴で足切りする。だが学歴で選抜したら人手不足になる状況なら、学歴要件は緩和されるはずだ。進学率が大幅に低下すれば、低学歴の人にも就職の門戸が開かれる。社員の基礎教育をタダで外注したいという企業側の身勝手に政府が耳を傾けなければ、我が子にだけはいい思いをさせたいと願う親たちが生み出した無意味な進学競争は、終息に向かうと私は考えている。

うるさい親のもとを離れてBIで自活してみて、それでも進学したいと思う人だけが進学するようになれば、高校や大学というのも、もう少しまともな場所になりそうだ。

あるいは、「中学卒業と同時に子どもに出て行かれないための親学」みたいなものが流行るかもしれない。子どものご機嫌をとるか、赤の他人と一緒に暮らすか、働くか、死ぬか。親の選択肢は、けっこう増える。「上の子が出て行ってしまい経済的に困窮した親子同士が一緒に暮らす家」なんかも、各地にできるかもね。

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