趣味Web 小説 2011-04-07

日銀の2011年の経済見通しについて

1.

日本銀行政策委員の経済見通し

審議委員9人による2011年1月の経済見通し。2010年10月からのわずか3ヶ月で実質GDPの成長率予測が全然違っていることに、まず驚かされる。しかし、よく見て本当に愕然とするのは、9人の意見が見事に一致していることだ……。みんなして同じような予想をして、みんなして外れている。何のために9人もいるのだろう。

日銀の政策委員会は、福井副総裁(当時)が中心となって人選を行ったといわれる最初期がいちばん面白かった。福井さんは自分と意見の異なる人を意図的に選び、また政策委員会で活発な議論が戦わされるよう、配慮したという。それが次第に、執行部提案に全員が賛同する、面白みに欠ける政策委員会になっていく。(藤井良広『縛られた金融政策』、中原伸之『日銀はだれのものか』)

2.

以下、種明かしなど。

10 月の「展望レポート」で示した見通しと比べると、2010 年度の成長率は、過去のGDP 実績値の改定により2010 年度の発射台が高まったこと( 統計上の「ゲタ」の上振れ) や年度の前半の実績がやや強めとなったこともあって上振れるものの、2011 年度および2012 年度の成長率については、概ね10 月の見通しに沿って推移するとの認識で一致した。

なるほど、統計上の問題ですか。ちなみに物価については以下の議論があった由。

多くの委員は、夏場に予定されている消費者物価指数の基準改定について言及した。何人かの委員は、基準改定によって消費者物価指数の前年比は下方改定される可能性が高く、このことを十分に視野に入れながら物価動向を点検していくことが必要であるとの認識を示した。複数の委員は、基準改定はあくまで技術的な変更であり、マクロ的な需給バランスの動きなどからみてデフレ脱却に至る展望が開けているかどうかを丁寧に点検していくことがより重要であるとの見解を示した。この間、複数の委員は、基準改定によって実際に消費者物価指数の前年比が下方改定された場合、経済主体の予想物価上昇率に影響を与えることがないか注視する必要があるとの認識を示した。

私がこのくだりを読んで不愉快になるのは、2011年度の消費者物価指数(生鮮食品は除くがエネルギーは含む)の見通しは0.0~+0.4となっているからだ。基準改定を考慮に入れれば、今年もデフレが続くということではないか。そう予想していながら、早くも物価の上ブレの心配などしている。

パッと見にはいちおう緩やかなインフレを目指しているようでいて、実際にはデフレターゲットを行っている。これは見飽きた光景の繰り返しだ。政府は10数年来、景気に配慮して云々と意見を申し述べてきたわけだが、ならばどうしてこう、デフレ脱却に本腰を入れない人たちばかりを日銀の審議委員に推挙し続けてきたのだろう。私はそれが不思議でならず、過去に何度か備忘録にも書いてしてきた。

この4月に就任された白井さゆりさんもまた、「日銀にできることはあまりない」という考え方の持ち主で、何としてもデフレを解消すべき、そのためには非伝統的な金融政策を駆使することを厭わない、といった意見には与しない。審議委員の選任は、政府が日銀を変える最も強力な手段なのに、どうしてこうなのか。

3.

日銀の組織が現在の姿になって以降、金融政策を司る政策委員会の人選が面白かったのは最初だけ。まず強固な金融緩和派(ハト派)が消えた。そして今回、水野温さんに続いて須田美矢子さんが退任し、強烈な金融引締め派(タカ派)も消える。もはや誰の講演録を読んでも、現在の状況に対してハト派かタカ派か旗幟鮮明な人がいない。

デフレを脱却できないまま「異例の措置」を小出しにし、懸命に金融緩和している、という日銀。だが基準改定後にはマイナスに転落すると予想される物価見通しを公表しておきながら、いっそうの金融緩和策には慎重になる。議事要旨を見れば毎回いろいろ議論はされているらしい。だが結論は全員一致なのでつまらない。やっぱり、1人でも応援できる人がいないと、面白くない。

「どんな場合にもタカ派」なんて無責任な委員は、過去にも現在にもありえないだろう。かつて突出したタカ派として知られた篠塚英子審議委員も、急速な景気の悪化に即応して、きわめて大胆な資金供給策を提案したことがある。私が問いたいのは、いまこの状況に対して、どう考えるのか、だ。

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