津村さんは専門家が WWW でもっと発言することを願っていらっしゃるようだが、それは無理な話だと思う。津村さんがお書きになっている以下の重大な注意点を守るのは、いささかの困難を伴うからだ。
では、組織の中の研究者・技術者が専門的なページを作りたいと考えたとして、どんなことに気をつければいいだろうか。社外秘を漏らすとか勤務時間内に作業するなんてことは当然絶対あってはならない。そのように明確に戒めるべきことを除けば、自分個人の意見が組織と何らかの関係があるように見られることを防ぐのが、最も気をつけるべきことではないだろうか。そのための具体策として私は、表紙の目立つところに「個人のページ」であることを書く、サイト名に個人名を入れる、サイトポリシーにも個人でやっていることを書く、など、くどいくらい組織と関係ないことを強調している。
それから、専門家としてレベルが低いとみなされそうなことは書かないのも重要だと思う。自分が恥をかいてすむことでない。会社のサービスや製品に不信感を持たれるような内容では、会社はひどく迷惑する。かといって、常に完全無欠な内容だけを書くことは、常人には不可能だ。現実的には、自分の到達点を意識しながら、よく勉強していることについては自信を持って書き、まだ勉強中のところはそう断りながら書く、あるいは勉強中のことは書かない。そんなところだろうか。未熟ななりにそれを自覚して向上しようとしている姿勢があれば、会社への不信感は持たれないと思う。
組織に迷惑をかけない最も単純な方法は、所属先をサイト内に書かないことだ。ただし、所属先不明な作成者に対しては読者の関心がわきにくく訪問者もその分少ないかもしれない。それに、実名を出せば所属先がわかる場合だっていくらもある。完全に組織との関係を断つためには、匿名で公開するしかない。しかし、特殊な主張をするならともかく、学術的・技術的なことだけ書くならば、匿名よりも実名でやるほうが読者に信頼されるし自分の気合の入れ方も違ってくると思う。
Web デザイン業界は専門家やプロがいい加減なことばっかり書いてきたので、少なくとも私の中では業界自体の印象が非常に悪い。素人同然の連中が大手を振って歩いていける世界であるらしい、と。もちろん、さすがだなあと思う立派な方もいらっしゃる。ただ、そういう方が少なすぎるのだった。
勤務先を隠しても、匿名で書いても、個人が専門分野のことについて書くことは業界のためにならないと思う。自分の専門分野について書くなら、基本的には公式情報といえるレベルのものに限定した方がいいのではないか。せめて、徹底的に責任を負う覚悟で書くか。しかしそんなことは期待するだけ無茶なので、WWW で個人的にあれこれ書くなら、専門分野以外のことにすべきだ。WWW では(自称)専門家が、素人(趣味で勉強している人)でも簡単に誤りを指摘できる粗雑な解説を書くケースが後を絶たず、私はいちいちがっかりさせられる。セルフチェックなど、ろくに信頼できないということらしい。
WWW が反権威を志向するというのは、必然的な問題であったか。組織・集団のチェック機能なしでは、裾野にいる専門家はその権威を保てないのだった。
未熟ななりにそれを自覚して向上しようとしている姿勢があれば、会社への不信感は持たれないと思う。
と津村さんはおっしゃるが、いささか甘い。これを無敵の盾として、恥知らずなプロが無知を平気でさらけ出すケースがどれほど多いことか。どの世界においても頂点は狭く、裾野は広い。低レベルなプロのアホな発言が、まともな発言を数で圧倒する。だから、WWW でプロが専門分野について個人の責任で発言することは、原則として禁止すべきなのだ。ちなみに私の会社では、そういうお達しが新人研修のときにあった。当然の判断だと思う。
専門家やプロが個人として専門分野について言及することを、私は望まない。大半の専門家が口を重くしている現在でさえ、注意力を欠いた発言が多過ぎる。個人レベルでの発言なんてのはじつにまったく期待するに値しないので、公式情報の充実を強く強く求めたい。後付けでいいから、組織のお墨付きを得てくれ、ということだ。一人でやっていると、とかく易きにつきやすい。組織のプレッシャーという強力な動機を用意しない限り、チェック機構はろくに働かないものである。
