趣味Web 小説 2005-08-10

なぜ、郵政公社を民営化するべきなのか?

0.

なぜ、郵政公社を民営化するべきなのか? 素人有権者の一人として考えた内容をまとめました。(改訂:2005-09-02)

1.

最初に断っておきますが、9月11日の衆議院議員選挙は、過去の選挙と同様、基本的にはどう転んでもいい選挙です。小泉総理会見(2005-08-08)を素直に読めば、現時点で郵政公社を民営化することに賛成なら自民党支持、反対なら民主党支持となります。しかし実際には民主党も、政権政党となった途端に自衛隊を認めた旧社会党のように、政権をとれば民主党なりの郵政民営化法案を国会に提出するはずです。

クリントン政権とブッシュ政権とで路線変更は多々あるものの、アメリカ合衆国は相変わらずアメリカ合衆国であり続けます。根本的な変化が選挙でもたらされる状況にはない。革新派のミッテランさんから保守派のシラクさんへ大統領が変わってもフランスはフランスでした。保守党のメージャーさんから労働党のブレアさんへ首相が交代してもイギリスはイギリスでした。そして保守派の金泳三さんから革新派の金大中さんへ大統領が変わっても、韓国はやっぱり韓国でした。日本も同じです。

民主党には構造改革推進派議員が大勢います。党内に旧自民党以上の路線対立があって党の意見を集約できず、先の国会では対案を出せないまま「とりあえず自民党案には反対」となりました。政権を担えば決断は不可避です。社民党系議員が少数派となっている状況から考えて、民主党政権も郵政民営化法案を出すのは間違いありません。(参考:民主党の郵政改革案、私はこう読む

選挙の結果に関わらず、郵政公社は民営化される運命にあります。消費税の導入と税率アップ、小選挙区制の導入による二大政党の誕生、中央省庁再編と地方公共団体の再編そして地方分権の流れ、公共事業中心から金融政策中心へ移行した景気対策……こうした政治状況は、いくつ内閣が倒れても、政権党が入れ替わっても、途切れることなく漸進してきました。郵政民営化も、そうした政治課題のひとつです。

つまり今回の選挙で重要なことは、自民党か民主党かではなく、国民が構造改革を支持するか否かなのです。国民の支持を得て郵政が民営化されるのか、国民の意思に反して郵政が民営化されるのか。この分かれ道は、その先の大改革の成否に直結しています。以下、長丁場ですがよろしくお付き合いください。

2.

日本の国家財政の状況は財務省の様々な資料に記されています。平成17年度予算から一般会計を見ますと、44兆円の税収に対して歳出は82兆円となっています。18兆円国債を償還し、34兆円の国債を発行します。

長らくこんな感じで借金が増えていますから、日本の財政は、私が生きている間に破綻します。(日本の財政を考える『日本の借金』時計

なぜ、こんなことになったのか。

それは国民が、払った税金以上のサービスを国家に求めてきたからです。具体的には、有権者の希望を素直に聞いてくれる議員を国会に送り込んできたからです。

その結果、危機に瀕したこの国を救う処方箋は、ひとつしかありません。簡単に書きます。

どちらか片方だけ採用するのは、現実的ではありません。

税収を倍増すると、どうなるか。仮に消費税率の上昇で補うことにしましょう。現在、消費税は歳入の12%を占めています。公債収入は42%です。合計54%を消費税で賄うには単純計算で税率を22.5%とする必要があります。

支出を半分に減らすと、どうなるか。国債を償還できなければ、それは破産を意味します。そこで18兆円は予約済。残りは23兆円。国家財政の危機ということで地方交付税交付金も半分を国債償還に当てたとして、8兆円の支出。残りは15兆円。公共事業は全部やめましょう。自衛隊も解散する。65歳になったら死んでもらう。これでようやく帳尻が合います。めでたし、めでたし。

というわけですから、大増税とサービス低下を同時に進めねばなりません。(補注

3.

議員さんたちはもちろん、これではいけないということは、わかっていました。

27年前の1978年、大平内閣は早期の消費税導入による財政強化を図りましたが、総選挙に大敗し撤回を余儀なくされました。

1986年、第3時中曽根内閣は売上税構想を練ったものの、またも世論の批判に屈しました。

1988年、竹下内閣は消費税法を強行採決により成立。内閣支持率が10%未満まで低下し、死に体となりました。翌1989年4月の消費税導入を見届け、6月にリクルート事件を契機として退陣。同年の第15回参議院議員通常選挙で自民党は記録的大敗を喫します。(以降、崩壊した自民党支持層に代わって無党派層が国民の最大勢力に)

1994年、久々の非自民党政権となった細川内閣は税率7%の国民福祉税構想を発表。世論の集中砲火を浴びて構想は頓挫し、政権も失います。

1997年、橋本内閣は消費税率を5%に上げます。景気に配慮し所得減税や法人税減税を同時に行いましたが、翌1998年の第18回参議院議員通常選挙で自民党は再び記録的な大敗を喫します。

ようするに、国民はいつだって馬鹿で身勝手でした。国民の脅迫は常に本気だったから、もうこれ以上引き伸ばせないというギリギリの段階でようやく議員さんらは決断し、増税してきました。そのたびに国民はブチ切れ、増税を決定した政治家を次々と地獄の釜に放り込んできたのです。これが成熟社会に突入して以降30年間の政治状況です。

ちなみに二大政党制とは、減税ばかり目指す夢見がちな政党を弱体化し、現実的な政策を掲げる政党だけで議会を牛耳ることで衆愚政治と決別するための手段なのでした。

4.

