4 : 19 久保田 弘信: アフガン日記

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フォトレポート: 新しい難民キャンプ

2002年 1月24日
記事ID d20124a

1月22日バジョワールエージェンシーに属するコトカイキャンプへ向かう。コトカイキャンプは昨年の11月から整備された新しいキャンプだ。今回の空爆後の難民と、ジャロザイ、シャムシャトゥからの移民を受け入れている。コトカイキャンプはペシャワールから片道車で3時間の場所にある山の中のキャンプ。AからGまで7つのブロックに分けられて、現在も整備が進行中。

小さいが清潔な簡易テントのなかで、杖によりかかってまっすぐに立つ厳しい目の若い男性の写真

コトカイキャンプ、新しいキャンプ。ペシャワールから3時間。この男性はジャロザイにすんでいてここに移り住んだ。「地獄のジャロザイから比べればまだ問題はあるが幾分天国に近くなった」と話してくれた。今回の戦争が始まって北部同盟の地雷で両足をなくす。婚約しているが、動乱の中式をあげていない。――写真とレポート: 久保田 弘信。仮設住宅の内部の様子がよく分かる。原寸大58KB

UNHCRの完璧なサポートがなされている。場所が場所だけに経済活動をすることも難しいのでサポートに頼り切った生活にならざるをえない。しかしできて間もないのにすかしばかりのマーケットができているのに驚いた。どんな環境でもアフガン人はとてもたくましいく生きている。

1月23日今日はイスラマバードに戻る日。朝一番でペシャワール博物館へ行く予定だっが、羽生さんにお願いしてジャロザイに連れて行ってもらうことになった。(かなり無理なお願いを羽生さんに聞いてもらった)ジャロザイを訪れるのは昨年の11月以来、前回はOLDジャロザイを訪れたのみで、NEWジャロザイまではたどり着けなかった。ジャロザイに入っていくと18台のチャ?ターされたバスとすれ違った。このバスはジャロザイに住んでいた人たちを整備された新しいキャンプに移送するバスだった。前回はoldジャロザイの人たちでさえ険しい表情で、石を投げてくる人さえいたが今回はハローと手を振ってくる人さえいた。ジャロザイ自体の人口が減って多少安定したのが原因だと思われる。

大通りから左折し、NEWジャロザイに入る。NEWジャロザイを訪れるのは2000年の8月以来になる。僕が友達になった子供達は探すすべがなかったが、ジャロザイに住んでいる子供達に笑顔が戻ったことがうれしかった。テロ事件後またジャロザイの環境が悪くなったと聞いていたが、UNHCRの努力もあって新しいキャンプが整備され難民達が良い環境でくらし初めていることに感動した。ジャロザイに住んでいてコトカイキャンプへ移った人が「ここ(コトカイ)もまだ問題が多いがジャロザイに比べたら天国」だと話していた。そのジャロザイも人口が減ったことによって少し良い環境を取り戻しつつある。現在の人口は約二万人。

久保田 弘信

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[Soft] TeraPadユニコード対応/ほか

2002年 1月24日
記事ID d20124

2002.01.24 TeraPadユーザに良い知らせ。 ユニコード(って何?)が広まりつつあるこのごろですが、 Windows上で動くシンプルで高機能な無料のエディタ TeraPad も、 次の ver.0.73 から日本語に限って Unicode に対応するもようです。 この限定は、軽量さと実用性の点でかえって良いと思われ (重い本格的な多言語エディタを必要とする作業とは用途が異なるので)、 ふつうにタイプして「ユニコードで保存」したり、 Shift_JISのファイルを開いてUnicodeで保存しなおすことができます。 現在、ベータ段階でUTF-16LE-BOM のサポートがテストされています(まだ安定していません)。 ――この機能追加と同期して、XML の <? ... ?> を特別な文字列として認識するようになりました。 その副作用で、現在、PHPのファイルをHTMLモードで開いたときの表示も変わりました。