どんな業界だって、多くの人は大して物を知っているわけじゃないでしょう。何でこの人がこの仕事をしているのか? みたいな事例は多いでしょう。建前でなく本当にスペシャリスト集団の会社なんて、ないと思った方がいい。けれども、そういった現実を包み隠さず消費者に見せてしまうのは間違いだと思う。
消費者は、幻想なしには生きられない。消費者は安心したい。専門家を信じたい。夢を奪うだけの大人はもうたくさんだ。専門家なら、カッコつけろ。
しかし、ほとんどの人はすぐにボロを出す。だから、最初から個人の責任なんかで発言するな、というのです。個人レベルの発言なら、最悪の場合でも自分が傷つくだけだろう、と安易に考えている人が多過ぎます。
そういう自覚の足りない専門家が愚かな発言を繰り返すから、消費者としての私は不安で仕方がない。というわけでいきなり具体例を出します。
はじめまして、**と申します。東京でWebディレクターしてます。CSSに関しては100%我流で、いろいろ実験的に試した結果うまくいった、という感覚でこれまでデザインしてきました。>いいの??
私がぶったまげたのは、この方が自分の勤務先を明かしていたことですね。基本的に、こういうレベルの方が仕事のことを書くべきでない、と私は思います。私は「仕事で疲れた」とは書くけれど、具体的な仕事の内容は一切、備忘録に書いていません。ふつうは、そういう抑制があって当然でしょう。なぜか Web デザインの世界では、この手の常識に欠ける人が多い。まあ、常識だと思っているのは私だけかもしれませんが、しかし、この方の日記を読んでですね、この会社に仕事を頼みたいと考える人が増えるとは、とても思えない。
以前、腹踊りもいい加減にという記事に愕然としてデザイナーという記事を書きましたが、仕事と WWW が近い関係にある業界の方は、とくにこの手の失敗をよくやらかす。そんな自覚しかもてないなら専門分野については個人で勝手に書くな、と私はいいたいし、組織の偉い人たちは大抵そう思っているんじゃなかろうか。
底辺の構成員というのは、ホント、自分の背負っているものがわかっていないことが多い。何という想像力の欠如か。自分は他人をいつだって(多かれ少なかれ)何らかの所属と関連付けて考えているくせに。スーパーフリーの事件があってからというもの、早稲田の学生は就職活動で肩身が狭い。個人の犯罪だからといって、個人で責任を取れるわけじゃない。組織全員の連帯責任になってしまう。その事実を知りながら、自分だけは、自分のことに自分で責任を負えると思っている。とんだ勘違いです。
この方が、じつは単に非常に謙遜して引用したような発言をなさっているなら、まあいいんです。しかしこの方のサイトを見ると、ホントにわかってないってことがよくわかってしまう。製作者 CSS を無効化すると、一目瞭然。CSSってすごく合理的な気がします。返ってHTMLの意味を再認識させてくれる気もするし。それぞれのタグの意味合いをもっとちゃんと使ってあげなくてはー、というか。
と仰っても、てんで説得力がない。
企業サイトがなかなか CSS レイアウトに移行しない理由は、製作者のレベルが低いからでしょう。マークアップをきちんとしましょうという前提があるから、NN4 で寂しい見た目にしても CSS デザインに切り替えるわけじゃないですか。SEO とかいって。結果としての見た目だけをいうなら、クライアントはテーブルレイアウトで文句ないわけですよ。単に CSS デザインにしたって意味がない。マークアップのいい加減な業者に CSS デザインなんか勧められたって、判子を押さないのが正解ですね。人件費が増えるだけなんだから。
