前回までのあらすじ

以上4回の講座で解説してきたのは、作文がなぜ「書けないのか」ということでした。

喋ることはできる。文字も書ける。ではなぜ、作文は書けないのか。その理由は3つありました。

  1. 書きたいことがない
  2. 規定枚数が長い
  3. 先生に読まれる

3番目の問題は、簡単にはクリアできません。当面は親が子どもをきちんと誉め、精神的な防波堤を築くことで対処する他ない。そう割り切って、第1、第2の問題の解決に取り組んできました。

親子でテーマに沿って30分間以上会話し、これを録音すれば、発言の記録が十分に蓄積されます。その中から取捨選択して文字起こしし、ト書きで間をつないでいけば、とにかく「書けちゃう」ことを示しました。

本稿のねらい

前回までに提示他方法論では、文章の構成を問いませんでした。全体の話の流れも結論も、考える必要がないとしていました。なぜなら、次の2点を最優先の課題としたためです。

逆にいえば、既にこうした地点を通過している方にとっては、つまらない解説でありました。

本稿の狙いは、第4回までの作文講座を踏まえて、その先にあるステップアップの道筋を示すことです。

到達点

最終的に、どのようなレベルに到達することを目標としているか、簡単に述べます。

学校の先生に作文を誉められたり、コンクールで入賞したりする子はごく一部です。そのような方向性を目指しても、じつのところ、あまり意味がない。わずかな傑作を除けば、その多くは審査基準を逆手に取った「上手な作文」「誉められるための作文」です。それはそれでたいへんな能力の発露なのですが、誰もが目指すべき到達点ではありません。

これから世の中を生きていくにあたって、サバイバルの道具となる作文能力とは何か。それは、「思うところをきちんと文章にできる能力」です。口では考えを伝えられても、文章が書けなかったら、大きな障害となります。誰とでも会って話をできるわけではありません。文章でしか考えを伝えられない相手が、世の中には多数、存在します。

だから、「話す」ように「書く」能力が必要なのです。うまい作文でなくてもいい。支離滅裂でも、とりあえずはかまわない。ただ、お喋りはできるのに、原稿用紙に向かった途端に沈黙してしまう、そのような状況だけは、打破しなければなりません。

「会話」から「作文」へ

「会話」と「作文」の違いは何でしょうか?

「会話」では、相手がいます。自分の言葉に対して、相手は言葉、表情、しぐさなどの反応を返してくれます。用意していた言葉を使い果たしても、新たな発言の切っ掛けをつかめるのです。自分と異なる意見や、いろいろな疑問などに答えていく中で、次第に考えが深まっていきます。

「作文」は、孤独な作業です。自分の頭ですべての言葉を紡ぎ出す必要があるのです。力尽きたら、そこまで。

「作文が書ける」とは、どういうことか。それは、「ひとりで考えられる」ということです。反応を返してくれる人が誰もいないとき、自分で自分の言葉を受け止め、反論し、疑問を提起し、考えを深め、言葉を紡ぎ出していくことです。

ステップ1

作文講座の1~4回では、会話をそのまま文字起こしして作文へ仕立てていく方法を解説しました。

それは重要なステップでした。自分が何をどのように考え、相手のどんな言葉に反応して新たな言葉を作り出していったか、その生の状況をきちんと受け止め、自分の骨肉としていくことは、「ひとりで考える」ために欠かせない基礎体力作りのトレーニングだったのです。

ステップ2

次のステップは、「自分ひとりで語ること」です。指導手順は次の通り。

  1. 親子でテーマに沿って会話し、録音させます。
  2. 録音記録を何度も聞かせます。
  3. 会話の流れを記したメモを作らせます。
  4. 会話の内容をひとりで語らせます(メモを許可)。
  5. テープを聴きなおし、抜け落ちてしまった話がないかどうかチェック。
  6. 抜けがほぼなくなったら、ひとり語りを録音。
  7. 録音したひとり語りをもとに、作文を書かせます。

ステップ2では文字起こしをしませんので、30分以上お喋りをした上で、何らかの結論をが出るまで会話を続けてください。

ステップ2のポイントは、自分以外の誰かの意見を受け止め、語り直すことです。言葉は相手の発言通りでもいいし、自分なりに整理して短くまとめたものでもかまいません。

最後の作文を書く段階では、いつものようにパソコンで下書きさせてください。最初は枚数を気にせず、全部、書かせます。文字起こしではないので、録音した通りの言葉を用いる必要はありません。ただし、勝手に内容を削減しないよう、指導する必要があります。

30分間以上の長い会話をもとに自分で整理し語り直した内容を文章にすれば、必ず原稿用紙5枚分以上の長さとなります。ならないとすれば、それは途中で内容を端折り過ぎています。

全部書いたものを印刷し、冗長な部分、不要なを削り、規定枚数に合わせます。

なぜ最後のギリギリまで、内容を削らないのでしょうか? その理由は簡単です。ほとんどのお子さんは、長い文章を書くのが苦手です。なぜ苦手か? それは、無意識に話の展開を省略してしまうからです。小さなこと、つまらないこともおろそかにしない。とにかく一度は文字にする。どんどん書くことで、自然と、そういった感覚が身についてくるのです。

余計な言葉は削ぎ落とすことが大切、といった意見は悪くありません。ただ、それは成長過程の後期に設定するべき課題なのであって、作文がちっとも書けなくて困っている子どもに対する指導としては誤りなのです。

ステップ3

次の段階では、まず子どもに「保護者の方と会話した内容を発表するつもりで、自分の考えを説明してご覧なさい」と指導します。ステップ2の4番目を最初に行うわけです。これは口頭でやります。1分でも2分でも頑張って話すことができたら誉めましょう。

