5 : 12 Grokster裁判

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IEEE「権利と技術発展のバランス」求める: Grokster裁判

2005年 1月26日
記事ID d50126

P2Pシステムの開発・運用者は、 そのシステムを悪用するユーザについて責任を負うのか。 Grokster裁判で、米IEEEは、最高裁に「権利とP2P技術発展のバランス」を求める意見書を提出した。

原資料

http://www.ieeeusa.org/policy/POLICY/2005/MGMvGrokster.pdf (HTMLバージョン)

明日は我が身

「技術」ひいては「技術情報」が制限される問題を軽視してはいけない。 大企業も中小の家電メーカーも、あるいは技術系のニュースサイトも。 まったく侵害意図などないことについて責任を負わされる可能性。 明日は我が身の問題だ。

技術の悪用を取り締まるのは当然だが、 何がなのかを決めるのはレコード業界ではない。 単にレコード業界がCDをHDにコピーすることが悪だと思っている、というだけで、その意見に全員が従わなければならないとしたら、 民主主義は崩壊する。

どこからが「侵害的」技術・「侵害的」利用・「侵害的」情報なのか。線引きを、あいまいに、 アドホックな解釈で済ませてはいけない。それを許せばあなた自身が後悔することになるだろう。 「もしかして、ユーザが悪用して、この技術が悪と言われるかも」というわだかまりがあっては、革新的技術も生まれにくく、 ひいては世界全体にとってデメリットとなる。 米IEEEの見解は、要するに、そういう立場だと思われる。テクノロジー業界がDMCAを軌道修正するDMCRAを支持しているのとパラレルだ (別記事「DMCRA: 米で「逆方向」の著作権法改正法案」)。

IEEE-USA は「技術の発展を維持しながらの、著作権侵害防止」を主張した。 ニュースリリースでは「著作者の努力が報われるようにすることと、 著作物の複製・流通技術がもたらす公共の福祉のバランスが、注意深く保たれなければならない」としている。 「ファイル共有技術はインターネットの基礎であり、 将来、革命的なデジタル製品をもたらすことにつながる技術を制限するべきではない。 他方において、第三者がそれと知りながら意図的に侵害を行うままにしておいて良いということではない」

例えば、ビデオデッキが社会全体に与えた恩恵(それは結局、エンターテインメント産業にもビデオの発売というビジネスチャンスをもたらしたのだが)と、産業側が「ビデオデッキは番組の複製権を侵害している」などと抽象的・蓋然的な被害を訴えた場合に、 それらを秤にかけると、どう判断するべきなのか、ということ。 一方だけを尊重することはできない、ということは、両側について言えるだろう。

上記PDFに見られる提出文書の要約では、 著作権法は「著作権者の権益の保護と、合法的技術を通じて著作物を活用できることによる公共の福祉の保護のバランスを図ることによって」 文化の進歩を促しているのだと解釈すべきだ、と指摘。 侵害的用途と非侵害的用途の両方に使える技術を dual-use technology と呼び、 非侵害目的で dual-use な複製・流通技術を提供している者に、 その技術を侵害目的で利用したユーザの行動について、責任を負わすべきではない と結論している。

いわゆる中立的技術の開発者の「幇助」問題である。

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有名アーティストら多数がファイル共有を支持: Grokster裁判

2005年 3月 7日
記事ID d50307

Artists break with industry on file sharing: Some musicians say sites valuable means of distribution
By Jonathan Krim
The Washington Post

リンク先の記事の流れにそった要約とコメント。

レコード会社とたもとを分かつミュージシャン

Grokster裁判で、ミュージシャン、アーティストらが、最高裁に対し、 不法行為を行う個々のユーザの責任をファイル共有サービス自体に負わせないように求めた。 「音楽・文化を守る」という建前で過剰なまでに自己本位な主張をしてきた企業らに対して、 アーティストら自身がそっぽを向いたかっこうだ。

この意見書をまとめたグループには、 Steve Winwood、 Chuck Dのような著名アーティストも含まれる。 かれらは著作物を盗む行為を非難する一方で、 Grokster、Kazaa のような人気サービスが、アーティストが作品を流通させるための合法的で、極めて重要なオルタナティブを提供していると論じた。

産業界は、アーティストとファンの間に入り、 本質的には、権利を右から左へと動かすだけで、何もせずに利益を得てきた。 テクノロジーの進歩で、技術的にはマスベースの仲介業が必要なくなるにつれ、 アーティスト、ファンの双方が、ますます在来システムの非効率を感じるようになってきた。 より良いオルタナティブ(代替手段)がここにある。

