趣味Web 小説 2011-12-03

上を見るより下を見るべき:医療格差問題

1.

医療に関する情報の非対称性の問題か……。患者には保険適用外の診療のよしあしがわからないので、医師の勧めるままに無駄な治療がたくさん行われるようになるだろう、という。代替医療問題を注視してきたNATROMさんらしい切り口だと思う。

ならば、保険診療の水準を現状維持で固定すると決めて、「従来なら保険診療の対象となった治療法に限って順次混合診療の対象としていく」のはどうか。効能不明の治療法は混合診療を認めないわけ。

2.

経済成長が滞っている以上、医療だけ際限なく水準の向上を目指すとすれば、増税や保険料の増額によって、総支出に占める医療関連支出の割合を上げていくしかない。だが、日々の生活も重要であって、どこかで限界を迎えることになる。当たり前の話だ。

医療の世界では収穫逓減の傾向が明らかだ。この20年ほど、平均寿命は頭打ちに近いのに、医療費の伸びは止まらない。ほんの少し寿命を延ばすためだけに、どれだけの医療費を注ぎ込んできたことか。そろそろ、発想の転換が必要だ。

高齢化への対応だけでも、保険料の年々の上昇は十分にキツい。保険料が上がれば、ますます保険から排除される人々が増える。免除制度の周知徹底など不可能だし、仮に周知できたとしても、免除対象外の、しかし貧しい人々が、保険から排除され続ける。「いや、免除対象外の人が、私的な浪費を我慢できず、健康保険に加入しないのは、さすがに自業自得でしょ」という声もあろうが、それは恵まれた人々の驕りだと私は思う。

端的にいえば、我慢が足りないのも、軽度の先天的障害とみなすべき。「我慢が足りないのは本人の問題」と斬り捨てて、もっとも過酷な扱いをするのは公正でない。ときどき心を入れ替えてまじめになる人がいるから、「やる気の問題」と片付けられがちだが、例外を一般化しないでほしい。

医療水準の向上より、保険加入率の維持の方が大切だ。保険料を上げないことを重視して、今後しばらく「医療費が下がる」治療法以外は保険診療に加えるのをやめたらどうか。

また、保険料方式では「経済的弱者(の一部)が排除される」問題の抜本的な解決は不可能だ。もし可能なら「健康保険の基礎部分は全額税方式とし、その分の保険料相当額を増税する」のがよいと思っている。

3.

国内の医療格差に敏感な人は、どうして日本人と発展途上国の人々との医療格差を問題視しないのか。命が平等だというなら、上を見るより下を見ろ。自らの富と命を対価に、より多くの命を救ったらどうか。自分が1年寿命を延ばすお金で、大勢の命を総計何百年も延ばせる可能性がある。

私はそういう風に思うから、「金持ちは助かる(可能性がある治療を受けられる)のに自分には選択肢がないのは許せない!」と声を上げる気にはなれない。かつて私は母の胎内で微動だにせずスクスク育ち、予定日を過ぎても生まれる気配が全くなかった。陣痛促進剤を何本も打たれても、無視して眠り続けた。放置すれば母のお腹は破裂し、母子ともに死んでしまう危険があったので、私は現代医学の力で生まれてきた。それから30年余り経った世界では、私と似た子らが、毎日たくさん死んでいる。

「命の平等」を謳うなら、私の命が金持ちとの比較で少し短くなることより、死にゆく子らを助けられずにいる自分のふがいなさ(例えば、収入の9割を、自分の快適で楽しい生活と、将来不安の軽減のためだけに投じてしまい、寄付に回すのが1割足らずであること)こそ問題視すべきだ。本気で人の命の不平等を是正する気がないのは、自分自身に他ならない。

話の範囲を国内に絞っても、医療格差を批判するのに「命は平等」なんてお題目を掲げるのであれば、まず目を向けるべきは無保険の人々だと思う。

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