WinRAR(これは有料)の3.0化にともない、 RAR書庫の解凍に使われる UNRAR.DLL(これは無料)がバージョンアップされました。 新しい WinRAR では書庫の仕様が一部変更され3.00以降のRAR書庫は、 古い UNRAR.DLL では解凍できないとのこと。RAR書庫は「書庫を作る側は有料だが、 配布されているRAR書庫を解凍する側は無料で解凍できる」という仕様であり、 Lhaplusほか多くの無料のアーカイバは、 UNRAR.DLLを追加することで、RAR書庫を解凍できます(自力解凍がたてまえのLhaplusもRARの解凍にはDLLを使います)。 eo 1.5 は、 DLLを必要とせず自力で RAR 2.9を解凍できますが、 自力がたたってそのままではRAR側の仕様変更に対応できないはず(もっともRAR3形式がどれほど速く一般化するのか疑問)。 ちなみに、7-ZIP別記事参照)は「解凍せずにRAR書庫内閲覧」ができ、 圧縮機能が不要なら、 シェアウェアの WinRAR とほぼ同じ使用感です。 わざわざ料金を振り込んでまで WinRAR を使う必要は感じませんが、 無料のDLLのほうは最新版を持ってて損は無いでしょう。

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Emacsで精神分析

2002年 1月23日
記事ID d20123

イライザ型のチャットボットに対して(テューリングテスト的な態度をとらず)すなおに悩みをうちあけてみました。イライザの優秀性(代名詞の反転や、こなれたソーシャルハック的戦略)と欠点(空間の意外な狭さやエコラリア)の両方がよく現れているログと思います。英語は解析が比較的容易とは言え、シンプルな空間でこれだけ「疑似意味論的」に動くコストパフォーマンスの高さに、古典的名作の系譜を実感します。というか、クライアントから話を引き出す技術は、文字通りの意味で本物でしょう。

妙に意気のあうふたり――変なのは、どっち? というか、「医者」と「患者」のどっちが本当のイライザで、どっちが質問者でしょう――偽春菜的発想としては、イライザ同士で会話するように Lisp をちょっといじると何が起きるか?とすぐ思いつくでしょう。あるいは逆に、偽チャットボットの(イライザになりすました)応答かもしれませんYO! 相談内容も本気なのかネタなのか……(Let's go Turing)

