2003年1月頃がひとつの転機だった。3年弱の経過を踏まえて現在の私の立場を簡潔に提示したい。
現状の大半の視覚系ウェブブラウザはデフォルトスタイルの出来が非常に悪く、文書構造をマークアップした文書をそのまま表示するだけでは、大半の閲覧者にとって満足しかねる表示結果となる。そうだから、ユーザスタイルシート、製作者スタイルシート、物理マークアップなどで装飾を行うことに大きな需要がある。(注:きちんと文書をマークアップした上で table で段組したり、font 要素などで装飾を追加することについては、私は一概に否定しない)
私が推奨したい解決策は、ユーザスタイルシートの利用だ。あらゆる文書を自分好みのデザインで閲覧できるようになるからだ。そしてユーザスタイルシートの利用が普及すれば、文書のデザインを製作者が提供するのはお節介となる。製作者スタイルシートも物理マークアップも、ユーザスタイルと競合して問題を起こすことが多い。だから私は、趣味で運営しているこのサイトでは、製作者スタイルシートを提供したくない。物理マークアップはしない。
しかしながら、多くの閲覧者はユーザスタイルシートを利用していない。デザインを提供する製作者が多すぎてユーザスタイルとの競合が激しく、とても使い物にならないから……という説明もあるが、実際のところ、仮に製作者スタイルシートと物理マークアップが全廃されても、大半のユーザは何もしないと思う。
文字サイズにせよ配色にせよ、多くのユーザは許容範囲がかなり広い。絶対にこうでなければいけない、などと考えていない。だから10万人以上が閲覧するサイトでも平気で文字サイズを固定する。特定の文字サイズを押し付けたら、それが嫌な人は困るはずだが、期待閲覧者層の9割超が容認する文字サイズなら、実務上の問題はないわけだ。そして閲覧者は怠惰を好み、また多様性を好む。そのような傾向がある。製作者のお節介が歓迎される所以だ。
私はそのような状況を知りつつも、ささやかな抵抗を行う。CSS は普及しても正しいマークアップはなかなか広まらない。SEO という起爆剤はあったが、全体を変革する力はなかったようだ。そのため、せっかくの CSS も単なる物理マークアップの置き換えになっている。見た目だけが重要という根本に変化がない。結局それでは、9割超が納得すればそれでいい、というレベルでおしまいだ。少数派が救われない。多数派への最適化ではなく、全員がそこそこ幸せになれる社会を私は望む。
製作者スタイルをいかなる形でも提供しないのでは、圧倒的多数派の IE や Firefox のユーザが離れる。読まれもしないのでは説得もできない。さりとて製作者スタイルの提供も避けたい。JavaScript 経由で CSS を呼び出すのは妥協案だが、IE で製作者スタイルを簡単に無効化できる利点もある。Opera や safari ではその JavaScript が動作しないが、私自身 Opera ユーザであり、差別ではない。CSS を提供しないという本来の意図がストレートに現れているに過ぎない。
私の意図は上記の通りだが、これを自己満足と評する主張に反論はない。そのような評価もあるだろう。
ブラウザがたくさんのスタイルを持ち、ユーザが好みのスタイルを選択できるなら、ユーザがスタイルシートを書く必要はない。HTML 文書ではなくブラウザが多くのスタイルを持つ方向で WWW 周辺のビジュアル技術は進化していくべきだったと私は思う。そうすればみな HTML の本質をよく理解して弱者の苦難も起きなかったろう。またサイトやブックマークのフォルダごとに異なるスタイルを適用する機能(私は便利だと思う)なども登場したのではないか。
RSS の普及と、記事を読みやすい RSS リーダの選択という流れは、うまくすれば私の期待を実現してくれそう。RSS で記事全文を配信するのが当たり前になると RSS リーダでブラウザを代替でき、いろいろ期待が持てる。