概要をノートにまとめる

  科目:政治哲学
大テーマ:正義とは何か、公正とはどういうことか?
  方針:理性の不安を目覚めさせ、それがどこへ
     議論を導いていくのかをみる。

Lecture1

道徳の原理を探求する

Ex.1 故障した路面電車
Ex.2 5人の患者と1人の患者

【多数派の判断】
全員が状況の当事者+事態が切迫し判断が不可避な場合
→少数の命より多数の命の方を選ぶ
状況の外側にいる者を巻き込む+判断の自由がある場合
→多数を助けるために少数を殺さない

【少数意見】
多数のために少数の命を奪わない
死が不可避な状況でも積極的な選択はしない

多数派の判断から導かれる「道徳の原理」

1.行為の結果から良し悪しを判断する→帰結主義
   Ex.ジェレミー・ベンサム(イギリスの政治哲学者)
     功利主義
2.ダメなものはダメ、よいことはよい→定言的な道徳律
   Ex.イマヌエル・カント(ドイツの哲学者)

帰結主義と定言的道徳律の対比を見ていく→次回へ続く

政治哲学を学ぶリスク
個人的リスク:新しい観点を知り常識が揺らぐ不可逆変化
政治的リスク:社会との距離が広がる効果
         Ex.カリキュレスとソクラテス

*懐疑主義について
各自が独自の原理を持てばよく、議論は無駄。
カントの反論「懐疑主義は人間の理性の休息所である。
       しかし永久にとどまる場所ではない」

Lecture2

帰結主義と定言的道徳律の対比

帰結主義の代表:ジェレミー・ベンサム「功利主義」

【功利主義】
人間観察から見出された考え方
効用の最大化=正しい→「最大多数の最大幸福」
*効用:苦痛よりも快楽、受難よりも幸福

Ex. ミニョネット号事件(1884年7月)
  船長、航海士、給仕、見習いの4人が遭難
  →食料が尽きる/見習い船員が衰弱
  →船長と航海士は1人を食料にしようと考える *1
  →くじ引き案に給仕は反対(見習いは蚊帳の外)*2,,3
  →船長と航海士が見習いを殺害 *1
  →3人は遺体を食べ24日目に救出された
  →船長と航海士は起訴された

船長と航海士は道徳的に許されるか?
   現代  1884年
Yes 少数派 多数派
No  多数派 少数派

当時の世論「孤児だった見習い船員1人の犠牲で、
      故郷に家族のいる船員3人の命が救われた」

功利主義が導く結論への反論を整理すると、
定言的道徳律への疑問が浮かび上がる。

1.殺人は基本的人権の侵害。正当化はできない。
  →人間の基本的な権利の由来は?
2.個人を平等に扱う公正な手続きが必要である。
  →公正な手続きが殺人さえ正当化する理由は?
3.強要によらない、自発的な同意が必要である。
  →なぜ同意は道徳に影響を与えるのか?

次回→定言的道徳律から離れ、ベンサムとミルの
   著作から功利主義に内在する問題を検討する

Memo

このMemo欄では、ノートの補足解説をしていきます。理解の助けになれば幸いです。

3つの正義

アウトラインに示した通り、副読本『これからの「正義」の話をしよう』に従うなら、正義の説明は大きく「結果」「自由」「美徳」の3つに分類されます。

しかし実際のLecture1,2では、帰結主義(=結果の正義)と定言的道徳律が対比されています。自由の正義と美徳の正義が、ひとまとめにされているのです。その後も、講義の方では、明確に正義の3分類が登場することはありません。これは『ハーバード白熱教室』の見通しを極めて悪くしている原因のひとつです。