似たような話をもうひとつ書くと、A Better Design Webページ リ・デザインブックIIの著者である山本容子さんはさるさる日記で memo を更新なさっています。「そりゃないだろう」と思う。なぜよりによってあれほどいじりようのないサービスを使うのか。前作は読みましたが、本の内容は面白いです。けれども、著者が自サイトのメインの更新をさるさるでやっているというのは、どうにも締まらない話ですよ。自分のサイトが仕事とつながっていることを、もう少し意識された方がよいのではないか。
ちなみに山本さんはキノトロープ(この道では超有名)に勤務なさっています。そういうところの、しかも著書が2冊目という社員でさえ、こういう抜け作なことをやらかすわけ。どういう業界なんだ。いいのかなぁ、こんなことで。とりあえず、「おかしいよ」という人が山本さんの身近にいない(一例)のが異常。
まあその、こうやって会社の恥を社員が晒しても何ら滞りなく仕事が入ってくるというのは、どうかしていますよ。薄給で忙しくしているから自覚がないのでしょうけれども、プチバブルがずっと続いているんですね。あるいは、どの会社もダメだから消費者に選択肢がないのかもしれない。
山本容子さんの3月2日付の memo によると、ワタシは以前勤めていた会社を、2年も前に辞めています
とのこと。情報が古かったことをお詫びします。
ただしこの事実は、私の主張にほとんど影響しません。上市社会保険労務士事務所の上市真也さんがお書きになった2004年2月11日付の記事、お知らせ:山本容子、富山に来る!では講師:山本 容子(Webデザイナ 「A Better Design」著者 元:キノトロープ株式会社)
と紹介されています。世間的に「元キノトロープ社員」は学歴よりよほど意味のある経歴であり、山本さんの信用を増す要素となっているからです。逆に、山本さんが「元キノトロープ社員もこんなものか」と思われたなら、キノトロープは迷惑するのです。もう辞めた社員であっても、それで無関係になるわけではありません。
私がいいたいことは、「Webページ リ・デザインブック」みたいな本の著者が、リ・デザインの余地がほとんどないさるさる日記で memo をつけているのではずっこける、という話です。匿名でやっている裏サイトなら理解できますよ。息抜きでさるさる日記だというなら理解します。しかし、公式サイトじゃないですか。仕事の世界とつながっているわけですよ。なぜそこでさるさるなのか。
キノトロープは、直感や「何となく」ではなくて、きちんと考えてサイトを作ることを提唱している会社です。山本さんが公式サイトの memo にさるさる日記を選んだことにも、きちんとした理由があるのだろうと思いたい。しかし残念ながら、その場に一番ふさわしいものとして選ばれたわけじゃないように見えるのです。(そして実際、山本さんは指摘を受けてサイトから memo へのリンクを切ってしまわれた)
昨日の記事について、ご要望にしたがい、いくつかのリンクを削除いたしました。同時に、(これはご要望に含まれていなかったことですが)**さんのお名前も伏せさせていただきました。
今回、私が**さんを具体例としてあげたことに特別な理由はありません。他の誰でもよかった。ただし、本当に実例を挙げてみないことには、私のいわんとするところは伝わらなかったと思います。この記事は各方面からリンクされまして、名前を伏せるまでの2日弱で約 3000 PV を記録しております。リンクを辿った方はそれほど多くないでしょうが、**さんが驚かれたのも当然でしょう。
