概要をノートにまとめる

Lecture15

ロールズの正義論・1

無知のベールの背後の原初状態
=お互いに年齢や性別、人種、社会的地位などを知らない状態

正義の原理は原初状態の人々が結ぶ仮説的契約から導かれる。

人々は最悪の状態を回避しようとする。
・自分は全体のために犠牲となる少数派かもしれない。
  →自らの基本的権利と自由を経済的利益と交換しない。
・自分は自由競争の敗者かもしれない。
  →社会的・経済的不平等を最小限とするべきだ。

ロールズ「正義論」の2つの原理
第一原理
 人々は消極的自由に対する平等な権利を持つ。この権利は
 他者の自由と両立しうる限り最大限広範囲に認められる。
第二原理
 社会的・経済的不平等は条件付で認められる。
  条件1.最も不遇な立場の者の利益を最大にする(格差原理)
  条件2.公正な機会の均等が保障される(機会均等原理)

ロールズへの挑戦:
人々が「自分が良い状態になる」ことに賭ける方を選ぶなら、
ロールズの示した正義の原理には合意しないだろう。

ロールズの道徳的な反論:
所得や富、機会の分配は、恣意的な要素に基づくべきではない。
  *恣意的=当人の意思・努力によって選択できないこと

Ex.1 封建的貴族社会の否定

ロールズは形式的な平等のもとで競争する自由市場システムや、
義務教育の整備など公正な機会均等のもとで競うの能力主義を
進歩だと認めるが、なお恣意的な要素があることを批判する。
「能力主義は依然として、富と所得の分配が、自然が分配した
 能力と才能によって決定されることを許容している。」
  →生育環境の違い、持って生まれた才能の違い、
   才能と社会の需要の適合、などは恣意的な要素である。
「恵まれた者は、恵まれない者の状況を改善するという条件で
 のみ、その幸運から便益を得ることが許される。」
  →不平等は格差原理を内包すべきだ。
    *平等な不幸よりも底辺の押し上げを選ぶことに注意。

次回→分配を左右する恣意的な要素について、さらに検討する。

Lecture16

ロールズの正義論・2

分配の正義の理論
1.リバタリアン 自由市場システム
2.能力主義   公正な機会の均等(義務教育制度など)
3.平等主義   ロールズの格差原理

格差原理への疑問とロールズの回答

1.インセンティブはどうなるのか?
  →最も不遇な者の助けとなるよう税率などを調整し、
   必要な範囲でインセンティブは擁護される。
   「生まれながらに有利なものは、より才能があるという
    だけの理由で便益を得るべきではなく、訓練と教育の
    費用を賄い、恵まれない者たちの助けになるように、
    その資質を使うべきである。」ジョン・ロールズ

2.努力はどうなるのか? (能力主義からの疑問)
  →勤労倫理や頑張る意欲でさえ、自分の功績だとは主張
   できない。(社会や家庭環境など偶然性の影響がある)
  →分配の道徳的な根拠は努力ではなく貢献である。

3.自己所有はどうなるのか? (リバタリアニズムからの疑問)
 「人生は公正ではない。人は、政府が自然の引き起こす
  ことを修正できると信じる誘惑に駆られる。」
  ミルトン・フリードマン(アメリカの経済学者 1912-2006)
  →「自然の分配は、正義でも不正義でもない。人が社会の
    ある特定の地位に生まれるのも不正義ではない。
    これらは単なる自然の事実である。正義や不正義は、
    制度がこういった事実を扱う方法にある。」ロールズ
  →私たちは自分自身を所有していない。そう仮定しても、
   基本的な自由は擁護できる。

ロールズの正義論の帰結:
分配の正義は道徳的対価とは関係がない。

道徳的な対価正当な期待に対する資格の違い
「公正な仕組みは、人間の持つ資格に応え、社会制度に基づいた
 人間の正当な期待を満足させる。しかし、彼らが持つ資格は、
 彼らの内在的な価値につりあうものではなく、あるいはそれに
 よってきまるものではない。
 基本的な構造を規定する正義の原理は、道徳的な対価とは関係
 ない。また分配の量が道徳的な対価と対応する傾向もない。」

とくに自分の才能を重んじる社会に生きているという偶然性は
個人の美徳を超えた問題であり、分配の正義の枠組みが、個人の
道徳的な対価と結びついてはいけないことを示す。

次回→平等主義に基づく義務論の限界を検討する。

Memo

無知のヴェールと価値中立的な正義

リベラリズムでは、公正な正義は人々の様々な価値観から中立な存在だと考えます。カントは特定の幸福の概念を支持するのは公正な正義ではないと主張し、ロールズは人々が合意できる2つの具体的な原理を示しました。

ロックは現実の議論を重んじ、国会主権を唱えました。これに対しリベラリズムは「公正な社会制度は仮想的な社会契約から生まれる」と主張します。カント、ロールズは「人々が自らの経験や価値観を前提として議論する限り、その結論は説得術に長けた者や、多数派に有利なものとなり、平等な権利に対して公正な制度とはなりえない」と考えたのです。

ロールズは仮想的な社会契約の具体的内容について、皆が自分自身について何ら情報を持たない「無知のヴェール」をかぶった状態で同意できる意見だと考え、「(1)すべての人々に基本的自由を保障する」「(2)社会的・経済的不平等は、最も不遇な人々の利益に資する場合、機会の均等な職務や地位に付随する場合に限り許容する」という2つの正義の原理を見出しました。

カントとロールズ

ロールズはカントの政治論を発展させた哲学者であり、公正な正義は仮想的な社会契約から導かれること、特定の価値観に組しないことを主張することなどで一致します。ただ、カントは幸福と道徳を切り分け、理性は人々を共通の道徳の原理へと導く、と主張しましたが、ロールズは2つの正義の原理の他に、様々な価値観を持つ人々が合意できる内容があるとは述べていません。