受益者負担の原則について、閲覧者から直接お金を集めるような仕組みはスマートではない、サーバ業者は広告収入という形でコストを回収すべきだ、アクセスをお金に変える方法があるのに転送量の負担を理由にアカウントを削除するのはレンタルサーバ提供者の怠慢だ、といった意見が寄せられました。単純には首肯できません。
本当に広告収入だけで運営費を稼ぐためには isweb のような派手な広告が必要です。派手な広告をつけるサービスが大転送量に耐えられないのは、サーバ管理システムに問題があるといってよいかもしれません。ただし転送量の大半が、広告の入る HTML 文書ではなく画像・動画によるというケースを除けば。
しかし今回、九十九式を追い出したのは忍者ツールズです。忍者のレンタルサービスは、単体では明らかに赤字です。広告代理店と契約してみればわかることです。あの程度の広告では絶対に元が取れません。
忍者は広告が少ないことを売りにして客寄せをしました。それは infoseek のような超巨大なアクセスを集めるポータルサイト運営者の提供する isweb と異なり、そうしなければユーザを確保できないためです。広告で儲けを出さないことを決めた忍者ツールズにとっては、ユーザのサイトの人気はない方がよいのです。転送量が増えれば、どんどん赤字が膨らみますから。
忍者のビジネスモデルは、はてなと同じです。赤字の事業は技術力のショーケースであり、収益はシステム開発の請負から出ています。大規模な会員制サービスを安定運用してきた実績でシステム開発の仕事を獲得しているのです。忍者はプロバイダではないので、大転送量を我慢しても宣伝になりません。ユーザの数とシステムが重要で、転送量はいらない。
はてなは画像のアップロードに厳しい制限をつけています。多くの画像を公開しているのは、有料ユーザか他サーバから画像を呼び出しているユーザです。これは忍者ツールズの転送量制限に対応する工夫です。画像を抑制して転送量を抑えているわけです。
大半のブログサービスは、おとなしい広告だけをつけていながら(あるいは広告なしで)無料でサービスを提供しています。これも儲けが出ているはずがなく、会員を大量に確保するための餌に決まっています。ではなぜ、転送量が増大しても人気サイトを追い出そうとしないサービスが大半なのでしょうか。
最大の理由は、広告をガンガンくっつけて成功しているサービスがひとつも存在しないことでしょう。最初にそれをやったところが負けで、会員をよそへ取られます。初期に大きな会員数を得たサービスがいずれも広告なしだったところから、みなの地獄のロードが始まったといえます。レンタルサーバ業界のように、最大手が広告収入でペイしており、小規模業者が広告の抑制でニッチ市場を狙う、という状態の方が私は健全だと思うのですが……。
第2の理由は、ブログサービスは「憧れのあのサイトと同じ機能を持ったサイトを作れる」という点を売りにできることでしょう。つまり、九十九式が忍者ツールズを使っていても、あまり忍者の宣伝にならないわけです。全然ならないとはいいませんが、九十九式の転送量とはつりあわない。その点、人気のブログは、同サービスに大勢の新規会員を勧誘する効果があるといえます。
しかし Doblog のように、一部の人気サイトがあまりに高負荷となって耐え切れなくなっている事例もあり、そろそろ零細業者は思い切って転送量制限を始める時期ではないかと私は考えます。人気ブログを切れば不評を買うのは事実ですが、その結果、サーバの軽い動作を保証できるようになれば、最終的には人気が出るのではないでしょうか。lovedoor blog も jugem も、サーバが重いことが一番の不満事となっているのです。みんな、無理がきているのだと思います。
無料で広告が少ないなら、転送量で制限をつけるのが健全です。無理を通せばサーバが重いのは解消されません。ブログ業界の過当競争がいつまでも続くことはない、と私は読んでいます。
まず、プロバイダだから、という説明がつけられます。接続業者が転送量を理由にサービスを停止するなんて、会社の沽券に関わる事態です。接続業者だから、回線には余裕があることがおおいのではないでしょうか。サーバもたくさん用意しているだろうし、動的な負荷分散のシステムも導入されていないはずがない。大手のプロバイダは、零細企業が多い個人向けのレンタルサーバ業者とはインフラのレベルが格段に違います。
転送量無制限で知られるのは plala, OCN, DTI, Nifty といったプロバイダです。いずれも名の知れた大手です。だから「例外」に対処可能な人的・金銭的余裕がある、という可能性もあります。しかし最大手の YahooBB が用意している geocities の BB 会員特別コースは、あまりよい評判を聞きません。単純に会員数ではなくて、他の要素が絡んでいるのでしょう。
さらに個人 Web サイトの過半数がプロバイダの提供するウェブ領域を利用しているのが現状で、人気サイトと無縁の初心者ユーザがとくに多いという状況があります。これが例外を許容する土壌となっている、とも考えられます。
……いくつか考えてみましたが、はっきりしない話ばかりですみません。
私が人気サイトの管理者に注意を促したのは、広告が少ない無料のサーバを選択した時点で、アカウント停止・削除という結末は当然予想されたことではないのか、利用形態にあわせてサービスを選択するだけの賢さがなぜないのか、と考えるからです。
広告がゼロ、または少しで、しかも無料。そんな馬鹿な話はない。当然、裏があるわけです。その裏事情が、ユーザの目に見える形で現れてくるのが、例えば転送量制限なのです。
転送量の制限が不満なら、isweb を使えばいいのです。派手な広告がその代償です。何の代償も払わず、広告が少なくて無料だとか、非常識に安価なサービスを追い求めるのは間違いだ、それは愚かな消費者の行動だ、そういいたい。
しかしこの問題は、視点を変えると、閲覧者の問題とも考えられます。仮にサイトの製作者がわがままだとして、それが許される道がひとつだけあるわけです。サーバ業者は商売だから、わがままを聞きません。けれども、サイトの閲覧者なら、わがままを聞いて負担を背負うことも可能なのです。
広告の派手な無料サーバなら、転送量とコストの問題は解決します。しかし広告は我慢しなきゃいけない。製作者も、閲覧者も、です。
プロバイダのおまけスペースを使えば、広告の問題さえ解決します。しかし、引越しでプロバイダを変わるときには URI が変わってしまうし、サーバの容量はたいてい小さいし、CGI も使えないことがほとんどだし、URI がダサくて長いという問題もある。それは我慢しなきゃいけない。製作者も、閲覧者も、です。
やはり、あれもこれもと言い出したら、有料サーバ+独自ドメインしかありえないのです。にもかかわらず、どうしてもお金を使いたくない製作者がいて、そのコンテンツを読みたい閲覧者がいるとき、閲覧者がお金を出し合えば全ての問題が解決するわけです。なぜか日本では、コンテンツに適切な対価を支払おうとする人が少ない。自分の懐を痛める発想が全然なく、サーバ業者などにばかり無茶な要求を出す人が多い。残念なことです。
上位2.5%以内のサイトがネットの全アクセスの75%を占めています。さらに上位10%以内のサイトのアクセス占有率は93%に達します。下位90%のサイトにとっては、忍者の転送量制限など問題になりません。忍者は、上位1割に属するサイトの利用者が飛びつくべきサービスではない。広告が少なくて無料のサービス、広告なしで非常に安価なサービスは、下位9割のサイト管理者のためのサービスだ、という認識があって然るべきだと思う。
今回、私が一番主張したかったのは、「消費者はわがままでいい、という意見が現在の日本では行き過ぎているのではないか」ということです。