趣味Web 小説 2011-02-01

「合法なのに自主規制するのはおかしい」への異論

1.

「主人公がタバコを吸っていたら、主人公に憧れる少年たちに悪影響が起こる可能性がある」とPTAなどの団体から抗議を受ければ、編集部は、親が子供に雑誌を買い与えなくなることを恐れ、少年漫画の主人公に「タバコを吸ってはいけない」という自主規制を設けます。

近年の嫌煙ムードは別にして、成人が喫煙することは違法ではありませんが、このような事情で、少年漫画の主人公は20歳を超えてもタバコを吸うことができません。

「合法なのに自主規制するのはおかしい」という捉え方には賛同できない。「表現の自由=あらゆる媒体で制限なく表現できること」ではない。少年誌には少年誌の文化がある。その文化には、読者と書き手だけでなく、その周囲の人々の価値観も反映されるし、それは当然のことだと私は思う。

2.

本来なら、自主的に棲み分けできればいちばんいい。私は小学生の頃から『ゴルゴ13』を読んでいた。『ゴルゴ13』は少年誌に掲載されるタイプの漫画ではない。だから小学生の頃、同級生の大半は『ゴルゴ13』を読んだことがなかった。それでよかったろう、と思う。

『ゴルゴ13』は素晴らしい漫画だと思うが、同じような漫画を少年誌に掲載することに固執し、「違法ではない」「表現の自由の侵害だ」「憲法違反だ」と批判をはねつける事例が出てくるなら、いずれこうしたところにも法規制は入り込んでくる。そのとき、少年誌に『ゴルゴ13』のような漫画が掲載されないのは実質的な表現規制であり云々という主張に、私は与しない。「少年誌の主人公は喫煙できません」で、よいではないか。

しかし同時に、少年誌はたくさんあって、それぞれに多数の作品が掲載されているのだから、主人公が喫煙する漫画のひとつやふたつ、あってもいいと思う。でも、その作品が批判され、喫煙描写をやめたり、掲載誌を移動したりするのも、悪いことだとは思わない。そうしたせめぎあいがあってこそ、少年誌なら少年誌なりの、その時代の感覚に合った適切な自主規制の水準を見出しうるのだ。

3.

昨年末、「刑罰法規に触れる性交等を不当に賛美、誇張するように描いた」作品の区分陳列を求める東京都の条例案が、ネットの一部でたいへん話題になった。このような流れがどんどん広まっていくことは、何とか回避したい。

「違法でなければ完全に個人の自由」という考え方に賛同する人の割合が高まるのは危ないんだ。法の裏付けなしには「この表現は少年漫画にはふさわしくない」といった主張が力を保てないならば、自主規制は機能しなくなる。自主規制の放棄に商売上の不都合がない状況では「やったもの勝ち」が横行し、市場の論理によって倫理的な出版社は苦境に立たされる。

いま、規制を求める側も、それに反発する側も、「違法でなければ自由、無制限」という世界観に片足を突っ込んでいるように見える。それでは「価値観の多様化が、自主規制型から行政規制型への回帰を導く」逆説的な展開を避けられないだろう。きわめて残念だ。

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