趣味Web 小説 2011-02-21

大臣権限です!(幼少の思い出4)

やっぱり、子供はかわいいですね。自分たちで選択して産んだのですから、社会がどうのこうの言う気はないです。むしろ、社会とかよくわかりません。総理大臣が誰なのかも知りません。ただ、パン焼くの大変ですね!と声をかけてもらえると、癒されます。

私の両親にも、いろいろ子育ての苦労というのはあったのだろうけれど、私には母が一人で苦労している姿というのがあまり思い浮かばない。母は、いつも私たちを頼ってくれた。「お味噌汁を作ってちょうだい」「買い物に行っている間に洗濯をしておいてちょうだい」「晴れた日曜日には、全員分の布団を干してね。今日から、お兄ちゃんを布団干し大臣に任命します! 責任を持ってやりなさい」

布団干し大臣は最高に楽しかった。「大臣権限です!」といって父から布団を取り上げるほど痛快なことはない。父は往生際悪く毛布などを持ってくるので、今度は掃除機大臣の弟がブワーンと大音量をあげて掃除攻撃をする。ただし、父が本当に疲れているときは、「今日は静かに寝かせてあげてね」と母がいうので、私たちはがっかりしたものだ。

母が「たいへん」になると、子どもたちはどんどん大臣に任命されるのが常だった。お母さんの「たいへん」は自分たちの「たいへん」だった。また、母は身体が弱く、よく寝込んでいたから、「自分たちがちゃんとしなきゃ、お母さんが安心して寝ていられない」という思いもあった。ふと気付くと、「たいへん」だったはずの母がくつろいで新聞を読んでいたりしたのだけれど、家族には「母がのんびりしているのはよいことだ」というコンセンサスがあったと思う。

「お母さんっていうのは毎日が日曜日でいいなあ」と私は考えていたけれど、今にして思えば、子どもにそう思わせるようにするのが、どれほどすごいことだったか。

母は「子育ては楽しいばっかりですよ」とニコニコしていたので、友だちのお母さんが「私はお前のために毎日こんなに苦労しているのに、お前はどうして私のこんな簡単ないいつけも守れないのだ」みたいな話を延々と続けるのに私は衝撃を受けた。ご飯とおかずをバランスよく食べろとか、その程度のことでいちいち親の苦労が云々といいだすのだから、「へぇ、よそのお母さんというのは、こうなのか、たまらないなぁ……」と。それでも、よそのお母さんの悪口をいうと友だちは「絶交だ!」というので、もう黙っているしかない。思ったことをいえないのはつらいことだ。私は友だちのお母さんに会うのがすっかり嫌になり、友だちとは必ず外で遊ぶようになった。

それはさておき、私の両親にとって「パン焼くの大変ですね!」に対応する言葉はどんなものだったろう? ここ数日、ずっと考えていたのだが、答えは見つからなかった。

とりとめのない話になったが、ひとまずここまで。

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