趣味Web 小説 2009-10-13

羽田空港の国際線増加と成田空港の行方

1.

今も実家は成田市にあって、父は機内食メーカーに30年近く勤めていた。そんな私の見解としては、羽田空港を本格的に国際空港として発展させようという話は、決して「寝耳に水」ではない。

本稿の趣旨は旧稿と同じだが、この機会に再論したい。

2.

横田、羽田、成田の位置関係

そもそも羽田空港の拡張が断念されたのは、米軍が管制する横田空域が背後に迫っているという物理的な制約があったためだ。ルール上は、米軍と協議すれば横田空域を民間機が飛べる決まりだったが、臨機応変に自由なコース設定ができないということは、つまり「使えない」ことを意味する。

当然、新空港も海上に作るのが良いに決まっている。だから東京湾内で何とかならないか、というので木更津沖などが考えられた。しかし横田空域の制約は厳しく、十分な発着回数を実現しうる場所となると、相当に東まで逃げなければならないということになった。そこで、霞ヶ浦や富里といった案が有力となり、紆余曲折を経て成田に空港が建設されるに至った。

成田市民は、計画発表後しばらくは激しく反発したものの、いったん本決まりになれば、市長選挙でも、市議会議員選挙でも、建設推進派が勝ち続けた。ことに空港の建設が進んでニュータウンが作られ、人口が増えてからは、建設反対派はほぼ一掃されてしまった。

これにはカラクリがあった。成田山新勝寺の門前町として栄えた旧来の市街地上空は飛行コースから外れており、ときどき遠くでゴォンと鳴っているだけ。それで街が潤うのだから、賛成するに決まっていた。

空港で働く人とその家族が暮らすニュータウンもまた、静かな場所に建設された。職場に到着すれば、完全防音の建物の中で仕事をするのだから、通勤中くらいしか騒音を体感しない。他人の痛みは、なかなかわからない。空港労働者だけでなく、その家族もまた、空港建設反対派に与することは稀だった。

これに対して、空港が建設された三里塚は人口密度が低く、また開拓民が多かったこともあり、伝統的市街地の出身者が大きな存在感を持つ市政とは、縁遠かった。この絶望感が、暴力闘争の背景にはある。

また、太平洋から空港に至るコース直下の市町村は、ただうるさいだけでろくに補助金をもらえない。とくに芝山は飛行機がいよいよ着陸するという場所にあったので、悲惨である。芝山町長が長らく空港反対派だったことに何の不思議もない。

同様に、東京-成田間を直線で結ぶ成田新幹線の建設も、頓挫した。通過されるだけの市町村は、騒音だけもらっても少しも嬉しくない。

……かくて成田空港は、東京から遠く、滑走路が1本しかなく、夜間は使えない、きわめて不便な空港としてスタートすることになった。

3.

石原慎太郎さんは1999年、横田基地の返還を訴えて東京都知事に当選した。石原さんは福田赳夫内閣の一員として成田空港開港に尽力し、後には運輸大臣を務めてターミナル地下への鉄道乗り入れを実現した方で、日本の航空問題を一挙解決するには横田返還しかないことを熟知していた。

実際には、派手なことは何も起きなかった。石原都知事もトーンダウンした。しかし、横田空域の返還は、少しずつ進んできた。羽田空港の拡張は、横田空域の返還と軌を一にしている。

一方、成田空港の経済効果は数十年の間に拡大・浸透し、空港周辺の市町村にとって、今や空港は「なくてはならない存在」となった。千葉県と空港周辺市町村にとって、羽田空港が際限なく拡張されていくことは、脅威である。空港を維持するだけなら貨物専用空港と化しても問題はないが、それでは経済を維持できない。

かくて平行滑走路の建設・延伸と成田新高速鉄道の建設が進むことになった。

横田空域が完全に民間開放される日は遠い。その実現には多大なエネルギーと時間を要するだろう。首都圏の航空需給が逼迫した状態が続く間に利便性を十分に高めることができれば、成田空港は安泰だ。

あるいは、羽田の物理的な拡張も「ひとまず限界」といわれる。日本経済がいい加減にデフレと縁を切って実質年率2%の「当たり前」の成長(ここでは1人あたりのGDPを想定)を実現するならば、横田空域がどうあれ、成田の必要性は揺らがない。

だから本来ならば焦る必要なんかないのだが、この国の金融政策はヘンなので、いずれ人口減少率(様々な推計があるが最大で年率1.2%程度の減少)を相殺できない水準まで、1人あたり経済成長率が落ち込みかねない。そうなると、限られた航空需要を2空港で奪い合う、つらい戦いになる。

大臣は首都圏の航空需要が飽和するとは考えていないのだろう。しかしそのためには、民主党がマクロ経済政策に成功し、首都圏の航空需要が現状以上の水準を維持し続けることが条件になる。

ともあれ、羽田の国際拠点空港化は以前から出ていた意見だし、今回の大臣発言も「決定しました」ではなく持論の表明。これを「寝耳に水」と非難されたら誰も何もいえない。少しずつ成田に国内線が増えて、意外と地元民も喜んだ。やはり羽田:国内線、成田:国際線という棲み分けは不合理だと、みなわかっている。

成田が維持されるなら、羽田が国際線を増やしても、地元に異論はないはずだ。成田だって、本当はもっと国内線がほしい。強烈な反発の原因は、経済の先行き不安、すなわち航空需要減少の予想にある。やはり経済成長が課題なのである。

本来は滑走路5本の大空港を作るはずが、いまだに成田は1.5本止まり。だから石原さんは横田空域を開放して羽田を拡張しようとした。しかし羽田をフル活用しても現在の航空需要は満たせない。国際拠点空港を目指すならなおさらだ。ゆえに経済成長が続いて航空需要が維持される限り、成田の必要性は微動だにしない。

お勧めの1冊

私もいろいろ読んだけれど、成田空港問題については、この本がベストだと思う。私の記事は個人的な興味を前面に出して偏っているので、ぜひこちらを参照してバランスをとっていただきたい。

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