趣味Web 小説 2005-04-15

太田由希奈と安藤美姫

ふと思い出した話。

安藤美姫が公式戦で女子選手としてはじめて4回転ジャンプに成功したのは、2002年のジュニアグランプリファイナルだった。安藤はスポーツ新聞のみならず一般紙の一面にまで登場し、テレビも大特集を組んだ。じつはこのとき、安藤美姫は一人の若い日本人スケーターに完敗し、最終順位は3位に終っている。

2002年のジュニアグランプリファイナルを制したのは、太田由希奈という名の少女だった。だが、彼女の名を知るのは一部のスケートファンにとどまっている。報道は、された。だが、その扱いは安藤のおまけに過ぎなかった。当時、私は「4回転はジュニアグランプリ優勝より凄いことなのだろう」と思った。しかし、そうではなかった。2003年、安藤美姫はついにジュニアグランプリファイナルの栄冠を手にした。2004年は新星・浅田真央が優勝した。いずれも大々的な報道が行われ、フィギュアスケートの新時代到来を日本人に印象付けたのだ。

2003年、太田はジュニア選手権でひっそりと優勝している。メディアが注目したのは、パッとしないまま2位に終った安藤だった。翌2004年のジュニア選手権、安藤美姫は見事に優勝を飾り、2005年は浅田真央が優勝。スタジオのアナウンサーも現地のレポーターも大興奮だった。

2004年、太田は四大陸選手権で優勝した。しかしその事実を知る日本人は驚くほど少ない。2005年の四大陸選手権が村主章枝恩田美栄の一騎打ちで話題になったこととは対照的だ(ちなみに村主が優勝、恩田が準優勝)。もちろん、今年の四大陸は世界選手権の出場権をかけた重要な決戦場であり、そして今年の世界選手権の結果はトリノ五輪にもつながってくる。だから2004年と2005年では重みが違う、という解説には一理あるが……。

つまり、日本女子フィギュアスケート界の福原愛は安藤美姫と浅田真央であり、太田由希奈は実績と関係なく注目されてこなかった(というのが私の解釈)。「公平な報道」は難しい問題で、「伏兵」と呼ばれる選手が立派な実績を誇っていることはしばしばある。そうはいっても、マスコミは政府と同じで間違いばっかり責められるけれど、かなりいい線で世界を切り取っていると思う。全国のスポーツ記者が安藤や浅田にはビビッときたけれど太田には「ふーん」だった背景には、多分、何かある。

まあそれはいいさ、どうせ私にはわからない世界の話なんだろう。ただ、彼らの記事を読むド素人の私は、下衆の勘繰りと承知していても、太田さんの気持ちを空想せずにはいられない。女子フィギュアスケートという人気競技で世界の頂点を極めながら、街行く人の誰も自分の顔を知らない。名前も知らない。「安藤美姫が4回転に成功したときに優勝した人」と説明しても、「そんな人、いたっけ?」……そして実際、マスコミの眼力に狂いはなく、今シーズン一番の大舞台だった世界選手権のリンクに、彼女は立てなかった。トリノ五輪も非常に難しいと聞く。

このところ太田由希奈が話題にならないのは、ケガに悩まされ続けているからだ。ケガも実力の内なのだろう。ひょっとすると、太田は以前からケガの不安を抱えていて、取材した記者には全部バレていたのかもしれない。しかしそれならむしろ、そのとき輝いている選手にライトを当てたっていいじゃないか。もちろんマスコミも商売だから、ある程度、取り上げる人数は絞ってほしいというのが視聴者の望みなんだろう、とは思う。スターがいなくては五輪特番は作れない。

余談

安藤美姫の名で Google 検索すると、goo 画像検索の結果が最上位に登場。何それ。けっこう少なくない女優やタレントの場合、アダルトサイトの特設ページが最上位で登場してしまう。それに似たようなものかと思った。ちょっとこれは可哀想だな。

ちなみに太田由希奈さんにはファンサイトがあります。本人がそれで喜んでいるかどうかは知らないけれど、検索結果の最上位がリスペクト系の応援サイトなのは、少なくとも不幸なことではないと思う。

ところで、私の記事はいささか思い入れ過剰なので、太田さんに興味のある方はフィギュアスケートジャーナルの記事などもチェックされることを勧めます。また安藤美姫についてウェブで読める記事としては日刊スポーツのインタビューが秀逸。

無関係な記事

私の心の中ではちょっとだけ関係があるのです。

F1 もマラソンもフィギュアスケートも、正直いって私は詳しくない。ただ、毎日新聞を読んでいて、何か心に引っかかることがあります。たいていそれらはどこかへ流れていってしまうのだけれど、時々、新聞記事から読み取った私なりの物語の解釈を、書き留めておきたくなる瞬間があるのです。野口みずきと土佐礼子の話は、記事を読んでから備忘録を書くまでの期間があまりに短く、半分以上パクりになっているような気がします。ちょっと気になるところ。

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