趣味Web 小説 2011-01-09

人余り社会だから生産性の上昇が悲劇を生む

1.

とても皮肉なことですが、ホテルの従業員は(ホテルに限りませんが)、自分と仲間の報酬と職を減らすために、日々相当な努力を強いられるという構造の元におかれているのです。

日本経済全体のアウトプットが横ばいだから、生産性の向上が悲劇になる。本来なら、これは決して暗い話ではない。ホテルのように「変えられないもの」に売上げが制約される場では、生産性の向上に伴い従業員を減らしていくのは正しい。売上げがほぼ一定なら、1人当たりの給与を増やす方法は他にないだろう。

問題は、日本全体の経済成長が、労働者の生産性向上より大きいか小さいか。成長率の方が大きければ、人手不足になる。生産性の上昇に伴い、各ホテルの従業員を1%削減することになっても、日本全体ではホテルが2%増えていたとしたら? 当然、人手不足なので人材獲得合戦になる。「ダメな人がクビを切られる」のではなく、「(高給などに惹かれて)移りたい人が移る」ことで人員が調整されることになる。

ホテル業界は不況でも、日本全体では力強い経済成長が実現されているという場合、やはりマクロでは人手不足だ。ホテル業界は人余りで給与が下がっても、成長中の業界は人手不足で給与が上がっていく。すると成長中の業界に人が集まり、他の多くの業界が少しずつ人手不足になる。そこにホテル業界から人が移動していく。もちろん、成長中の産業へ直接に飛び込んでいく人もいるだろう。

2.

ちなみに。給料を下げても従業員のアウトプットが同じなら、給料を下げるのが正しい。ホテル業界だって競争があるのだから、自分のところだけ高給を維持しようとしても無理。サービスが全く同一なら、いずれライバルの価格攻勢に負ける。倒産したら全部パーだ。

人余り社会の人員調整はつらい。人手不足社会にしないとダメ。人手が足りないので海外から労働者を……なんて話には、絶対に絶対に賛成しちゃいけない。国内で本当に人手が足りなくて企業が海外に進出するなら、それはいいことだ。

これが「労働力不足の緩和を目的とした海外労働者の受け入れ」を私が容認する条件。「国内で得られない才能が必要なので海外労働者を呼ぶ」ならいい。でも「人手不足による賃金上昇を嫌って海外から人を呼ぶ」のは決して認められない。

例えば、看護師が足りないのは医療水準に比べて医療費が安いから。「インドネシア人の看護師なら現在の待遇でも働いてくれる」なんて理由で受け入れたら、看護師の待遇はずっと固定されたままだ。こういうことを許す社会では、自分の労働環境が改善されることもない。

また、高齢化が深刻な問題となるのは、寿命が延びたのに生涯の就業年数が十分に伸びていないからだ。奈良時代、吉備真備は76歳まで働き80歳で没した。健康が許す限り経済的に自立できる社会を復活できれば、高齢化は問題ではない。海外から人を呼ぶ前に、国内の1000万人に働いていただける社会を実現すべきだ。

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