例えば、以下のような感じ(一部)で話をさせます。必ず録音してください。

「お父さんはきっと、そんなことに税金を使うのは無駄遣いだというだろうけれども、僕はそう思いません。なぜなら……」

次に、実際に親子で会話してみましょう。時間は数分で十分ですが、録音を忘れないことが大切です。このとき子どもは、保護者の方(=自分以外の誰か)の考えが、自分の想像力を大きく超えていることに気付きます。

2つの録音を聞き比べさせ、最初の意見発表と実際の会話を踏まえて、再び話をまとめなおすよう、促します。そして、新たな思い付きがあればそれも付け加えてよい、と支持した上で再び話をさせます。最初よりも長く、内容のある発言となっているはずです。

そしてまた親子で会話し、またまた再発表し、といった手順を繰り返します。

こうして子どもの発表が10分間近くとなれば、原稿用紙5枚分の作文は必ず書けます。しつこいようですが、録音は必須です。一時的には長時間喋り続けることができても、それは寝起きの夢のようなもの。原稿用紙1枚目を書いている間に、忘却の彼方へ消え去ります。

思ったこと、考えたことを忘れないためには、録音作業が必須なのです。

ステップ4

ステップ3と手順は同じですが、お子さんに対応する保護者の言葉を次第に変化させていきます。

これまで保護者の方とお子さんは対等の立場で会話してきました。その結果、会話を忠実に活かすステップ1では、作文の中心となる意見が、じつは子どものものではなくて、保護者の方のものというケースが少なくなかったはずです。ステップ2以降では、いったんお子さんに意見を受け止めさせ、語り直させることで、保護者の意見をお子さんの意見に同化させていきましたが、やはり大人が子どもを説得するような内容となりがちだったといえましょう。

ステップ4では、次第に保護者が撤退していきます。具体的には、お子さんの意見に対して保護者の意見をなるべくいわないよう気をつけます。保護者の発言は疑問や見落としの指摘にとどめ、子どもの意見を引き出すことに集中するのです。

なお、録音は相変わらず必須です。作文の材料となる会話の記録は、プロであっても録音するのだということは既に述べたとおりです。録音は絶対にしましょう。録音はいつまでたっても「しなくていい」ことにはなりません。作文を書く際に、それを聞くかどうかは重要ではない。録音する(間違いのない記録を残す)こと自体が大切なのです。

ステップ3までと異なり、子どもの幼い考えに付き合う必要があるわけですから、保護者にとっては大きなストレスともなりましょう。これに耐えられない場合には、ステップ3へ戻っても全くかまいません。

……と、いいますのは、私は今、「ひとりで考えられる子ども」を育成する道筋を示そうとしているわけですけれども、考えるためには知の蓄積が必要なのです。「馬鹿の考え休むに似たり」という言葉があるように、知の蓄積が不十分なまま「ひとりで考える」と、ろくな結果になりません。

イライラを我慢してでもステップ4へ突入するのもひとつの道ですが、「うちの子にはまだ早い」とステップ3へ戻るのも大切なことなのです。

また、折を見てステップ1やステップ2にも再挑戦されることを勧めます。ほとんどの親子は、ステップ1を実力不十分のまま卒業します。本当はもっともっとステップ1で頑張るべきなのに、文字起こしの手間に、あるいは会話をそのまま作文に取り入れていく制約に、音を上げます。そして「もうこのレベルは大丈夫」ということにしてしまいます。

ステップを上げることが重要なのではありません。真に重要なことは、作文を書くために必要な能力を獲得していくことなのです。録音記録を文字起こしは、「自分の思考の軌跡」と向き合う作業です。また「自分の考えを自分がいかに表現したか」という事実を受け止め、「話す」と「書く」の距離を縮めていくための最高の教材でもあるのです。

ステップ5

ステップ4がスムーズに展開するようになりますと、そのうちに子どもは最初から自分ひとりで作文に取り組むようになります。

幾度も親子で対話を繰り返していると、自分の中に「自分の意見に疑問をぶつけ、別の視点を示す、もうひとりの自分」が形成されるからです。ここまで到達すれば、自問自答を繰り返しながら、ひとりで自分の考えを深めていくことができます。

もちろんそのレベルは高が知れているかもしれません。ただ、小学生は小学生なりの、中学生は中学生なりの作文が書ければそれでいいのであって、原稿用紙3~5枚分の自分の意見を、内容はさておき、書き上げることができたなら「大したものだ」といってよいのではないでしょうか。

なぜ作文を書くのはつらいのか?」に書いたとおり、大人だって、5分間も話し続けるのはつらいことです。そのことを、思い出していただきたいのです。

下書きと清書について

なお、ステップ5に至っても下書きはパソコンで行うこと。手書きは清書のみ。

最初から原稿用紙に下書きするのは、学校の作文の授業だけで十分です。家でそんなことをする必要は、全くありません。また、下書き無しでいきなり完成原稿を作成するのは、受験用作文の領域です。夏休みの宿題としての作文という題材を通してテクニックを教え、鍛えるべき能力ではないと私は考えます。

拙速は避けましょう

勘違いしないでいただきたいのですが、ひとつの作文でステップ1からステップ5まで駆け抜けるのは不可能です。ひとつの作文につき、ひとつのステップしかクリアしてはいけません。ですから、最短でも5つの作文課題をこなさない限り、ステップを5つ上げることは不可能です。よろしいでしょうか。

通常は、ひとつのステップを通過するのに、2~5つの作文課題をこなす必要があります。つまり、今年の夏休みの宿題を全部こなして、ようやく次のステップへ進むことができるわけです。拙速は避けてください。

(2006-08-14)