**さんご自身は元々 HN を使っていらしたので、誰もがその勤務先を想像できたわけではありませんでした。業界人なら当てることもできたでしょうが、私には無理でした。私が**さんの勤務先を知ったのは、**さんが日記の中でその事実を明かしたからです。さて、勤務先を明かすというのは、たいへん危険なことなんです。サイトの内容と仕事の内容が関連する場合には、とくに避けるべきなんです。
**さんは、「自分はまだ未熟だけれども、頑張って勉強していこうと思っています」ということをおっしゃっている。津村さんは、そう断りを入れておけば大丈夫だろうとおっしゃった。けれども、少なくとも**さんはよくわかったはずです。そんな断りの文言など、ほとんど何の足しにもならないということを。
仕事と趣味とでは、全く責任が違います。「匿名の誰々さん」なら、「勉強中のプロです」でも何とか許されるかもしれません。しかし、会社名を出し、ほとんど実名も出しているような方がそういうことをいって、客が許すでしょうか? (ある面においては)素人にも簡単に批判できるような知識と技能しか持ち合わせていないことを赤裸々に告白して、誰が喜ぶのか。少なくとも、客は怒ります。いい加減にしてくれ、と。それでもプロか、と。
では、匿名ならよかったのか。
そうとはいえません。
なるほど、今回のような最悪の事態は避けられたでしょう。自分の言動のために、所属組織へ直接的な不利益が及ぶ悲劇は避けられたはずです。しかし、匿名なら、客の怒りの矛先は業界全体に向かいます。個別具体的な問題にならないから、どこか他人事のように思うかもしれません。しかし、一人一人のアホな発言は、一歩一歩確実に業界の信用を失わせていくことになるのです。
組織の看板を背負った公式情報でさえ、いい加減なものは少なからずあります。しかし、専門家が、プロが個人の責任で発言する場合と比較すれば、はるかにマシです。個人の責任での発言には、無責任で、適当で、無能をあっけらかんとさらけ出す発言が、あまりにも多過ぎます。それでも専門家か? プロなのか? 恥を知れ、といいたい。
実際、そんなに立派なプロは多くないのでしょう。現実そうだということは、まあいいんです。それは仕方ない。誰だって最初は素人みたいなものですしね。けれども、現実をそのままさらけ出して商売になると思っているのでしょうか。建前抜きで、本音だけで商売できるのか、と。できるはずがない。
だからこそ、今回のような批判をされたときに顔面蒼白になるのです。私がリンクしようとしなかろうと、**さんの CSS への理解が不十分である事実は変わらないし、某 Web 製作企業が**さんを雇っている事実も変わらない。私は単に事実を示したに過ぎない。しかもその事実は私が暴き立てたものではなく、**さんが自ら明かしたものなのです。
業界人だけが見ているわけじゃないんです。ある程度以上の人気があるサイトなら、むしろ、そうでない人の方がたくさん見ているんです。つまり、読者の大半は(潜在的な)客なんです。ほとんどの専門家は、WWW で情報発信するとき、すぐにこの事実を忘れます。あるいは、最初から問題を失念しています。そうしてお気楽に適当なことを書いて、業界の評判を落としていくのです。
とくに Web デザイン業界の方々はひどい。プロによる、とんでもなくレベルの低い発言が無数にあります。どうせ客にはわかるまいと思って、バカにしているのですよ。その気はなくとも、やっていることはそれと同じなんです。そういう自覚がなぜ持てないのか。他の業界と比較して明らかにそういう人(技能未熟なのに自分の専門分野について語る人)が多いから、これは Web デザイン業界にとくに顕著な体質なのだと思います。
今後、次第に他の業界にもこういう機運が広がっていくのかもしれません。それはそれで、もう後戻りできない流れなのかもしれません。しかし私は、ひとつ釘を刺しておきます。少なくとも今後しばらくは、少なからぬ消費者がプロに高い期待を持ち続けます。組織のトップも、その方向で未来を描いています。「本物のプロ集団たれ」と訓示しない(したくない)トップは、まずいませんよね。「看板は看板としてさ、みんなは気楽にテキトーにやっていけばいいよ」なんていうトップは少ない(ですよね?)。
だから、看板に見合わないダメな事実を末端の構成員がホイホイと公開してしまうのは、組織にとって、業界にとって死活問題なんです。そんなことがね、許されていいはずがない。
専門家は個人の責任で発言するな。後付けでいいから、組織のお墨付きを得てほしい。一人でやっていると、とかく易きにつきやすい。組織のプレッシャーという強力な動機を用意しない限り、チェック機構はろくに働かないものである。