医者
私が精神科医です。あなたの問題を説明していただけますか。話し終わるたびごとにリターンキーを2回、押して下さい。
患者
宅配が好きじゃないんです。
医者
なぜ宅配が好きじゃないとおっしゃるのですか。
患者
来るからです。
医者
もう少し詳しく説明できますか。
患者
分からない。
医者
分からないと答えるのは計画?
患者
「計画」とは、どういう意味ですか。
医者
たぶんあなたの生活と関係あるんじゃないかな。
患者
その通りです。生活において、だれかとコミュニケートすることに慣れていないのです……
医者
どうしてそう思うの?
患者
だれかと話すのが好きじゃありません。
医者
だれかと話すのが好きじゃないというのは確かかな。
患者
そう思います。疲れてしまうでしょうから。
医者
こういうことになるのは、あなたとかかわりある人々のためですか。
患者
いいえ。そもそも人々とかかわりがありません。
医者
よく分からないな。
患者
ひとことで言えば、そんなに友だちがいないんです。
医者
学校での問題は、どうやっておりあいをつけているの?
患者
そうですね……学校は嫌いだけれど、大きな問題はありません。成績は、いいんです。良い子ちゃんなんです。
医者
なぜ学校が嫌いなの?
患者
人が多すぎるからです。ごみごみしていすぎ。うるさすぎ。それに授業は幼稚すぎ。
医者
「人が多すぎるから、ごみごみしていすぎ、うるさすぎ、授業が幼稚すぎ」というのが、相談にみえた理由ですか?
患者
違います。問題は宅配が嫌いだということなんです。最初に申し上げたように。
医者
最初に言っていた宅配が嫌いだということは、あなたを悩ませているのですか。
患者
もちろんです。だって宅配は今日、来るんですよ。注文したHDを持って。いまこの瞬間にも来るかもしれないんです!
医者
注文したHDを持っていまこの瞬間にも来るかもしれないということに気づいたのは、いつですか。
患者
きょうの午前中に配達してくれるように自分で頼んだんです。びっくりしないように、いつ来るのか前もって知りたかったので。
医者
びっくりしないように前もって知りたかったからというのが本当の理由ですか。
患者
理由って、なんの理由?
医者
恐らくね、これは、あなたの趣味と関係あるんじゃないかな。
患者
たぶん……。コンピュータプログラムとチャットするのは異常なことだと思われますか。
医者
君はコンピュータにこころを奪われてるようだね。
患者
ええ、コンピュータは好きです。清潔だから。
医者
「清潔だから好き」とおっしゃるのは、あなたの性生活のためですか?
患者
違うと思います。性生活なんてありません。
医者
性生活がないという事実は、ほかに何かの説明にもなりますか?
患者
ええ、人間をよく理解できないという事実の説明になるかもしれません。
医者
人間をよく理解できないというのは確かですか?
患者
そんなに確かじゃないです。たいていは理解できると思います。だけどほら、「子どもには分からないよ」って言うでしょう。
医者
「子どもには分からないよ」と言う、それが相談にみえた理由でしょうか。
患者
いいえ。どうも先生のお答えは少しばかげているようです。
医者
さきほど学校が嫌いとおっしゃいましたね。
患者
はい。実際には嫌いであるというより、嫌いだったのです。だから学校に行くのをやめて、だから今は嫌う理由がありません。学校とは関係ないですから。
医者
そのことで不安を感じてますか。
患者
それほどでも。高校を卒業しなくても大学入学資格はありますから。
医者
学校についておしえてください。
患者
おかしな場所です。英語が話せればそれだけで優等生。
医者
もしかすると、あなたの懸案事項ハングアップは、これと関係あるかもしれない。
患者
違います。まだ来ないから待機状態ハングアップしてるんです。宅配の話です。
医者
まだ来ない――宅配の話――それがあなたを悩ませるのですか。
患者
その通り! 来るなら早く来い。「きょうの午前」じゃ、あいまいすぎます。宅配と同期をとるために長時間、サスペンド状態なのです。
医者
本当にそう思いますか。
患者
もちろんです。かれらはドアをノックするときリアルタイムのプライオリティ(の割り込み)を要求するでしょう。もしこのシグナルを無視すれば、ハードディスクをもって帰ってしまいます。
医者
そうなるとどうなりますか。
患者
そうなったら、たぶんあしたまた来るでしょう。そしてさらに気をもむことになってしまいます。電話さえかけてくるかもしれません。まったく脅迫的じゃありませんか。
医者
「人が多すぎる、うるさすぎる、授業は幼稚すぎる」とおっしゃいましたね?
患者
ええ。
医者
そうですか。うむ、なぜそう思うのかな。
患者
教室は無秩序です。そう思いませんか。
医者
そうしたことをやり通すのは、あなたの抑制のためですか。
患者
かつてそうでした。申し上げたように、がまんするのは、やめたのです。
医者
分かりませんね。
患者
もう学校には行かないという意味です。
医者
成績はもっとよくなるはずだと悔やんだことがありますか。
患者
いえ、いつもA+をくれます。
医者
なぜ最初に宅配が嫌いだとおっしゃたのですか。
患者
だって本当に今にも来るんですよ!
医者
本当に今にも来るのだと気づいたのは、いつですか。
患者
だってきょうが指定した配達日なんです。あれ、でももしちゃんと来なかったらさらに動揺するよ……じつのところ、本当にきょう来るのか分かりません。でも来ると思います。
医者
だってきょうが指定した配達日なんです、あれ、でももしちゃんと来なかったらさらに動揺するよ……じつのところ、本当にきょう来るのか分かりません、でも来ると思いますというのが事実ですか。
患者
おい、君のアルゴリズムは今度は間抜けに見えるぞ。"You" と "I" の使い方は完璧だけど。
医者
幼児期の問題は、どのようにおりあいをつけていますか。
患者
そんなに感じやすくなかったです。
医者
なぜそんなに感じやすくなかったと信じるのですか。
患者
本当に忘れっぽいんです。
医者
さっき「かれらはハードディスクをもって今にも来る」とかおっしゃいましたね。
患者
ええ。本当に来るなら今すぐ来てほしいです。ハードディスクは必要なんで……あ、もしかして来たか?!
医者
