正義と道徳・1 モンテスキュー(フランス 1689-1755) 「本当に有徳な人は、最も遠い他人を助けるためにも、 友人に対するのと同様に迅速に駆けつける。 完全に有徳な人に、友人はいないだろう。」 →普遍的な人類愛を現実の人間の道徳の原理とする ことはできないのではないか? 共同体主義の2つの立場 1.正義は相対的なものであり、特定の共同体の慣習に従う。 2.正義は非相対的であり、共通善の追求の先に見出される。 ⇔義務論は共通善がないことを前提として自由な選択の 枠組み(=権利)の保障を正義としている。 サンデル教授は共通善を追及する 「正義の議論をする際、善や目的の議論は避けられない。」 国のルールを決める正義の議論を、個人や集団の道徳観念から 切り離すことは可能だろうか? Ex. 同性結婚を国家は承認すべきか? 国家による結婚の社会的承認=社会的な美徳への名誉の分配 意見1 結婚の目的が生殖活動の推奨であるとするならば、 同性結婚に国家が名誉を与える道徳的理由はない。 *個人の自由な結婚への寛容とは両立できる。 意見2 同姓婚は平等の観点から認められるべきである。 意見3 国家は結婚の道徳的価値に干渉すべきではない。 国家による結婚の承認自体を排するべきである。 次回→正義と道徳は分離可能か、さらに検討する。
正義と道徳・2 グッドリッジ対公衆衛生局の裁判(2003) マーサチューセッツ州最高裁判所 マーガレット・マーシャル判事による判決文 「多くの人は、結婚は男女間に限るべきであり、同性愛行為は 道徳に反するという強い宗教的、道徳的な信念を持っている。 同時に多くの人が、同性愛者には結婚する資格があり彼らは 異性愛者と等しく扱われるべきだという、同様に強い宗教的、 道徳的な信念を持っている。 どちらの見解も、我々の前にある問題には答えていない。」 「重要なことは、個人の自律性と法の下の平等の尊重である。 重要なことは、個人が2人だけの約束を交わす相手を自由に 選ぶことである。」 →裁判所はまず義務論的な中立の立場を表明したが……。 結婚は「我々のコミュニティの最も有益で大切な制度」である。 結婚の廃止は「我々の社会に必須の構成原理を粉砕する。」 →公的制度としての結婚は共同体に有益である。 「民事婚は、もう一人の人間との非常に個人的な関係であると 同時に、相互依存、交友関係、親密さ、貞節、家庭の理想を きわめて公的に賞賛することであもある。 民事婚に必要不可欠なのは、結婚したパートナー同士の独占 的で永続的な係わり合いであり、子どもを持つことではない。」 →結婚の社会的承認が持つ意義を検討し、同性結婚の中に 承認に値する道徳的価値を見出した。(中立の放棄) ・差別の禁止と選択の自由という観念のみに依拠すると社会的 承認の存在を擁護できない。→多数派の正義感覚に反する。 ・社会制度についての対立する解釈のどちらが妥当か判断する 方法は、a)慣習との整合性をみる、b)制度が勧奨する美徳を 検討する、のいずれかであり、教授は後者を推す。 反照的均衡(ロールズ「正義論」より) 個々の事例について私たちが下した判断と、それらの判断の 根拠となる一般的な原理との間を行き来すること。 「道徳哲学はソクラテス的である。私たちは、自分たちの さしあたりの判断も、一度それらを規制する原理が明るみに 出れば、変えたくなるかもしれない。」 →ロールズは反照的均衡の末に「権利は善に優先する」 という考え方について合意することは可能だが、 包括的な道徳的判断の共有は不可能だと考えた。 →だが実際には権利を巡る正義の議論もまた合意には 達しない問題なのではないか? 正義を道徳と切り離すことが相互的尊重を実現する唯一の方法 だろうか? お互いの道徳的・宗教的信念に耳を傾け、共通善を 追求する議論を重ねることこそが正義を実現する方法では? マイケル・サンデル 「道徳的、宗教的な意見の相違が存在し善についての多元性が 存在する限り、道徳的に関与することでこそ、社会の様々な 善を理解できるようになる。」 さて、理性の不安は目覚めただろうか? 今後も懐疑主義に 陥ることなく、正義や道徳について考えていってほしい。
サンデルは正義を相対的なものとするウォルツァーの考え方を批判し、絶対的な共通善を議論により追求するコミュニタリアニズムのあり方を提言しています。ウォルツァーとサンデルの違いは、「共同体の正義を見出すにはアンケート調査で十分なのか、それとも議論が必要なのか」とも表現できるでしょう。
サンデルはまた、リベラリズムが浸透した社会が美徳に関する議論などを回避し、道徳的不一致を抑制する風潮を生んでいることを批判します。
例えば同性結婚の是非について、リベラリズムは「異性愛者と同性愛者には平等な権利がある」「そもそも政府が特定の人と人の結びつきに特別な価値を与えることには道理がない」といった主張をします。それは結婚の目的という人々の美徳の観念を無視した主張です。価値観の異なる人々は美徳の議論で合意できないので、政治はそのような議論を回避すべきだと考えるのです。
しかしサンデルは講義の中で、学生たちの議論が「結婚制度は2人の独占的で永続的な関係を賞賛する」という結論に達することを示しました。いつもこのように結論が出るとは限りませんが、道徳に関与する政治は、公正な社会の実現をより確実にする基盤になる、とサンデルは主張します。