私は、本人が断りを書くかどうかは問題にしていません。「未熟ななりにそれを自覚して向上しようとしている姿勢」を問題にしています。やたら「未熟だけれども」と文字にする人はむしろ信用できない。この部分は引用が不正確です。
では、どのように姿勢
を判断するのか? という問題はさておき、この追記をご要望への回答とさせていただきます。
私が過去に最も手厳しい批判をした Web デザイナーは、ミライさんという方でした。この方も若手で、いろいろいいたいことがあったんですね。で、会社に断りなく、仕事に関するサイトをやっていらした。ちょっと長くなりますけれども、昨年10月1日の備忘録を転載します。(念の為。ミライさんのサイトは昨年末に消えました。ただ、この記事が書かれてからしばらく後のことだったので、関連は不明)
追記:転載部分の公開は終了しました。
今にして思えば、ここまで書かなくてもいいだろう、という激烈な批判。前後の記事も読んでいただければ、このときの私が Web デザイナーという職業の方々に相当苛立っていたことがよくわかりますので、興味のある方はどうぞ。
後でふと気付いて、指摘するタイミングを逃したのでそれきりになっていたわけですけれども、ミライさんはクライアントを実名で批判なさっていたんですね。ちょっと、これは通常ではありえない話なんです。客を実名をあげて批判なんかしていたら、商売できない。神聖不可侵のタブー。大きなプロジェクトなら、一人が匿名で批判してもごまかしが効きますよ。だから、新聞や雑誌の記事は匿名の怪人物にいろいろ語らせます。あるいは逆に、名前出し、顔出しの人物が自分のかつての客を批判する場合には、絶対に批判対象を秘匿します。さもなくば、もう業界から足を洗った人だけが、過去の客を名指しで批判しても生きていけるんです。(恨まれて殺されることもあるけど、それはまた別の話)
しかしミライさんの会社は、当人が日記に書いていた通りなら、小さなデザイン事務所だったんです。セグロラ化粧品の広報担当者は、ミライさんの顔を知っていたかもしれない。それくらいの感じですね。それなのに、堂々とクライアントの名前を出して、グレードダウン校正を求められたといってぼやく。しかもリアルタイムに近いタイミングの例を出す。会社を解雇されてもおかしくない愚挙です。
私はプロの Web デザイナーの個人サイトなんて数百しか見ていない(もちろん全部の記事を読んだサイトはごく僅か)のですけれども、ミライさんを含めて 2 人も、客を名指しで(しかも自分も実名同然の状態で)批判している現役デザイナーに出くわしました。もの凄い確率です。恐ろしい業界だと思いましたね。正直、ありえない、と。もともと、何かヘンだという思いはあったのですが、Web デザイン業界にはっきりと不信感を覚えたのはこの頃です。で、いったんそういう目で見て回ると、いやはや、しょうもないことをやっている方がたくさんいらっしゃったんですね。狭い業界なのに、どうしてこうもダメな事例が多いのかと驚き呆れたものでした。
私も散々、「実態はともかくとして」ということを書いているので、これは私の意見への反論ではない、という前置きをした上でご紹介。
私はプロといっても大したことない人が多いことを知っていながら、「こういうことをいっている人が勤務先を明らかにしているのだが、それってどうなのよ?」と指摘しました。案の定、指摘された方は顔面蒼白になってしまった。私は何一つ、新事実を明らかにしていないわけです。当人の発言を読めば誰でも分かることを、私の感想付きで提示したに過ぎません。otsune さんがロマンチックで個人的な「希望」を書くとしたら。
と断っていることに端的に現れている通り、少なくとも現時点では、そして今後も当面は、**さんのなさっていたことは、よく考えてみれば危ないことだったんですね。
将来のことはともかくとして、今、どう振舞うべきかを考えるとき、我に返った途端に血の気が引くようなことはすべきでないのです。