意見書では「レコード会社らは、すべての音楽家がP2Pに反対しているかのように述べているが、そうではない」とも指摘。 「それどころか、多くのミュージシャンが、全世界の聴衆に容易に作品を届けることができるP2Pは、良い技術だと気づいた。 多くのミュージシャンにとって、このメリットは、著作権侵害のリスクより、ずっと大きい」

これまでレコード・映画業界を初め多くのアーティストが最高裁に対して「ファイル共有は作品の売り上げに影響を与え生活を脅かす」と述べてきたが、 すべてのアーティストがそう考えているわけではなかったのだ。

業界では、Grokster が主に不法行為に使われたこと、それを防止する努力を怠ったことを理由に、 Grokster 自体も責任を負うと主張している。しかし、この産業界の姿勢に反対するアーティストらは、 数億人が利用している世界規模のファイル共有サービスを閉鎖すれば、聴衆が作品に触れる機会が奪われ、 かえって売り上げが減り、ミュージシャンの収入が少なくなると考えている。

少数の大ヒット商品か、多数のマイナー商品か

この対立する立場は、次のように要約できるだろう。すなわち、
(1) 基本的には、メジャー系の少数のミュージシャンだけを大資本で売るのか。つまり、ユーザが何を聴くのか企業が枠を決めるのか。
(2) それともマイナー系を含めて多種多様な作品がそれぞれコアな少数のファンによって支持されるのか。つまり、 大資本の力がなくても作品を流通させることができ、よってユーザが偶然、おもしろい作品に出会う機会が尊重されるべきなのか。

(2) の立場は魅力的だが、(2) の流通経路は (1) の流通経路と競合し、 合法的であってすら、大企業にとって難しいライバルとなるばかりか、 不法的であれば、もっと直接 (1) の利益を損なう。一方、(1) の方法のみを偏重すれば、明らかに文化の多様性が損なわれ、 無名でコネもないが才能のある人々は、原則として、大企業におもねて作品発表の場を作ることになる。 どちらにも長所と短所がある。しいて言えば、ビジネスと割り切った営利ベースの大量消費型作品は (1) に向いており、 金になるかどうかとは無関係に「歌わずにはいられない」内的必然性ベースの作品は (2) に向いている。

ファイル共有技術が登場する以前「音楽の流通・小売りは少数の大企業・組織によってほぼ支配されていた」とかれらは指摘する。 「音楽家志望の若者は、これら大企業と契約できなければどうにもならないという立場だった」

意見書によると、ミュージシャンの Jason Mraz は、 「コンサートに来てくれたファンの半数は、そもそも最初に自分の存在を知ったのは違法なファイル交換によってだった」とも述べている。 一方、Janis Ian のようなすでに知名度の高い音楽家の場合でも、 ファイル共有は、廃盤になったり商業的には「終わった」作品の流通に使える。

「毎度のことだ」

Grokster 側の弁護士も、ファイル共有の合法的利用も多いことを訴えている。 「トレード・フレンドリー」なアーティストもいれば、 権利が切れた作品もあり、 最初からフリーで公開された作品もある。 ゆえに「実質的に非侵害的な用途がある道具は、違法とは言えない」というベータマックス基準が適用されるべきだ、 というのが Grokster 側の言い分だ。

エンターテインメント産業はむしろ孤立している。 ファイル共有サービスを行う他企業はもとより、 通信大手、家電メーカー、技術者・開発者・消費者・権利擁護運動家などは、Grokster のような技術自体がみだりに不法とされることに反対している。 技術を開発した者が、無関係の第三者が行うその技術の悪用についてまで責任を負うのでは、開発側のリスクが高すぎる、というのがその論拠だ。

通信大手・プロバイダーらの意見書では「新技術に恐れおののいた著作権者が技術に対する法的規制を求めるのは毎度のことであり、 この事件もその一つに過ぎない」と指摘されている。 技術をではなく、技術を悪用した個人を訴えるべきだ、というのだ。 実際、RIAAは多数の個人に対して訴訟を起こしている。

「ファイル共有技術の全否定」は既得権者だけの少数意見

Distributed Computing Industry Association は「要するに産業界の本音は独占を守りたいだけだ」と述べている。 「Grokster は、ほとんどコストゼロの流通システムにより、既得権者の独占を脅かすが、これによってこそ多様なコンテンツが流通できる。 サーバ・クライアントモデルよりも、さらに優れた流通技術だ」

Grokster を支持する意見書を提出した団体は、他にも、 Consumer Electronics Association、 Computer & Communications Industry Association、 Consumers Union、 Consumer Federation of America、 Public Knowledge などがある。要するに、ファイル共有技術(技術そのもの)が全面的に悪いと言い張っているのは、一部の既得権者だけであり、 技術者や家電メーカー、消費者はそのような一方的な見方をしないし、 ついには、アーティストたち自身までもレコード業界の意見に不同意を唱えたのだ。

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