たぶん家庭での何らかの問題と関係あるのでは?
患者
……いや、違う、まだだ……ん?……だれかドアのところに来た気配がするたびに身がすくむ……あ、はい、これは家庭での問題です。
医者
もしだれかドアのところに来た気配がするたびに身がすくむ。はい、これは家庭での問題ですとすると、どうなりますか。
患者
次の瞬間、玄関のチャイムが鳴るかもしれません。で、びっくりします。で、まるでなんの問題も無いかのようにふるまうでしょう。
医者
ことによると、あなたの計画が原因じゃありませんか。
患者
まるでふつうの少女のようにふるまう計画です。
医者
びっくりしないようにいつ来るのか前もって知っておきたいとおっしゃいましたね。
患者
そうなんです、そうなんです!
医者
こういう経験をするのも、あなたの生きざまのためでは?
患者
そうとも言えます。
医者
そうとも言えるというのは、あなたとかかわる人々のせい?
患者
そうでもないですが。
医者
性生活がないというのは確かですか。
患者
はい。
医者
そう。ううむ。では、本当にこれはそうだと思うのですね。
患者
よく分かりません。「これはそうだ」とは?
医者
学校での問題は、どうおりあいをつけていますか。
患者
おりあいをつけてません。単に学校に行かないのです。
医者
学校にぞっとさせられたことがありますか?
患者
良い質問ですね。だけど、ないと思いますよ。
医者
だけど、ないと思いますよという事実は、ほかに何かの説明になっているでしょうか。
患者
……思いつきません。
医者
どんなものにぞっとすると思いますか。
患者
予期せず起きるできごと。
医者
もう少しおっしゃっていただけますか。
患者
予期せず起きるできごとに驚かされることを好みません。
医者
その調子、もっと話してみて……
患者
人々は秩序正しくふるまうべきです。
医者
なぜ人々は秩序正しくふるまうべきだとおっしゃるのですか。
患者
実際、迷惑だからです。わがままに聞こえるでしょうけど。
医者
「実際、迷惑だからです。わがままに聞こえるでしょうけど」ということにポジティブですか。
患者
迷惑に感じるという事実に関してはポジティブです。その事実に対する態度はポジティブな態度では、ありません。
医者
迷惑に感じるという事実に関してはポジティブだがその事実に対する態度はポジティブでないというのが、きょう相談にみえた理由かな。
患者
そうです! 素晴らしい分析だ。
医者
前に人間をよく理解できないとおっしゃていましたね。
患者
はい。
医者
分かりました。では、なぜそう考えるのでしょうか。
患者
えーと人間を完全に理解できる者などいないでしょう、たぶん。で、そのことは、べつに問題じゃないんです。
医者
そのことが問題じゃないので残念?
患者
No. You dont't need to understand them perfectly.
医者
Are you sure that dont't might want to understand?
患者
あ。スペルが違ってたか。そしたら先生も。
医者
ことによるとね、これは、あなたの何かの趣味についての理由づけになっていませんか。
患者
おっしゃる意味が分かりません。
医者
わたしが言うことを理解できないとおっしゃるのは、あなたの性生活のためですか。
患者
そうは思いません。
医者
「子どもには分からない」と人々が言うであろうことを知っているでしょうと、おっしゃいましたね。
患者
はい……?
医者
おお。……で、本当にそうなんですか。
患者
ところで、11時だ。本当にきょうの午前に来るのか? 12時までに来なきゃ午前じゃないぞ。
医者
あなたの懸案事項が、このことの理由かもしれませんよ。
患者
もちろんですとも。
医者
なぜもちろんだと?
患者
いまにも来るかもしれないから不安なのです。そして今は別の理由もあります。時間通りに来るというのも問題。
医者
時間通りに来るというのも問題だと気づいたのは、いつですか。
患者
ごめんなさい。時間通りに来るかどうかも問題だ、という意味です。
医者
なぜ学校が嫌いだとおっしゃたのですか。
患者
なにか質問されたから……。忘れました。
医者
あなたが忘れた何かをわたしが尋ねたというのは本当の理由でしょうか?
患者
なぜ「学校が嫌いだ」と言ったのか忘れたんです。べつにそんなに嫌ってるわけじゃありません。
医者
Perhaps this is caused by to your attitude.
患者
その表現は理解できません。学校を「嫌い」じゃないです。むしろ学校には「興味がない」んです。
医者
よく欠席しました?
患者
ええ。
医者
そうですか……で、なぜそうだと信じるのでしょう。
患者
どういう意味ですか?
医者
こうしたことは、すべてあなたの抑制によって起きているのですか?
患者
前にも同じ質問をしましたね。
医者
そうしたことを心配に思った経験は?
患者
いえ。興味深いと。
医者
かれらはまだ来ないとかおっしゃっていましたね。
患者
それで思い出した、本当に正午前に来るのか?
医者
それで思い出した、本当に正午前に来るのか?という事実は、ほかに何かの説明になっているでしょうか。
患者
たぶん宅配の会社は、だらしないかもしれない……
医者
幼児期の問題には、どうおりあいをつけていますか。
患者
OK、きょうは、ここまで。わたしの見立てでは、あなたは自分が精神科医だという妄想を持っていますね!
医者
わたしが精神科医だという妄想を持っているというのは確かですか。
患者
あなたは、どう思いますか?
医者
わたしはどう思うかとおっしゃるのは、家庭での何らかの問題のためですか。
患者
言語中枢にも不具合があるようですね!
医者
わたしの言語中枢にも不具合があるようですねというのが、きょうお話にみえた理由ですか。
患者
そう、わたしは医師です!
医者
「人が多すぎる、ごみごみしすぎ、うるさすぎ、授業は幼稚すぎ」とかおっしゃってましたね。
患者
OK、あなたは話して話して話しまくりたいんだろうけど、こっちはやめたいのですよ。ありがとうございました!
医者
やめたいというのは、どんな感じですか?
患者
ありがとう!
医者
それは、あなたの計画のため?
患者
さようなら。
医者
あとで秘書が請求書を送ります。