指摘の結果がこうなることはわかっていたのだから、特別にひどいというわけじゃない一人を例に出したのは、不公平だったとは思います。しかしこういうのは、5人例示すればよかったとか、10人ならいいとかいうわけじゃなくて、いずれにせよ全員を一気に指摘するのは無理なんです。この手の不公平にこだわると批判記事の類は一つも書けないことになってしまう。というわけで、ご了解いただきたいと思います。(→ご意見くださった、**さんのサイトの某読者氏)
私が繰り返し主張しているのは、「専門家が自分の専門分野について語るとき、個人の責任で勝手に情報発信せずに、組織のお墨付きを得るべきだ」ということです。組織のチェックが入っているのなら、「新人 Web デザイナーのお勉強日記」でも構わないのです。誰だって、最初は新米で右も左も分からない。知識も経験も足りないから失敗もたくさんする。それはみんなわかっているんです。しかし、それをきちんとフォローしている人がいるのか、というところが重要なんです。会社公認の日記なら、そこに記された数々のおとぼけ発言も笑って読み流せます。少なくとも、書いている本人は今回のような批判に対して恐れおののく必要がない。
自分の専門分野に関することで自由気ままにいい加減なことを書いたら、その記事への批判を会社や業界への批判に結び付けられたときに困るのです。趣味のことなら、多少の間違いをやらかしても本人だけが謝ればすみます。しかし専門家はたくさんのものを背負っていて、自分の失敗を自分だけで取り返せないのです。専門家という集団が、疑われるのです。教授というだけで信用されたりしますね。プロの Web デザイナーです、というだけで素人さんは信用するんです。でも、いいときばっかり、集団の一員でいられるわけじゃないんですね。自分が下手を打てば、みんなに迷惑がかかるんです。
そういうことをね、自分の専門分野について書きたいという方には、きちんと考えてほしいんですね。
おそらくセキュリティ文化というかフルディスクロージャー文化が「失敗がどうやって起こって、それにどう対処したのかを含めて主張することが善」という独特の文化なんだろうなぁ。セキュリティやオープンソースの世界では、黒い情報を秘密にすることでリスクを保つというやり方が通用しない。
でもシロウトは「失敗が起こった」ということを簡単に誤解してしまう。読み取るリテラシーが無い。徳保さんは「客のリテラシーには期待できないのだから、専門家は誤解されるような主張を控えよう」とWebデザイナーという世界に対して言っている。……と、理解。
個人的には。オープンソース系やフルディスクロージャーな人たちの「誤解を恐れずに公開する」という姿勢は全文検索エンジンとネットにとても相性がいいので、今後は色々な職業世界に広がっていくことを期待してみたい。
私の主張は、ひとつには otsune さんのまとめの通りです。
ただ、あえてここで Web デザイン業界に話を限定するならば、(自称)プロの語るダメ話の多くは、初心者の通る道をそのままなぞったもので、その結論もまた「ありがちな誤解」なのです。正解に辿り付いてさえいない。
私は**さん、長谷川恭久さん、山本容子さん、ミライさんの4人を例にあげましたが、いずれもフルディスクロージャー文化
なんて高尚な話とはとても結びつかないケースです。詳細は繰り返しませんが、いずれも仕事に関連のあるサイトで不用意な形で情報発信していたために起きたまずい事例だということに注意してください。趣味のサイトであれば、私の指摘に困ることはなかったのです。
ただ情報発信すればいいというわけじゃない。どんな情報でも公開したほうがいいというわけじゃない。冷静になってみれば誤りだとすぐ気付くようなことを、なぜ指摘されるまで延々と続けているのか。セルフチェックなんてのは、信用ならないということなんです。そんな自覚しかもてないのなら、危険だから仕事に関連したサイトなんかやるな、と私は申し上げているのです。