3月2日、連立与党の来年度予算案が衆院本会議を通過し、年度内成立が確定した。一般会計総額92.3兆円、税収を国債の発行額が上回る計画。世論はこの予算案を支持しなかった。鳩山由紀夫内閣の支持率はガックリ落ち込み、とうとう不支持率が上回った。
安倍晋三内閣以降、これで4代続けて同じような展開が続いている。最初は一定の期待を集めるものの、半年前後ですっかり人気を失くす。その間、参院選、衆院選が1回ずつあったが、「民意」は政治家に伝わらなかったようだ。
すなふきんさんの疑問は、菅原琢『世論の曲解』を読めば氷解すると思う。
菅原さんは自民党の敗因にフォーカスしており、「有権者がどのような政策を期待しているのか」について歯切れの良い説明をしていない。けれども、求める答えは自民党が支持を失った理由から類推できて、それは即ち「構造改革」と「財政再建」である。
ここでいう「構造改革」とはイメージ語であって、小泉純一郎政権では「不良債権処理」が「構造改革」最大の成功例という説明だった。
また「財政再建」は、「今後10年以内に税収が支出を上回るようにする」というくらいの急戦論を指す。
「青い鳥」は明確だ。財政を緊縮的に運営して、そのために必要な「改革」は何でもやっていくことだ。これには小泉政権の前半という前例がある。国民は新政権を熱狂的に迎えた。だがしかし、不況が深刻化するにつれ、支持率は次第に下がっていった。「青い鳥」政策を愚直に推進しても、未来はない。
小泉政権の後半は、「りそな銀行救済」「テイラー・溝口介入+量的緩和」といった金融政策で景気を持ち直し、支持率の低下を食い止めた。世論はこれらの金融政策に不満顔だったが、結果として生じた「不良債権処理」や、税収の持ち直しによる「プライマリー・バランス黒字化」の計画策定を好感したようだ。
そこそこ高い支持率を保った小泉政権の歩みを振り返るに、国民の期待に応える現実的な政権運営の道筋は明確なように思われる。具体的には、
以上の3項目だ。鳩山政権が「コンクリートから人へ」をテーマに予算編成をするのはよいが、予算の総額を増やさないための努力・工夫がもっと必要だった。財政による景気刺激に色気を出してはいけなかった。
衆議院で、最大野党の自民党は何をしていたのか。与党政治家の不祥事の追及に注力し、ついには審議拒否に至ったわけだ。的が外れている。先の政権党であり、前政権の麻生太郎内閣が財政刺激を志向したので、批判が難しかったのはわかる。しかしここで「自民党は変わった!」と宣言せずに政権奪還が可能だろうか。
予算案の「バラまき」を批判し続けた舛添要一参議院議員が「首相にふさわしい人物」として人気を集め、また政党別支持率でみんなの党の人気が高まったのは当然の話だと思う。とはいえ、有権者は冒険を避ける。新しい政党、小政党が、政策への共感だけで突然に大勢力を形成するとは考えにくい。
財政タカ派の与謝野馨さんが、大きな経済の落ち込みに直面して財政支出による景気刺激を企図した予算を組んだことは記憶に新しい。民主党も選挙前に主張した緊縮財政の逆をやってみせた。有権者が「政策」より「安心感」で投票先を選ぶのは道理だし、実際、みんなの党だっていざとなれば豹変するだろう。
いま「国民に支持される政策」を何が何でもやり抜く力のある政治家は見当たらない。人々の政治への不満は、当面、解消されないのではないか。
私は「有権者の多数派が支持する政策は正しい」とは考えていない。しかし失政ストッパーとして民主主義は必要であり、世論を無視した政治はありえない。小泉政権は、予算自体を減らさず、増税をせず、金融政策を(不十分なりとはいえ)頑張った。無茶をいう世論との付き合い方がうまかった。