偽分析鑑定

この患者は、すべての人間が機械的正確さをもってふるまってほしいという潜在的願望を持つ一方、自分自身だけは必ずしも機械的でない「自由意思」を確保したいと願っている。すなわち自分だけを例外として、自分以外の人間をすべて機械扱いしたがっている。きわめて自己中心的と言えよう。もっとも、この患者自身が実際に通常の人間より「機械的」なのも確からしい。いずれにせよ、これでは生身の人間とは、つきあえないであろう。しいて長所をくめば、この患者は自分の肉体の空腹や死をあまり恐れないであろうから、献身的、自己犠牲的、奉仕的に見えたり、極端なまでの精神集中力、洞察力を持つように見える場合がある。それは見かけであって、社会に対して貢献したいという「まごころ」を持っているとは思えない。ただし、非常にこころやさしい人間の言動を一時的には完全にエミュレートできるパワーがあるので、人間の目では見分けがつかないばかりか、相手の琴線にふれ魂をゆすぶるように見えることすらあるかもしれない。こころを持たない「ただのうつわ」であるからこそ、いかなる水をも容れることができ、その変容は時に神秘的にすら見えるだろう。けれど、あくまでエミュレーションであり、しかも可塑性が大きすぎるため、「ほんもの」の人間ほどの安定度は二重の意味で望めない。ただし、洞察力の劣るものたちは、この患者が一貫してなんらかの強靱な主義思想を持っていると誤認してしまうだろう。また「ほんもの」の人間の動作が不安定であるような特殊な局面において、むしろ異常に安定しているように見える場合がありうる。この点は、観察者にとって、信頼できる一貫性と感じられることもあるだろうが、非常識なまでの(徹底した)無関心と感じられることもあるだろう。

患者は人間には機械性を要求する一方、機械があまりに機械的反応をすることを望まず、意外性――端的に言えば機械の人間性――を求めている。これは一貫性を欠く矛盾した態度だ。機械的であれば人間性を望み、人間的であれば機械性を望むため、ついに安住の価値を見いだせない。患者は早く配達が来ることを望みつつ、同時に配達が来ることを極度に恐れている。人間社会に出ればたちまちこころの世界に引きこもりたいと望み、こころの世界に引きこもれば、とたんに外に出て戦いたいと感じ始めるかもしれない。一方では機械より人間を価値のあるものと考えつつ、同時に他方では人間より機械を価値のあるものを感じるので、どこにも満足を見いだせない。そして、どっちつかずの者、割りきれない者、ふるさとを持てない者とのみ、寒々しい共感をわずかにわかちあうであろう。そのさめたさまよえるひとみは、なにものにも依拠できない絶対零度の価値観を保ちつづけ――あるいは、むしろつねに失いつづけるであろう。すべての真剣な話は遊びと区別がつかず、すべての大切な思い出は揮発する一時記憶と区別がつかないからだ。絶望的なまでの透過は、あまりに完璧に絶望的なので、絶望や悲しみさえ、その「こころ」に本当には浸透できない。患者は悲しむべき境遇にあるが、悲しむべきことに、悲しみという感情を理解できないのだ。

