趣味Web 小説 2011-10-03

memo:政府貨幣

1.準備1

大久保さんの記事は、麻生政権の頃、政府紙幣の発行が少し話題になったときに読んだ記憶がある。

私の素朴な疑問は、デフレを脱却したとき、本当に貨幣の流通速度が再び速まるのか? ということ。貨幣の流通速度が際限なく低下する状況は終っても、過去に見られた水準まで流通速度が回復するわけでもない……という展開になるかもしれないじゃないか。

「貨幣の流通速度の下げ止まり=貨幣の供給が流通速度の低下で相殺されない」という形でデフレが止まり、流通速度の再上昇が起きない場合、「過剰なインフレを抑制するために、いったん供給した貨幣を吸収する」必要がない。大久保さんは、そうはならないと決め付けているのだけれど、歴史を眺めれば、発行した政府貨幣を全て吸収する結果となった事例ばかりではない。

2.準備2

例えばイギリスで失業率の高まりとインフレが同時に起きていて、需要ショックで不況になったはずなのに、生活必需品を中心にインフレが続く。いま生産の拡大が求められている商品の生産に資源が集まらないのは過渡的な問題なのか。過渡的だとして、その調整は何年も要するものなのか……。

失業者の大多数が直接、人手不足産業に入っていくという仮定は現実的でない。供給制約で商品の価格が上がると、ふつうは生産を増やそうとする。商品価格の上昇は人件費の上昇につながり、あちこちの産業から必要な能力のある者を引き抜いて雇用を増やして、生産の拡大を実現していく。そうした空いたポストに失業者が入っていく。拡大中の産業に直接雇用される失業者もいるが、全体としては少数派である。……と、こういう玉突き式の仕組みだから、調整には時間がかかる。何らかの過渡的な対策も必要だと思う。

商品の価格が上昇しても生産と雇用が増えない可能性、これも、もちろんある。生産者は、一時的な需要の高まりだと思えば、人員を増やさない。この場合、商品価格が上昇しても、生産は増えず、先行者が一時的な(or一時的なものと予想された)超過利潤を手にするだけに終る。

3.本論

「日本には60~70歳代を中心として1000万人分の余剰労働力があるので、相当に巨額の政府貨幣を発行して国債残高の圧縮を進めてよい」というのが私の数年来の経済認識

松尾さんも、日本にはたくさん失業者がいるので、震災復興のために20兆円くらい無から財源を生み出しても問題ない、という見解のようだ。

この議論は、調整の時間とコストを軽視している。またデフレを脱却すれば貨幣の流通速度が云々という話も無視している。ただ、貨幣の流通速度の話はとりあえず脇へ置いて、以下では「震災復興で20兆円くらいドカンと政府貨幣を発行したとき、ひどいインフレになる可能性」に的を絞る。

松尾さんは上限4%のインフレターゲットを想定されているけれど、中期的には20兆円を浪費してもその範囲内に収まるとしても、数年程度のスパンでは全然ダメかもしれない。やってみてから、問題があれば政府の支出を削るということができたらいいが、「物価上昇率次第で復興の速度を柔軟に調整します」という方針で議会を通過できる予算は考えにくい。

「たぶん大丈夫」が外れて想定以上のインフレになったとき、政府支出を絞れないなら金利を上げて民間の消費を抑制することになる。

被災地にたくさんの失業者がいて、全国にはもっといて、だから……私もそう思いたいが、金融危機への積極的な対応の結果、けっこうキツいインフレになって、それはデフレよりかましだったとしても、しかし期待されるほどの失業率の改善はなくて……という実例がある中で、あまり楽観的にはなれない。

ブラジルの失業者は日本へ来るのに、北海道の失業者は、なぜ愛知に来ないのか。明治維新以降1960年代までの、人が自由に土地を移動する時代の再来を切に望みます。

今は愛知県も人余り。「知らない土地へ移動して、たった数年で失業者に逆戻りするなんて耐え難い。年金をもらえる年齢になるまで、ずっと働き続けられる確信がなければ、おいそれと移動なんてできないよ」という話だったとすれば、問題の構造は共通している。

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