今後、行政サービスはどんどんレベルダウンしていきます。そうしなければ、高齢化社会の進展による社会保障費の増大に対応できないからです。従来と同等の税制と弱者保護体制では、国家財政が破綻します。かといって誰も見捨てられない。だから、みんなで痛みを分かち合うしかない。それが日本の未来です。

なぜ、郵政民営化か。

民営化すればいいことがたくさんある、なんてのは嘘です。ユニバーサルサービス実現のために、郵政公社は無理に無理を重ねながらギリギリ黒字を保っています。民営化後は政府の保証が消えるので、経営の安定化が図られます。例えば田舎の郵便局は、「コンビニエンスストアなんだけど、郵便局もやっています」あるいは「ポストと無人機のみ」といった簡素な形態となっていくでしょう。

このように、郵政事業が日々赤字を生んでいる地域において、サービスは最低限のものへ切り詰められていきます。特定郵便局から簡易郵便局への置き換えも進むはずです。そうして郵政会社は NTT のような優良企業となり、毎年多額の法人税を納めるようになるのです。さらに将来的には、株式の公開により政府は数十兆円規模の売却益を得、国債の償還に当てることができます。

郵政民営化は、国民生活に影響が非常に少ない改革です。民営化後も、最低限のサービスは何とか維持できる算段があるのです。国費の投入も必要ないどころか、数十年間納められてこなかった法人税を、株式公開により一挙に回収することもできます。

国民には何の利益もないって? それは大きな勘違いです。国の借金は、国民の借金です。株式公開により数十兆円の収入が生じるのなら、それは未来の国民負担がそれだけ減ったことを意味します。焼け石に水ではあっても、数十兆円は決して小さな額ではない。郵政民営化は、田舎に暮らす国民が少し我慢することによって、数十兆円の歳入を生み出し、国家財政の危機に対処するための重要な政策なのです。

もう一度、書きます。

郵政を民営化しても、国民生活の改善には寄与しません。ただし、将来の悲劇を緩和する一助にはなります。

5.

今回の選挙で問われているものがあるとすれば、それは国民の意識です。

日本のような巨大国家が破産したら大変なことになります。そこで急激なインフレによる借金の無効化が考えられますが、当然、これは国民にとってたいへんな苦痛となります。保険も貯金も無意味となりますし、貿易に依拠している日本経済も、相当の期間ひどい打撃を受けます。

私は、この郵政民営化よりももっと大事なことがあると言う人がたくさんいるのも知っています。しかし、この郵政事業を民営化できないでどんな大改革ができるんですか。と、首相は語りました。この発言は、まさに国民に対してぶつけられています。

郵政民営化の先にある真の大改革とは何か。それは年金支払額のアップと給付額のダウン、医療補助の削減と保険料の上昇、大増税と行政サービスの大幅な低下です。郵政民営化の小さな痛みにすら耐えられないなら、日本人は座して死を待つ他ない。当座の郵政サービス低下が心配な方は、どうぞ民営化に反対してください。

戦後の混乱期を乗り越え、高度経済成長を達成してからの30年間、問題を先送りしてきたのは誰なのか。それは国民自身です。そのツケを支払うか、破産して首を吊るか。冒頭に述べた通り、いずれ郵政は民営化されます。しかし国民の協力がなければ、必ず改革は遅れます。改革が遅れれば遅れるほど、先に待つ悲劇は大きくなるのです。

以上。

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  3. 「リフレ政策+歳出抑制→増税回避」のシナリオ
補注

緊縮財政と増税による財政均衡策は、クリントン政権のように強い景気を背景に行うべきです。ただし90年代以降、インフレで財政赤字を解消した先進国はロシアしかないことにも注意すべき。ロシア国民の窮乏を知る欧州諸国は、弱い景気の中で財政均衡に取り組んでいます。

増税+緊縮財政といっても、いきなり単年度で均衡予算を組むべきと主張したいわけではありません。財政が破綻する前に国債残高が上げ止まる見通しがほしいのです。じつは「リフレ+歳出抑制→増税回避」のシナリオに示す通り、年率5%のインフレを実現できれば、国債残高の対 GDP 比は増税無しで抑制できます。ただし高齢化社会の進展による歳出自然増の完全抑制を前提とした試算です。また、インフレの痛み(貯蓄が毎年5%ずつ減少)にも注意が必要です。

例えば民主党が年金目的消費税(3%)の導入を検討しているのは、リフレ政策に成功しても高齢者の増加による歳出の自然増を完全に抑制することが困難だからです。最低限の年金制度を保障し続けるためには、増税が不可避なのです。自民党の増税構想も同様に説明できます。(本文に戻る

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