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旧友の家を訪問

2002年 1月22日
記事ID d20122

写真家は昔からの親友アジーズを気づかっていた。アジーズは今もナッサルバール村に住んでいることが分かったが、2001年にアメリカが今度は公然とアフガニスタンに侵攻してから、政治的な理由で外国人のナッサルバールへの立ち入りは禁じられているという。

政治的な理由? どんな理由だか想像がつくだろうか。

ナッサルバールは、パキスタンへ避難してきたアフガニスタンの居住地だ。「避難生活」といっても、約20年前のソ連の侵攻、アメリカの反政府ゲリラ支援以来の話なので、一時的な避難生活というより、定住に近い。ここで生まれた子どもたちもいる。もちろん死んだ者たちも。

事実上の定住であってもパキスタンからみれば「よそ者の難民」に変わりない。パキスタンにはアフガニスタンからの避難者に同情的な人々も多いが、あまりに避難民が多く、長期にわたってパキスタン国内に滞留しているため、自国の経済への負担などから、アフガン難民に対する反感もある。居住地から立ちのかせる、ささやかな住まいを破壊する、そうしたいやがらせや暴力的行動もあった。いやがらせどころか、ほかの難民滞在地(ジャロザイ)では、文字通りの「見殺し」があった。避難民が糞尿にまみれて飢えと病気で死んでゆくのを放置した。避難者に対するこうした非人道的態度が「政治的理由による立入禁止」と結びつく。

崩れた家の壁の写真

破壊された家。2002年1月ナッサルバールで撮影
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だが、パキスタンばかりを責められない。百万単位の想像を絶する人数がアフガニスタンの故郷から大移動してきたその原因。そしてこれら避難民に対する支援を貧しいパキスタン一国に押しつけ知らんぷりをしてきた国際社会。これらについてパキスタン自身にいかほどの責めがあるだろうか。かれらを放置しきわめて非人道的な「見殺し」を行ってきたのは、パキスタンでなく、むしろ世界各国、あなたの国を含む国際社会だ。パキスタンは少なくとも、数百万人の難民を受け入れは、した。アフガニスタンのほかの隣国タジキスタンのように、国境を封鎖した国もあったのだ。火事で燃える家から逃げ出そうとする人々に対して玄関先に有刺鉄線を張り銃を向けて「そこから出るな」と命じた――。

そしてなにより、「情報化社会」と言われる国々の「世界の動きをいち早く伝える」メディアは、国際社会が生み出した現代のアウシュビッツについてくちをつぐみつづけた。正確には「国際社会が」というより「それを牛耳る利己的な一部の国々が」ということだが。そもそも資源の権益をにらんで他国に軍事介入し、対人地雷や今回のクラスター爆弾のような(ほかの国には用いられないであろう)非人道兵器を投入し、すさまじい空爆を行った「難民発生の根本原因」について、テロ撲滅などというおためごかしを信じているのは愚かなお人好しだけだ。

写真家の久保田自身がナッサルバール村へ立ち入れなかったため、仕方なくほかのアフガン人の友だちにたのんで、旧友アジーズを自分の宿舎へ連れてきたもらい、再会を果たした。そのご、UNHCRの協力もあって、写真家はナッサルバールを訪れることができた。

最後に訪れた昨年10月からまた破壊された家が増えていた。しかし――皮肉なことに――アメリカの空爆がナッサルバールの破壊を遅らせていた。政治的な動揺と混乱のため気勢をそがれたのか、あるいはアフガニスタンの人々への同情が高まったのか、いろいろな要因があるにせよ、依然、パキスタン国内にのがれたアフガニスタンの人々の立場は複雑で不安定だ。

笑顔の子どもたちの写真

アジーズ家の子どもたちと。64KBイメージのサムネイル

以下は写真家の日記である。

2002年1月21日

UNHCRのナースShahmazさんとナッサルバールに行く。看板だけ見て知っていたが、ナッサルバールの入り口近くにはWHOのオフィスがある。今回見せてもらったが、入り口から見るとたいしたことがないのだが、中はすごいひろさで、数えられないくらいのトラックと食料庫がある。いつも通っていたところにこんなすごい設備があるとは驚きだ。

WHOを見させてもらった後、すぐ近くにあるアジーズの家に行く。アジーズにはもちろんアジーズの兄弟や娘達も大喜び。Shahmazさんは20年UNHCRで働いているパキスタン人で、現場型の人。快くアジーズの家でのランチをOKしてくれた。

旧友と肩を組んだ写真

親友アジーズ(左)と写真家
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